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序章 その男イコルと呼ぶ

新連載です。

 フィガロという都がある。そこは邪悪なビッグヘッド、エビルヘッドを崇拝するエビルヘッド教団が支配していた。

 かつてスペインはバルセロナより遥か北にあり、100数年前に建国されたのだ。

 200年前ほどに世界規模でキノコ戦争が起きた。人が大勢いる都市はことごとく炎で焼き尽くされた。さらにキノコの胞子は大地と海を腐らせる。粉塵は大空に舞い数年は太陽の光を閉ざした。これで人類は滅んでもおかしくなかったが人間はしぶとく生き残ったのだ。

 人間は神応石スピリットストーンにより変貌した。本能に目覚め獣のようになったもの。獣そのものに変貌したものなど様々だった。

 100年前に地中海に位置する箱舟の子孫たちがフエゴ教団を作り、中世ヨーロッパ風に退化した人間たちを教育し始めた。

 

「あっ、イコル様。おはようございます」


 猫の亜人の女性が声をかけた。標高が高いので厚目の毛皮を着ている。両手には壺を抱えていた。中身は乾燥させたリンゴだ。

 フィガロの街並みはきれいである。建物は芸術的で見る者を圧倒する。フィガロとは芸術家でエビルヘッドの盟友だった。その人が町の建物を作ったのである。現在は弟子たちがその事業を受け継いでいた。


地面は石畳で、建築物は三角屋根で二階建ての鉄筋コンクリートがほとんどで、規則正しく並んでいる。

 道幅は広く、馬車がすれ違っても余裕でかわせており、通行人も道の端を歩いていた。

 ガス灯が5メートル間隔で設置されており、かなり近代的である。

 特に目立つのが建物の屋根の下に彫刻があった。それはビッグヘッドだが目付きは鋭く鼻は鷹のくちばしのようで、牙の生えた大きな口を開いていた。

 フィガロの主神、エビルヘッドの像である。シンボルマークはEを逆さにしたものだ。

 これはエビルヘッドの名前に由来する。邪悪は英語でEVILと書く。

 つづりを逆さにするとLIVEとなる。生き延びるという意味だ。エビルヘッドはこれまでに3度死んでおり、生き返っている。ダジャレなのだがエビルヘッド教団では当然のように扱われていた。


 声をかけられたのは異質な男だった。背は160メートルだが体重は100キロ近いと思われる。全体が筋肉で大岩のようにごつごつしていた。

 肌は真っ黒に焼けており、身に付けているのは黒いパンツとサンダルだけだ。

 頭は毛が一本も生えておらず、まぶたは分厚い。鼻は潰れており、口は牙が生えていた。

 さらにこの男の耳からは毛が筆のようにふさふさで赤いリボンをつけていた。鼻毛も同じで青いリボンを巻いている。見た目からして人間とは思えない風貌だ。野生動物が近づいたらすぐに逃げ出しそうだが、通行人たちはまったく平気で挨拶をしている。


「イコル様、おはようございます」

「おはようございます司祭様」

「今日もいい天気ですね」


 全員が気さくに声をかけてきた。老若男女問わず彼の容貌を恐れるものはいない。このフィガロでは当たり前なのだ。

 彼の名前はイコル。人間で憤怒を司るサタン司教の孫であり、自身もエビルヘッド教団の司祭であった。見た目に反して彼は信仰深い人間であり、信者たちに慕われているのだ。


 サタン司教はユニコーンの亜人であった。父親は馬の亜人でスレイプニルという。こちらは9年前に粗相をやらかし生きたままビッグヘッドに喰い殺された。

 悲しいと思ったが、父親は信者に対して暴行を働き死に至らせた。一族の恥である。肉親の情よりも教団の教えが重要であった。家族が死んでもあまり悲しむことがない。それが諸外国においてエビルヘッド教団が嫌われる理由のひとつだ。


「あら、イコルじゃない。これから大聖堂に向かうのかしら?」


 声をかけたのは夜鷹の亜人の女だった。夜鷹とはヨタカ目ヨタカ科の鳥である。全長約29センチで、全体に茶褐色の細かい模様があり、くちばしは小さいが、口は開くと大きく、周りに長い剛毛をもつのだ。

夜、飛びながら昆虫を捕食し、キョキョキョと早口で鳴き、枝に平行に止まる。娼婦の隠語でもあった。

身に付けているのは皮の胸当てと腰巻、サンダルだけだ。毛に覆われており寒さに強い。

アスモデウスといい、32歳で色欲を司る司教である。父親が亡くなったので跡を継いだのだ。


「これは司教アスモデウス様。おはようございます」


 イコルは右手を上げて挨拶する。不愛想に見えるがアスモデウスは特に反応はない。それがいつものことなのだろう。


「あなたはモテるわね。でも信者に手を出してはいけませんよ。あなたは司祭なのですから節操ないのはだめですから」

「もちろんです。あなたは私が複数の女性を相手にするとお思いですか? 女たちに私の陰茎を口にさせ……」

「やめてちょうだい!!」


 突如アスモデウスは激怒した。聞くに堪えないと言わんばかりだ。目がらんらんと光っている。


「そういう品のないことは口にしないで頂戴! 耳に入るだけでも汚らわしいわ、若い頃からそんなことばかり言っているとろくな人間にならないわよ!!」


 彼女は色欲を司るが純潔を重要視していた。むしろ色欲を知らなければ罪深さを理解できない。エビルヘッド教団は七つの大罪を司る師匠はいるが、全員大罪より美徳を愛している。

 イコルも憤怒を司るが忍耐を重んじていた。


「申し訳ない。口が滑りました。以後気を付けます」

「そうしなさい。口は禍の元、特にエビルヘッド教団ではそれが顕著よ」

「そうですね。今日は大司教様に呼ばれているので気を付けないと」

「あら、大司教様に呼ばれているの。それなら……」


「うわー! 大変だ―!!」


 泣き叫ぶ声が聞こえた。野次馬がどんどん集まってきてお祭り騒ぎだ。イコルとアスモデウスは急いで声の元へやってきた。

 すると木材が数十本倒れており、人間の女の子が下敷きになっていた。母親らしい女性は泣き叫んでおり、数人の男たちが木材を取り除こうとするが、何分重いうえに数も多い。

 そこにイコルが前に出た。彼は両腕を伸ばし、天に上げる。そして力こぶを作った。フロントダブルバイセップスというポースである。

 するとイコルの鼻毛がわしゃわしゃと動き出した。それが人間の手の形を作る。さらに毛は蛇のように長くなり、木材をひょいひょいと持ち上げてしまったのだ。

 母親は子供に抱きつき泣いた。何度も何度もイコルに感謝の言葉を出す。子供は医者の元に連れて行かれた。


「さすがだねイコル様。鼻毛を自在に操るなんて」

「あれはヘアスキルというんだろ。鼻毛だけじゃなく耳毛も使えるそうだよ」

「まったくいい男ぶりだ。父親のスレイプニルとは格が違う」


 群衆はイコルを褒めたたえた。彼を慕う声は大きくまるで心地よい合掌である。しかしイコルの表情は暗い。

彼はそのまま大聖堂へ向かった。アスモデウスはそれを見てやれやれと首を振る。


 ☆


 エビルヘッド教団の本山、シオンディ大聖堂はひと際立派な建物であった。町の中心にあり、道幅もかなり広い。

 四方には大人より大きなエビルヘッドの鉄の像が立っており、建物を見守るように設置されていた。

かといって周りの建物より目立っているわけではなく、見事に街中と調和していたのである。

 これは168年前に芸術家フィガロによって建築されたものだ。

 周りは兵士の数が多い。ここにはエビルヘッド教団、大司教シオンディ四世が住んでいるのだ。


イコルとアスモデウスは大聖堂を守る騎士たちに挨拶され、中に入る。

さらに奥に行くと礼拝堂だ。かなり広く天井は高い。内装はステンドグラスにエビルヘッドの像が飾られていた。

像の前に大きな椅子があり、ヤギの亜人が黒いローブを着て座っていた。

彼こそエビルヘッド教団において最大の権力者、シオンディ4世大司教である。30代の男だが、堂々とした態度だ。


「司祭イコル、参りました」

「司教アスモデウス、参りました」


 ふたりは傅いた。シオンディ4世は苦しゅうないと声をかける。


「よくぞ参った。イコルよ、今日はそなたに頼みたいことがある。アスモデウスは下がってよいぞ」

「わかりました」


 アスモデウスは立ち上がると、礼拝堂を出て行った。イコルとシオンディ4世だけとなる。


「今回そなたを呼んだのは他でもない。そなたはレスレクシオン共和国に下り、エビルヘッドの偽物を退治するのだ」

「エビルヘッド様の偽物ですか?」


 イコルは聞き返した。シオンディ4世はうなずく。


「オルデン大陸の西方で暴れているのだ。猿から進化した種族モノオンブレたちを支配し、人間たちを虐殺して楽しんでおるのだよ。我らエビルヘッド様を崇拝するものとして看破できん。エビルヘッド様の意思に反することとなる。お前ひとりが偽物を退治しに行くのだ」

「承知いたしました」


 イコルは訊ねない。なぜ自分ひとりだけ危険な旅に出されるのかを。それはイコルがサタン司教の血の繋がった孫ではないからだ。18年前にコミエンソに住んでいたウトガルド商会の赤子ロキと、スレイプニルの赤子は取り換えられたのである。あらかじめウトガルドが亜人嫌いであることも調査済みで、亜人の血が混じった赤子と取り換えたのだ。

 それをある時期になったら本人たちに教える。相手を絶望のどん底に叩き落すためだ。その衝撃でロキがどのように変化するかの実験である。もっともロキは問題を起こし、罪人にされた。そこで計画を変更しロキに真実を教え、自分を罪人に変えた相手に復讐させたのだ。

 イコルのことはすでに他者に漏れている。サタンの家族はイコルに愛情を注いでいるが、他の人間はそれをネタに嫌がらせを行う者がいた。もちろんそんな輩は他の信者たちに袋叩きにされている。

 シオンディ4世がイコルひとりに行かせるのは試練だ。彼がひとりで解決すればよし、死んだらそれで終わりである。サタン司教もそれを承知しており、イコルも覚悟していた。


「君ひとりを行かせないよ。余もついていくからね」


 エビルヘッドの像からひょいと小さなビッグヘッドが現れた。スイカほどの大きさで人間の頭に手足がくっついたのがビッグヘッドだ。

 彼の名前はベビーエビル。エビルヘッドは数か月前にフエゴ教団の司祭の杖、フエルテによって斃された。だがエビルヘッドの神応石は回収されている。今の彼は過去の知識を受け継いだ4番目のエビルヘッドだ。


 ベビーエビルは高く跳び上がると、イコルの背中に憑りついた。身体は見る見るうちにカバンの形になる。それを見たシオンディ4世はため息をついた。本当は旅立ってほしくないが、無理強いしたのだろう。

 イコルはそれを見て、大司教に同情した。


「ソーサラーヘッドも補佐してくれるから安心してくれ。それに協力者も作るから大丈夫だよ」


 ベビーエビルが答えた。これからイコルの旅が始まるのであった。

 イコルはトゥースペドラーに出てきたロキという人間と交換されました。

 ネイブルパイレーツに登場したスレイプニルは義理の父親で、ロキの本当の父親です。

 イコルはサタン司教の元で育てられました。

 実はボスの設定に悩んでおりましたが、なんとか作り出せたので連載開始にしたのです。


基本に戻りマッスルアドベンチャーのようなヒロイックファンタジーを目指します。正確にはセガのゴールデンアックスのような話ですね。マッスルアドベンチャーのときもそうだったから。

正確には1991年にアーケードで稼働したデータイーストのアベンジャーズですね。マーブルコミックが原作です。

 ちなみにそのゲームに出てくるのは、キャプテンアメリカ、ヴィジョン、アイアンマン、ホークアイが出演しております。ラスボスはレッドスカルです。

 それとテクモのワイルドファングのような荒々しさを目標とします。

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