36.召喚者、ワイルドの谷で冒険する
ドワーフの二人をお供に、アキトはワイルドの谷へとやってきた。
ミスリルの丘よりも、さらに地盤が硬い岩でできている。
ここを掘ればオリハルコンが出てくるというのも、わかる気がするな。
掘るのが大変そうだが。
「なかなか不気味なところだな」
「英雄殿、ここから先は強いモンスターが……」
「あるじ! 敵が来たのだ!」
大型のオオカミの群れが姿を現す。
グルルルルルッと唸り声を上げて、鋭い牙のついた大口から、ダラダラとヨダレを垂らしている。
Cクラスモンスターワイルドウルフか。まさに魔獣だ。
群れで行動するから、こいつらは厄介だ。
「スライム軍団配置につけ、テトラをサポートだ」
「御意!」
賢者スライムのスライン率いるスライム軍団が左右に分かれて、真ん中をテトラが行く。
「ワ、ワシらは」
「俺たちは下がって見てれば大丈夫ですよ。戦闘開始!」
真ん中のテトラが、五、六匹のワイルドウルフを引きつけて、左右から魔法系スライムたちが一斉射撃を始める。
「キャイン、キャイン!」
血に飢えた魔獣のごときワイルドウルフたちが、テトラに斬り裂かれ、スライムたちの魔法で一気に突き崩されていく。
途中で戦意を喪失して逃げようとしたが、スラインは逃さずにフロッグスライムの上に乗って、上から魔法で討ち滅ぼした。
「ジャンプ!」
「なるほど、フロッグスライムはああ使うのか。勉強になるな」
褒められて、スラインは恥ずかしそうにぷるぷる身を震わせた。
「いえいえ、それであるじさま。ご提案なのですが、ワイルドウルフの死体をいくつかもらってワイルドウルフスライムも作ってみたいと思います」
「なんでもありだな、構わないぞ」
パクパクもぐもぐ。
「ワイルド!」
今回はそのまんまの叫びで、ワイルドウルフなスライムが五匹も誕生した。
「パワーとスピードを兼ね備えた強個体となります。騎兵的な使い方がよろしいかと」
「なんだか、スラインが言っていたとおり本当に軍団になってきたな」
賢者スライムのスラインほどではないが、他のスライムもワイルドウルフ相手に撃ち負けていなかった。
スライムって実は最強生物なのではないだろうか。
なんで、魔族は便利スライムを戦闘に有効活用しないのだろう。
「他の者が使役しては、我々もこうは上手く働けません。これも、あるじさまの魔法力があってのことです」
「なるほど、俺の召喚魔法があってのことか」
それなら、悪用を心配しなくてもいいな。
「あるじ、新手が来たのだ」
今度は、Bクラスモンスターワイルドベアだな。
図体のでかい巨大なクマの魔獣だ。
「ちょっと待った、この世界のクマに銃が効くのかやってみたい」
テトラたちを下がらせると、アキトは拳銃を取り出してよく狙って引き金を引いた。
パーン!
アキトは、召喚した武器を完全に使いこなすことができる。
見事なヘッドショットで、クマはバタリと倒れた。
うん、ちゃんとこの世界のクマも、頭を撃ち抜けば倒せるようだ。
「さっきのは何なのじゃ」
「その筒から火が出たように見えたが、あれでワイルドベアを一撃で倒せたのか」
ああ、ドワーフはこういう武器の構造が気になるのかなと銃の原理を説明する。
「英雄殿は天才か!?」
「火薬はこの世界にもあるが、筒で火薬を爆発させて鉛の玉を飛ばすなど聞いたこともない発想じゃ」
物欲しそうに見つめるので、拳銃をあげることにした。
「こ、これをワシらにくれるのか」
「もっと強い武器があるから、さっきのは試し撃ちしただけだし、あと俺が作ったわけじゃないから」
アキトの世界の武器で、工場製品なのだと説明する。
「ワシにも見せてくれ、なんて精巧な細工じゃ。アキト殿の世界の職人は、なんて奇天烈な武器を作るんじゃ」
「ああ、人間が手で作ったわけじゃなくて、大量生産する工場があるんだよ。なんだっけ、まずマザーマシンを作るんだったか」
中途半端な知識だが、アキトが知ってることを教えてやると、ドワーフたちは顎を地面につけそうなぐらいぽかんと口を開くと。
そのあと、大騒ぎし始めた。
「天才じゃ! 天才の発想じゃ!」
「アキト殿の世界は、職人の天国じゃな!」
そうだろうか。
ドワーフたちに、元いた世界のことを説明していくうちにアキトは思う。
オートメーション、大量生産。分業化が進みすぎて、人が何のために働いているのかわからなくなっている世界だった。
アキトにしたって、誰に感謝されることもなく事務所の片隅で雑務をこなし、一年過ぎたらゴミになってしまう紙束をかき集めて、数字を合わせることに汲々としていただけだ。
今から思うと、自分は何のために命をすり減らして死にそうになるまで働いていたのかわからない。
この世界はそうはなってほしくない。
「銃はあげるけど、どうか君たちは働く人が幸せになれる世界を作っていってね」
「ああ、任せておいてくれ。ワシらは、ミスリルの丘の採掘所を立て直して、みんなの役に立つ道具を作るんじゃ。この銃みたいな武器ができれば、狩人も助かるじゃろ」
「ワシは、少なくとも新しい発見があれば幸せじゃよ! いろいろ教えてくれた英雄殿には感謝じゃ!」
「それはよかった」
新しい銃を手に入れて子供のように目を輝かせるドワーフたちを見て、アキトもこんな風に生きていきたいと思う。
アキトが与えた銃はドワーフたちに研究され、射撃武器に火薬を使うという発想から奇妙な武器が生み出されることになる。





