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9.召喚者、魔王を召喚する

 アキトの作り出した魔法陣からなんか出てきた。

 紫の長い髪から、なんかでっかい黒い角が突き出た幼女だった。


「魔王、アンブロシアじゃ!」


 ちっさいけど、アキトはその紅玉の瞳に高い知性を感じる。

 これは幼女じゃないな、ファンタジーにはこういう見た目の存在もいる。


 おそらく凄い長命の種族なのだろう。

 魔王は、いわゆるロリババアってやつなのだろう。


 アキトは、近頃のファンタジーには詳しいのだ。

 身につけている豪奢な漆黒の衣装と、辺りをひんやりとさせる凍てつかせるような空気は、いかにも魔王っぽい感じだし、なにより本人が魔王と言っているのだから間違いない。


「ギルドマスターさん。魔王を喚び出せましたよ」

「はあぁぁあああ!?」


 ギルドマスターは、信じられないとばかりに口をぱっかりと開けて、呆然と立ち尽くしている。

 猛烈な黒い瘴気を発する幼女魔王は、黒いマントをなびかせて、悠然と尋ねる。


「まさか、わらわを喚び出す力を持つ人間がおるとは思わなかった。召喚者よ、それで願いは何なのじゃ。この街を焼き払えばよいのか?」

「いや、そういうのはいらないかな」


 そこで、気を取り直したギルドマスターが鑑定の水晶を手に掴んで、魔王を鑑定しようとした。


「ま、魔王なんて喚び出せるはずが……」


 だがそれが魔王の気に触ったのか、ブワッと魔王から発した黒い瘴気で、歴戦の勇士であるはずのギルドマスターが壁まで弾き飛ばされる。


「ぐわぁぁああああああ!」


 大部屋にあった鑑定の水晶が粉々に砕け散る。

 いや、鑑定の水晶だけではない、部屋にあった鑑定系のアイテムが全て一瞬にして砕け散った。


「ひれ伏せ下郎め。人間ごときが、妾の力を測ろうとは不遜の極み。真の恐怖と絶望を教えてやるのじゃ!」

「あ、人間を殺したりしないでね。よくわかんないけど、そのゴゴゴゴゴッって黒い霧はすぐに止めて」


 アキトに怒られて、シュンとする魔王アンブロシア。

 魔王と言えど、召喚者には逆らえないはずなので危険はない。


「ぐぬぬ、召喚者よ。だったらなぜ、恐怖と破壊の申し子である妾を喚び出したのじゃ……」

「ああ、うん。テストだっていうから」


「テスト!?」


 今度は、魔王が口をぽっかりと開けて呆れている。


「魔王を喚び出せるかって言われたから、試しに」

「こ、この世の魔族全てを統べる妾を、試しに呼び出したのかぁああ!」


 なんか怒っちゃったよ。


「忙しいところだったのかな、ごめんね」

「忙しいとか、そういう問題ではないわい! 千年ぶりに喚び出されて、ウキウキして張り切って出てきた妾がバカみたいではないか! お前は一体何者なのだ、モンスター召喚について理解しておるのか?」


「そう言われるとあんまり……」

「それすらわかっておらんのか!」


「モンスターを召喚するのは、なにぶん初めてだったもので」

「初めてで魔王を召喚するなあ!」


「そうか、しちゃいけなかったのか」


 言われてみれば、こういう物は徐々にステップアップすべきだったのかもしれない。


「しちゃいけないということはないが、召喚には何らかの対価を払わなければならないのじゃ。モンスター召喚を行う際は、魔物や妾のような魔族は召喚者の魔力を代償としていただくことになっておる。お前から妾に流れ込んでくる魔力はとんでもなく凄まじい量で、質も極めて素晴らしい」


「そうなんですか、あんまり実感がないんですが」

「まるで甘い蜜のようじゃぞ。こんなに美味い魔力を味わったのは初めてだ。お前の魔力を一度味わったら、どんなモンスターもとりこになるのじゃ」


 そう言って、魔王は頬を赤く染めるとぺろりと舌なめずりする。


「それは喜んでもらえて嬉しいですけどね」

「しかし、いくら魔力量が多くても、強大なる妾を喚び出したのだから長くは保たないはずじゃ」


「そう言われれば、なんか身体が徹夜二日あけみたいに少しだるくなってきてますね」


 首筋がずっしりと重い、この感じはそろそろ限界がくるかも。


「魔王である妾を喚び出して、少しだるい程度なのか!?」

「はい、そんな感じです」


「お前は底知れぬな、どこまで強大な魔力を持っておるのじゃ。いや、それにしたって魔王に召喚魔術を解説チュートリアルさせるとか、前代未聞じゃぞ!」

「申し訳ない」


 アキトが頭をかいて謝ると、魔王アンブロシアは完全に呆れた。


「男が簡単に頭を下げるではないわい。お前は、この魔王アンブロシアを喚び出せるほどの大召喚術師なのじゃぞ。もっと偉そうにしろ」

「ああ、うん。できるだけ気をつけるよ」


 腰が低いのは、この前までしがない社畜をやっていたんだから仕方がない。

 しかし、そう言われればこれから冒険者家業をやっていくのなら、もうちょっと舐められないように威厳がある態度をとったほうがいいのかもしれない。


 そんなことをアキトもぼんやりと考えている。

 とぼけたアキトの顔を見ていて、魔王は吹き出してしまった。


「強大な魔力に似合わぬ謙虚な態度、お前のような変わったやつは魔界でも見たことがないのじゃ。用事がないならそろそろ妾は帰るが、喚び出されて何もせんのも魔力のタダ食いのようで気が引けるので、これをやろう」


 そう言うと、魔王は幼女っぽい見た目とは不釣り合いな、妖艶な微笑みを浮かべて黒い宝玉を差し出してくる。


「それは?」

「妾が知りうる限りの召喚術と、モンスターについての知識だ。お前は自分の強大な力の使い方を何も知らんようだから、それを見て少しは勉強するがよいのじゃ」


「そうなのか、助かるよ」

「ふふ、受け取ったな」


 アキトが屈んで黒い宝玉を受け取る時に、魔王アンブロシアは背伸びしてアキトにチュッとキスをする。


「んん?」


 なんでいきなりキスされたのかわからず、アキトは唇に手を当てて当惑する。


「お前が受け入れたことで、妾との従魔契約が結ばれたのだ。これでお互いの魔力が混じり合い、お前の魔力を少しずつ味わえるわい。クックッ、何か困ったことがあれば、また妾を喚び出すがよいぞ」


 そう一方的に言い残すと、魔王はさっさと消えてしまった。

最初に召喚したモンスターが魔王というお話。

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