38.召喚者、ワイルドドラゴン退治を報告する
賢者スライム、スラインが提案する。
「それでは早速、オリハルコンスライムを作りましょう。食べてよろしいですか?」
「もちろん頼むよ、防御力の強化は大事だ」
パクパクモグリ。
オリハルコンの塊を丸呑みにしたスラインは、金ピカに輝くオリハルコンスライムを生み出した。
「あるじさま、ハルコーン!」
なるほど、そういう鳴き声になるわけか。
オリハルコンだと長いもんなあ。
ミスリルスライムは守るっていってたんだが、どうもスライムたちの鳴き声の規則性は謎である。
もしかしたら、気分なのかもしれない。
まあその辺りは、有用性があればいいだろう。
ミスリルスライムでも炎のブレスをあれほど鮮やかに防御できるのだから、オリハルコンスライムの価値は高い。
アキトたちがそうこうしている間にも、ドワーフたちは電動の削岩機を使って、掘れるだけのオリハルコンを掘り返している。
「うはは、入れ食いじゃあ!」
「こんな便利な道具があるとは思わなかったからなあ」
貴重なオリハルコンはいくつあってもよい。
掘り返すだけ掘り返したオリハルコンの塊を抱えて、アキトたちはホクホクでワイルドの谷を後にすることにした。
「あるじ、美味しそうな匂いがするのだ」
鼻の利くテトラがそんなことを言う。
「どういうこと?」
「さっきの巣穴のところなのだ」
さっきオリハルコン山のてっぺんをぶち込んで潰したドラゴンの巣穴から、美味しい匂いが漂っているという。
「うーん。気になるから蓋を開けてみるか」
こっちはオリハルコンスライムもできたから、炎のブレスを吐かれても大丈夫だろう。
もう一度、召喚術で入り口の蓋を取り除いてみると、確かに肉の焼けるいい匂いがする。
「なんだこりゃ」
ライトを召喚して、巣穴の中を調べてみるととんでもないことがわかった。
「英雄殿、こっちに壁を掘ろうとして力尽きたワイルドドラゴンの死体が多数あるぞ」
「こんな倒し方があったんじゃな」
どうやらバカなワイルドドラゴンは、巣穴に閉じ込められたことで恐慌を起こして一斉に炎のブレスを連発したようだ。
もちろん、ドラゴンが自分のブレスで死ぬわけはない。
毒を持つ生き物のように、ドラゴンは炎のブレスに対する耐性を持っている。
「あるじさま、これは窒息死ですな」
賢者スライム、スラインの推理力が冴えを見せた。
「なるほど。密閉された空間で炎のブレスを吐きまくったから、一酸化炭素中毒を起こして死滅したのか」
ワイルドドラゴンはおそらくレベルの低い竜なのだろう。
知性があったら、こんなバカなことはしないはずだ。
ワイルドドラゴンが全て死滅しているという信じられない光景に、ドワーフたちがビックリしている。
「こんなドラゴンの倒し方、史上初じゃぞ!」
「アキト殿は強大な魔力を持つだけでなく、恐ろしい智謀の持ち主なのじゃな」
「いや、偶然だから。狙ってやったわけじゃないからね」
まあそれはそれとして、せっかく倒せたのだから死体はありがたく回収しておくけども。
こうして、アキトたちはオリハルコンの塊と、大量のモンスターの死体を土産に冒険者ギルドへと帰ったのだった。
「先に言っておきますけど。ワイルドドラゴン退治をしました」
「は、はい!」
冒険者ギルドで、アキトは最初に宣告しておく。
毎回、受付嬢のクレアにビックリ仰天されても困るのだ。
「だから、驚かないでくださいね」
「すでに驚いてますけど。ちょっと待ってくださいね、ギルドマスター。いえ、全職員に招集をかけます!」
全職員って、ギルドの運営どうするんだと思うが、まあ留守番ぐらいは置くのだろう。
いつもどおり裏の闘技場に行って、討伐したモンスターを出すアキト。
と、その前に。
「なんですか、アキトさん」
「いや、もうクレアさんが倒れるのパターンじゃないですか。あらかじめ支えて置こうと思って」
「あ、でもちょっと恥ずかしいです。そんなにしてもらわなくても、覚悟はできてますから……」
いや、前もそう言って倒れたよね。
パンツが見えるほうが恥ずかしいんだよと思って、アキトはかまわずしっかりと片手で抱くようにクレアを支える。
そして、空間収納からワイルドウルフ、ワイルドベア、ワイルドドラゴンをドサドサっと取り出す。
「なんでずり下がるんですか!」
「きゃぁあ!」
「いや、きゃぁあじゃなくて、ああまた!」
ズルっと下にずり落ちて、スカートがめくれそうになったので、アキトは慌てて手でおさえる。
「おい、アキト。さすがに父親の前でそういうことはだな……」
「私もみんなの前では、恥ずかしいです……」
ああ、なんとかスカートは死守したが、抱きかかえるような体勢になってしまっている。
「そんなこと言うなら、娘さんはギルドマスターが保護してくださいよ」
最初からそうしてくれれば、こんなことになってないのに。
受付嬢のスカートの丈も前から言ってるのに、短いままだし、こういうとこ改善してほしい。
「まあ俺も、お前が相手なら娘を任せても……いや、そんなこと言ってる場合じゃなかった。アキトは、ついにワイルドドラゴンの巣穴を死滅させたんだな」
アキトがどうやってワイルドドラゴンの巣穴を潰したか、ギルドマスターはすでにドワーフたちから報告を受けている。
「たまたま倒せたみたいなもんなんで」
「いや、それ以前に巣穴を潰すって発想がなかった。こんな倒し方があったなんて、俺達はがく然としたよ」
そもそもが、ワイルドドラゴンが何十匹も群れている巣穴に積極的に乗り込んでいったのがアキトが初めてなのだ。
その行動自体が、英雄以外の何者でもない。
「まあ、倒せたんだから結果オーライですかね」
「申請すればすぐにSランク昇格になるんだが……アキトはしないよなあ」
「ええ、今で十分満足してますし、面倒ごとはゴメンですから」
「だよな。忘れてくれ。じゃあ、細かい算定はいまから俺たちでやっとくから、また後日きてくれ」
気を取り直したクレアが、大量の金貨と金塊を持ってくる。
「アキトさん、三百万ゴールド分あります。ちょっと一部、銀行のほうが鋳造が間に合いませんでして」
「ああいいですよ。ありがとうございます。金塊も、何かの役に立つかもしれませんしね」
むしろ素材として使うには、そっちのほうがありがたいかもしれない。
オリハルコンの塊を見ててアキトは、子供の頃に綺麗な鉱物を見るのが好きだったことを思い出したのだ。
観賞用として置いておくのも悪くないだろう。
なんだったら、ドワーフたちの採掘所というのも一度見てみたいものだと思った。
「英雄殿、今日の仕事は終わりじゃから飲みに行かんか!」
「いいですね。じゃあ、いきますか」
いつもの行きつけの店に、アキトとドワーフたちは繰り出していくのだった。





