8.召喚者、ギルドマスターに呼び出される
なんか、試験官のグラントが暴れたせいで、大騒ぎになってしまった。
そうして、アキトは左頬に大きな傷のあるいかにも歴戦の勇士みたいな初老の男性に呼び出されて、コロッセオみたいな訓練所の奥の間に通される。
なんか高そうな調度の大広間に、高そうな鎧や武器、異世界のアイテムがいっぱい並んでいる。
「俺は、このギルドのギルドマスターだ」
冒険者ギルドの代表者の人か。
これって、もしかして怒られちゃう流れかな。
「あの、さっきの壁の弁償とかは……」
「あれは、グラントのバカが勝手に先走ったものだから気にしなくていい。あのバカは近頃調子に乗っていたから、むしろお灸を据えるのにちょうどよかった。礼を言いたいぐらいだ」
よかった。
怒られちゃうのかと思ったよ。
「それにしても、素晴らしい剣技だったそうだな。クレアがべた褒めしていたぞ」
クレアって誰だろうと聞いたら、さっきの優しい受付嬢のお姉さんのことだったようだ。
どうでもいい情報だが、ギルドマスターの娘らしい。
「クレアの話によると、相手の力を利用して相手を倒す、トーヨーの武術を使ったそうだな。異世界で学ばれてる剣技か?」
「いや、あれは武術なんかじゃないですよ。ただの偶然って……ん、異世界?」
そんな話は一言もでてなかったはずだ。
なんで、アキトが異世界からきたとわかるのか。
「アキトのスキル、『言語理解』、『鑑定』、『空間収納』、『心身強化』、こうして並べて見れば、見る人が見れば一目瞭然なんだ。知っている人間が見れば、組み合わせですぐにお前が異世界から召喚された勇者だとわかる。スキルの開示には気をつけることだ」
「そういう物なんですか?」
そう聞くと、ちょっと不用心すぎたかもしれない。
「もっとも、気づく者はそうはいないだろうが、それなりに知っている人間ならお前のスキルは特別だと察する。特にその『心身強化』だな」
「これがなにか凄いスキルなんですか」
「よくある『身体強化』と間違われやすいが、その数倍の価値がある上位スキルだ」
身体強化は確かグラントも使ってたものなあ。
「そんなに凄いものだとは思いませんでした」
「もっとも、どれほど高いスキルを持っていても、それを活かせるかはその人間の知性や精神力にもよる。偶然にせよ上手く使って勝てたなら、相当の能力をもっているということだ。お前の状況を見通すような目を見ていると、グラントが武術の経験があると勘違いしたのもわからなくもない」
ギルドマスターは元Aランクの冒険者であり、若い時に祖国の英雄として異世界勇者と一緒に戦ったこともあるらしい。
自分のようなAランク以上のベテラン冒険者や、各国の王族、高位聖職者にはそのあたりの詳細情報を知っている者もいるから気をつけろと詳しく教えてくれる。
「そこまでバレてたらしょうがないですね。俺は確かに異世界から召喚されましたけど、勇者ってわけじゃなくて……」
ギルドマスターはいい人そうだから、アキトは腹を割って事情を話してしまう。
「そうだったのか。勇者となれば、国の英雄としてちやほやされるのに、それを断るとは珍しいやつだ」
「せっかく新しい世界に来たんだから、自由に生きてみたいんです」
やりがい搾取のブラック企業で働いてきたから、無理な期待を押し付けられて、苦労させられるのはもうまっぴらだった。
「俺も今となっては、その気持ちがわからなくもないが」
ギルドマスターは、左手で右腕をさすって、しかめっ面でつぶやく。
どういう意味だろうとアキトが黙っていると、ギルドマスターは慌てて言葉を続けた。
「あ、いや……お前の事情はわかった、冒険者ギルドは強い人間なら誰でも歓迎だ。早速、魔術の方もテストさせてもらおう」
どうやら、まだ試験は続くらしい。
「そうですか。どうぞ、お手柔らかに」
「それで何ができるんだ。召喚術師だと聞いたが」
「俺には『全召喚』ってスキルがあるんですが、これがどうやら何でも呼び出せるみたいで」
「何でもだと? いや、どんなスキルにも限界はあるはずだ」
「多分ないんじゃないかな」
異世界勇者が喚び出せたぐらいなんだから、なんだって喚べるだろうと思う。
「そんなはずはない。召喚師のポピュラーな戦い方だとモンスター召喚だが、限界がないなら魔王アンブロシアだって喚び出せるっていうのか?」
「やってみせましょうか」
物は試しなので、アキトは魔王とやらを喚び出してみることにした。