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異世界無双の召喚者 ~無限に使える召喚術が普通に異世界最強でした~  作者: 風来山


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48.勇者パーティー、不死身の悪鬼ダイダロスと戦う

 いつものように躍り出た勇者タケヒトに、聖槍せいそうのクリスティナは忠告する。


「いいか勇者タケヒト! ダイダロスの弱点は胸にある赤い魔石だ! あれを砕かねば不死身の悪鬼の肉体は何度でも復活する!」

「はいはい、なんども言わなくてもわかってるっての! 俺の力があれば今回も楽勝よ!」


 いやいや、お前楽勝だったこと一回もないだろとクリスティナは思ったが、ツッコんでる場合じゃない。


「とにかく、お前は魔石を狙って聖剣で叩け! あとはこっちがやる!」


 難しいことを勇者バカに言っても無理なのはわかっている。

 お膳立てをこっちがやるしかない。


 聖騎士たちは、馬に乗ってダイダロスめがけて駆ける。

 邪魔になっている取り巻きのギガントサイクロプスを一体でも多く潰すため、命がけの特攻だ。


 チュンチュン!


 何かが空気を切り裂くようなかすかな音が後方から聞こえて、ドサッとダイダロスを取り巻いていたギガントサイクロプスが倒される。


「一体何が!?」

「アキト様ですわ!」


 勇者パーティー全体に防御呪文をかけている姫聖女ソフィアが厳かに言った。

 不可思議な技の全てをアキトのせいにするのもどうかとクリスティナは思ったが、召喚術師が出したらしきスライムが味方しているこの状況を考えるとそう判断してもいいだろう。


 この戦場のどこからか、アキトも手伝ってくれているのだろうか。

 協力してくれるのはありがたいが、それを当てにしすぎるなとクリスティナは自戒した。


「では、私もやるべきことをやってきます!」


 クリスティナが後ろからいくのは、全体の状況を見なければならないからだ。

 勇者パーティーなのだから本来は勇者が率いるべきなのだが、そういう器ではない。


 ダイダロスがさっと手を振っただけで、地獄の瘴気が発生し聖騎士二人を馬ごと弾き飛ばした。

 だが、よくやった。


「うぉおおおおお!」


 ほんの少しでもダイダロスの注意が逸れた。

 その隙きに乗じて、勇者タケヒトが聖剣クラウ・ソラスの一撃をダイダロスに叩き付ける。


「ぐぁああああああああ!」


 ダイダロスは、山が震えるほどの絶叫をあげて、聖なる光に真っ二つにされた。

 胸の赤い魔石も砕け散る。


「やったぜ! クリスティナ、ソフィア見たか、これが勇者タケヒトの正義の一撃だ!」


 勇者タケヒトは、勝ち誇ったようにこちらを向く。

 そのたるみきった姿に、クリスティナはゾクッと嫌な予感を覚えた。


「待て、勇者タケヒト! 油断するな!」


 剣術には、残心という心得がある。

 勝ったと思った時ほど、油断が生まれる。それを戒める教えだ。


 慎重に戦況を見回すクリスティナでさえ、これは決まったというその時だからこそ、万が一に備えなければならない。

 そうして、クリスティナの悪い予感は当たった。


 倒されたはずのダイダロスが、復活した。

 しかも、ただ復活しただけでなく。


「二体に分裂しただと! 勇者タケヒト避けろぉおお!」


 油断しきっていた勇者タケヒトが、「えっ?」と振り向いた瞬間、二体に増えたダイダロスたちが一斉に地獄の業火を口から噴き出した。


「うぎゃあああああ!」


 それをまともに浴びてしまう勇者タケヒト。


「お前には、ブレスにも耐性があるだろ、さっさと逃げろ! クソ、この素人が!」


 勇者タケヒトには、確かに様々な耐性を持っている。

 常人ならば一瞬で魂まで消し飛ばされる地獄の業火も、勇者タケヒトにとっては火で炙られる程度の威力しかない。


 だが、勇者タケヒトの精神は鍛え上げあげられた戦士のそれではない。

 ただのド素人の高校生なのだ。


「あずぅうううう! ぎぃぇええええええ!」


 火で炙られた程度の痛みと苦しみで、簡単に戦闘不能に陥ってしまう。


「タケヒト様、何をやってるんですか!」


 姫聖女ソフィアがプロテクションをかけて痛みを和らげるが、それでも痛みにのたうち回っているだけだ。

 自分がやるしかないと、クリスティナは覚悟を決めた。


 聖剣クラウ・ソラスほどではないが、クリスティナの聖槍もオリハルコンを含む神聖な武器である。

 あとは、それを扱う自分の実力を信じるしかない。


 敵わぬまでも、勇者タケヒトが逃げ切る時間を作らなければ。


「いくぞ、パトリシア!」


 愛馬パトリシアを全力で走らせ、手近な右のダイダロスめがけて跳躍し、捨て身の一撃を仕掛ける。


「てやぁああああ!」


 クリスティナの全力の突きは、ダイダロスの胸にある魔石を撃ち抜いた。

 同時に、強烈な殴打で弾き飛ばされるが元より相打ち覚悟。


 地面に強かに打ち付けられて血反吐を吐いたクリスティナは、それでも一体は倒せたと笑みを浮かべる。


 だが――


「バカな……」


 確かに弱点である赤の魔石を砕いた。

 それなのに、一度崩れ落ちたはずのダイダロスの身体がまた再生していく。


 クリスティナが懸命に作った隙に逃げ出せた勇者は、怒りを込めて聖剣クラウ・ソラスを打ち込んでいるが、もちろんダイダロスの不死身の肉体は何度砕かれても再生する。


「クソッ、クソッ、クソッ! ぎゃぁあああああ! 死ぬ! しむぅうう!」

「タケヒト様、何をやってるんです。早く逃げてください!」


 勇者タケヒトは、怒りに任せて乱れ打ちを浴びせるうちにダイダロスに捕まり、踏み潰されて何度も何度も痛めつけられる。

 のたうち回っているだけならまだしも、頼みの綱の聖剣から手を離してしまっているのが痛い。


 いや、聖剣や聖槍を使っても倒せなかったのだが……。

 リムレス王国の最後の希望である、聖剣や聖槍の力が不死身の悪鬼ダイダロスに通用しないならば絶望しかない。


「このままでは、終わりだ。どうすればいい、誰か、誰か助けてくれ!」


 それでもなお諦めきれずに聖槍を拾い上げて立ち上がったクリスティナは、そう叫ぶしかなかった。

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