25.召喚者、ヒュドラ退治の依頼を引き受ける
次の日、アキトはまた冒険者ギルドに姿を見せる。
「おい今日も来たぞ、竜殺しだぞ」
「もう竜殺しどころのさわぎじゃないだろ、全殺しのアキトって呼ぶべきじゃないか」
「もうギルドマスターが対応するのが当たり前になってるな」
「たった一人で魔王軍の侵略を押し返すとは、本当に大したものですね」
いつもどおり冒険者たちがざわついてるが、アキトは意に介さないで、ギルドの受付の方に行く。
クレアが対応する。
「アキトさん、国の方から勇者パーティーに入ってくれって矢のような催促なんですが……」
「お断りしてください」
「はい、あのオーク退治の報酬なんですが、全額で百六十万ゴールドでした。よろしいでしょうか?」
「かまいません。いつもどおりカードにいれておいてください」
「それでですね、今度こそワイルドの谷のワイルドドラゴン退治とかはどうでしょう!」
またワイルドを勧めてくるのかと、アキトは笑って依頼の掲示板を眺めた。
ギルドマスターがさっさと出てくる。
「アキト、念のために言っておくがオーク退治の依頼はもうないからな」
「みたいですね。次はどうするべきか」
「地図を見てくれ、馴染みの森、ミスリルの丘ときたんだから、この肥沃の湿地はどうだ」
「ふむ。近いですね」
戦う場所が王都から近いほうが助かる。
「だろう。次はこの辺りが順番かなと思ってな」
「なるほど、一つ一つ順番にこなしていくわけですね」
「この湿地帯に、魔王軍の侵攻の影響なのか嘆きの沼というのができてしまって、そこからモンスターが湧き出してきているんだ」
「沼からモンスターが出てくるんですか」
「ああ、ジャイアントフロッグやワームが出る。沼の瘴気を止めようとしても、ボス的なモンスターである大水蛇に阻まれてしまう」
「なるほど、巨大なカエルに人食いミミズみたいなやつですよね。大水蛇もゲームで知ってます。どうやら手頃な敵っぽいですね」
大水蛇を手頃な相手というのがめちゃくちゃなのだが、なにせアキトである。
相手はドラゴンのような大ボスではないし、それぐらいならすぐなんとかなるだろうと思われた。
「うむ、湿地帯の敵を一掃してくれるとみんな助かるんだ」
ギルドマスターの方も、もはや一掃前提である。
「わかりました。じゃあ嘆きの沼のヒュドラ退治の依頼を受けてみます」
「ありがたい!」
こうして、アキトは出かけていった。
「沼のモンスターは結構強いのに、アキトさんは引き受けていったね」
クレアが不思議そうに聞く。
なんで大水蛇退治を受けて、ドラゴン退治は受けないのかと疑問に思っているのだろう。
「まだそんなに付き合いが長いわけじゃないんだが、あいつの考えてることはなんとなくわかる」
「えっ、ほんと?」
「ああ、ドラゴン退治って特別だろ」
「そう言われればそうだけど」
「あいつは、別に弱いモンスターと戦いたいわけじゃなくて、普通の冒険者がやるような普通の冒険をやりたいんだと思う」
だから、近場から順番にやっていこうと勧めたら引き受けてくれた。
「普通って、普通の冒険者はモンスターを全滅させたりしないよ」
「俺にも信じられないんだが、あいつは自分が普通じゃないってよくわかってないみたいなんだ」
「そうなんだ。もしかして、嘆きの沼のヒュドラ退治を依頼したのにも深い考えがあるの?」
「アキトなら、湿地帯をモンスターから奪い返してくれるかもしれない」
肥沃の湿地と言われているほどの場所なのだ。
昔から屯田兵をおくり干拓の努力は行われているが、モンスターの妨害のせいで上手く行っていない。
あそこが入植可能になれば、王国は新たな穀倉地帯を手に入れることになる。
みんなの生活が豊かになることだろう。
「うーん。どうなるかわからないけど、お金を銀行から出しておくね」
「ああ頼む」
次は一体報奨にいくら必要になるのか、その点はギルドマスターも恐ろしいところであった。





