52.召喚者、新しい国へと旅立つ
旅に出て数日、アキトは遠くにある鬱蒼とした森を見つめながら、あれがギルドマスターが言っていたロータス大公国だろうかと思いを馳せる。
「森と湖畔の国か。楽しみだなテトラ」
「美味いのだ! 美味いのだ!」
気がついたら、焼肉屋にもらった弁当をかなりテトラが食べてしまっている。
おいおい、俺の分は残しておいてくれよと苦笑しながら、食べたいなら食べさせてもいいかともアキトは思う。
最近のアキトのマイブームは、塩辛い干し肉をワイルドに齧ることだ。
初めての旅ということで、保存食はかなりこの世界の物を市場で買い漁ってきている。
異世界の素朴な干し肉はもう凄まじい量の塩が使ってあって、齧ると水分が奪われて口の中がヒリヒリするのだが、これがいい。
あんまり食べすぎると塩分のとりすぎになるから程々にしておくべきだが、いかにも冒険者な気分でいいのだ。
素早く野を駆けるワイルドウルフスライムの背中にでも乗って移動すれば、もっと早く楽に行けるのだろうが、今はこうやってゆっくり旅気分を楽しんでいるところなのだ。
自分で小枝を集めて薪を燃やすとか、日本にいたら絶対にできない経験で実に面白い。
寝起きするテントは日本の製品だし、薪に火を付けるのはライターを使って楽しちゃってるのだが、まあそこはご愛嬌。
自分らしく冒険者気分を満喫していければ、アキトは幸せだった。
「さて、もう少し歩こうか」
「あるじ、近くに猪がいる匂いがするのだ。取ってきていいのか?」
「いや、もう肉はいいよ」
最初はアキトも付き合って狩りを楽しんでたのだが、テトラは限度というものがないので鹿肉も猪肉も、空間収納にいくら入れていても切りがないくらい取ってくるので困る。
「そうなのか。ちょっと退屈なのだ」
「まあ暇なら戻ってもいいんだが、護衛はいないと困るから。もう少し退屈しててくれ」
「そうなのだ。こうすれば、早く目的地につくのだ!」
ひょいっとアキトを背負って、テトラはビューンと走り始めた。
「おいおい」
「風を切って走るのは気持ちいのだー!」
確かに風が気持ちいい。
キャンプ生活もそろそろ十分楽しんだし、これもいいかとアキトは思う。
風の行くまま気の向くままだ。
鬱蒼とした森がぐんぐんと近づいて、よく見ると森の奥に向かって獣道が続いているのが見える。
獣道の傍らに立っている小さな山小屋には人気はなく、立っている看板にはかろうじて『ここから先、ロータス大公国』と書かれている文字が読み取れる。
こうして新たな国でも、アキトの冒険は続いていくのであった。
アキトの旅は続く……というところで第一部完結です。





