35.召喚者、防御面の強化を検討する
アキトが今日も冒険者ギルドに行こうとすると、マールたち『オークスレイヤー団』が手を振ってやってきた。
「アキトさーん! ミスリル取れましたよ!」
「おお、ありがとう」
前にゴブリンロードから手に入れたミスリルよりも、ずっと綺麗で純度が高そうだ。
受け取って持ち上げて見ると、丈夫なのに凄く軽い。
この辺りは、魔法金属の凄さを感じる。
掘り当てたドワーフたちも得意げだ。
「最高のやつが掘れたから、慌てて持ってきたんじゃ」
「そうなんだ。急がなくてもよかったのに」
村の復興だってこれからのはずだ。
どちらかといえば、そちらを優先してほしくもある。
「これで少しでも英雄殿に恩が返せると思うと、居ても立ってもいられんでのお」
「そうですか、それはありがたいです」
「それでどうするんじゃ。武器にするのか、防具にするのか。もしよければ、ワシらで鎚を振るってもええぞ」
なるほど、ドワーフには鍛冶屋もいるのか。
召喚の道具に使えればいいと思っていたのだが、そう思ってるとポケットの青い宝玉がブルブルと震える。
「なんだ、スライン」
賢者スライムのスラインが姿を現すと、厳かに提案する。
「あるじさま、それは足りない防御力の強化に使ってはいかがでしょうか」
「防御面か?」
そういえば、生身のままというのは危ないのかもしれない。
だがなあ。
「お、ワシらがミスリルの鎧でも作ろうか?」
「いや待ってくれ。気持ちは嬉しいが、身軽なほうが楽なんだよ」
今の異世界の服は、ゆるっとしてて気分がいいのだ。
襟元をネクタイで締めてびっちりしたスーツを着て出勤なんて、アキトはあんな窮屈な思いをするのは二度とごめんだった。
ガッチリとした防御力の高い鎧だって似たようなものだろう。
「そうか、なにか装備を作ってやれればと思ったんじゃが、残念じゃのう」
「それじゃあ、テトラにミスリルの爪とかを作ってやってほしいかな」
「おお、それはできるぞ」
アキトはテトラも喚び出して、サイズ合わせをさせる。
スラインが別の提案をしてくる。
「では、あるじさま。ミスリルスライムを作ってはいかがでしょう」
「ミスリルスライム?」
なんでも、スラインの話では、ミスリルスライムなら可変型でミスリルの盾にもなるし、いざとなれば鎧のように身体を覆うこともできるから、連れて歩ける防具になるのではないかというのだ。
「なるほど、じゃあそれでいこう」
「はい、ではそのミスリル塊をください。もぐもぐ……」
スラインは、ミスリル塊を呑み込むと、分裂で銀色に輝くミスリルスライムを生み出した。
「あるじさまを守る!」
「頼もしいな。よろしく頼むぞ」
アキトは、ミスリルスライムを撫でてやった。
表面がつるつるしていて気持ちいい。
「あるじさまの魔力とリンクさせておきましたので、プロテクションの魔法を使うこともできます」
「さすが賢者スライムだな。何から何まで助かる」
褒められて得意げなスラインがさらに提案する。
「とりあえず当面はこれで良いとして、ミスリルではもっと強い敵を相手にしたときに防御力が足りません。ここは、オリハルコンやアダマンタイトなど更に強い素材を手に入れるべきと考えます」
「オリハルコンにアダマンタイトか。採掘にいくのも面白そうだな」
それについては、ドワーフたちが教えてくれる。
「オリハルコンのある場所なら、ワシらに心当たりがあるぞ」
「ワイルドの谷の奥に鉱床があるのじゃ。かの最強金属、オリハルコンは王者の輝きを放ち、掘り出せたドワーフはドワーフの王と呼ばれて称えられた伝説なのじゃ」
光り輝くオリハルコンは王者の金属と言われていて、聖剣の材料にも使われているらしい。
「じゃ、掘りにいくか」
気軽に言うアキトに、ドワーフたちは驚く。
「ワイルドの谷には、強大なモンスターがわんさと出るのじゃ」
「いや、他のモンスターはともかく、ワイルドドラゴンの巣穴があるのじゃぞ!」
アキトは平然と答える。
「ドラゴンなら、前にも倒したことがあるから用心していけば大丈夫でしょう」
ドワーフたちは唖然としている。
「な、なんと……」
「そうじゃ、アキト殿は竜殺しの英雄じゃったな。それなら、ぜひワシらも連れてってくれ!」
オリハルコンを掘り出すことは、ドワーフの最大の栄誉らしい。
「じゃあ、お願いするかな」
「やった!」
鎚を持ったドワーフと、大斧を持ったドワーフが今回の冒険についてくることとなった。
そして、いつもの冒険者ギルド。
受付嬢のクレアさんが、笑顔で応対する。
「アキトさん、勇者パーティーに入ってくれと城から矢のような催促が……」
「お断りします」
「はい、それで前回の査定額なんですが二百四十万ゴールドでした」
「じゃあそれはカードに貯めておいてください」
「了解です。それでですね、今回こそワイルドの谷でドラゴン退治の依頼はどうでしょう!」
「じゃあ、それをお引き受けします」
「はいはい、アキトさんはドラゴン退治はダメですよね……って、引き受けるぅうう!?」
そんなに驚くところがあっただろうか。
「あれ、もしかしてダメですか?」
「ダ、ダメじゃないですぅう! 依頼書、依頼書どこだった! 受けてくださいお願いします!」
必死なクレアがあたふたと取り出した依頼書にサインしながら、アキトは苦笑いを浮かべる。
「あんまり期待されても困りますけどね。目的はドラゴン退治じゃなくて、オリハルコンを掘りに行くことなんで」
「オリハルコンって! それはそっちのほうが凄いことなんですよ!」
ただの鉱石を掘り出すのがそんなに凄いことなのだろうか。
この世界の常識がわからないアキトは、キョトンとしている。
ああ、この人ってそうだったなあとクレアはため息をつくと、笑顔でお見送りする。
「とにかく、気をつけていってらっしゃいませ」
冒険者ギルドは、「竜殺しのアキトが竜殺しの依頼を受けたぞ!」「これでワイルドドラゴンが全滅する!」と蜂の巣をつついたような大騒ぎになっている。
いやいや、だからドラゴン退治が目的じゃないと言ってるのになあとアキトは頭をかいた。
ともかくこうして、アキトたちはいよいよワイルドの谷へと歩を進めるのだった。





