24.召喚者、宴会を楽しむ
アキトはマールたちに食事も奢ると言われたが、これからマール村の復興を頑張るオークスレイヤー団に金を払わせるわけにはいかない。
「行きつけの屋台があるんだ。そこに行ってみないか」
「屋台ですか、悪くないですね」
マールたちも頷いてくれたので、久しぶりにこの世界で初めて入った焼肉屋のところに行こう。
あそこなら奢ってくれるから、どっちが支払うとか揉めなくていい。
「あれ、屋台がここにあったんだけど。営業時間外だったかな」
お城の近くの市場に来てみたんだが、いつもの屋台がどこにも見当たらない。
毎日やってるって言ってたのにな。
「アキトさん。この店じゃないですか」
「いや、俺が探してるのは屋台なんだが」
「でもこの店、焼肉屋アキトって書いてありますよ」
「えー!」
なんで、自分の名前のついた店が市場にできてるんだ!?
さっそく店に入ってみると、あの時の焼肉屋が、串肉を焼いていた。
「あー、アキトさん来てくれたのか!」
「俺、名前を名乗ったっけ?」
ここは無難に美味しい肉が食べられるので何度か通ってはいるんだが、自己紹介した記憶はなかった。
「アキトさんの黒髪黒目は珍しいからな。冒険者ギルドに突然現れた謎のルーキー、最強の竜殺し召喚術師アキト・スナカワだろ。そりゃ俺だってピンとくるよ。もうアキトさんは、王都で結構有名になってるんだぞ」
そんなことになっていたのかとアキトは驚く。
アキトは、自分が特異な存在であるとまったく気がついていなかった。
「それより本当によく来てくれた。この店を見てくれよ、ようやく空き店舗が借りられて店を始められたんだ」
「そうか、夢だって言ってたもんな」
アキトの与えた調味料で繁盛したおかげもあるが、この店の出す猪肉の質は元からいいのだ。
適当な商売をしてる連中も多い中で、焼肉屋は良心的な商売で信用されてたから店を持つのは時間の問題だと思っていた。
「それで恩人の名前を店につけて、あんたが来てくれるのをずっと待ってたってわけだ。なんならアキトさんも共同経営者になるか。この店はきっと繁盛するぜ」
「いや、俺は商売をやるつもりはないから」
店なんか持ってしまったら、自由に生きられなくなる。
「そっか、一番いい席を用意するから今日はたくさん食べていってくれよ。もちろんアキトさんも、アキトさんのお仲間もタダにしておくからな!」
「ありがたくごちそうになるよ」
アキトも金ならあるのだが、焼肉屋には後で料金の代わりに調味料をあげたほうが喜びそうだ。
席につくと、さっそく大量の串焼きが運ばれてくる。
「さっそくいただくか」
アキトたちは、ジュージューと美味そうな音を立てる焼き立ての串焼き肉にむしゃぶりつく。
「美味い! アキトさん凄い美味いですよ! こんな店があるなんて知りませんでした」
まだ年若いマールたちは感激して、旺盛な食欲で串焼き肉を食べまくっている。
若い子が喜んで食べる姿は、見ていて気持ちがいい。
「そう思ったらまた来てやってくれ。俺もこの店が一番美味しいと思うからな」
素材の味もさることながら、仕込みが丁寧なのだ。
焼肉屋は、本当に料理が好きなんだなって伝わってくる。
味噌や醤油の味付けが、アキトには堪えられない美味しさだ。
焼肉屋はこの世界では珍しい調味料も、上手く使いこなしているようだ。
「英雄殿、今回はほんとに世話になった。酒はどうじゃ」
「ああ、ありがたくいただくよ」
一杯奢ってもらうという約束だったなと、ドワーフから酒を注いでもらった。
王都の大衆的な酒は、にごり酒である。
穀物を自然に発酵させてあるのだろう。濁りがあってちょっとだけ乳製品のような味わいで悪くはないのだが、少し味が薄い感じがする。
ドワーフは酒好きと聞くから、もっと濃い酒のほうがいいんじゃないだろうか。
「こっちも返杯をしなきゃならないな。俺の世界の酒も飲んでみてくれ」
アキトは、召喚術で金貨をワインやブランデーと交換する。
「お、これはワインか。こんな上質な物は見たことないのじゃ。こっちは?」
「ワインはこの世界にもあるんだな。こっちは、ブランデーという蒸留酒だ」
まあ一杯と、ブランデーをコップに注いでやると、一気に飲み干したドワーフがブルブル震えだした。
「かー美味い! なんて美味さじゃ!」
酒に目がないのだろうもうひとりの鎚戦士のドワーフがそれを聞きつけ、我にもくれと飲み始めた。
「こっちのワインも、なんて濃厚な味じゃ。目ん玉が飛び出るほど美味いぞ!」
二人ともオーバーリアクションしていて面白い。
「よろこんでもらえてよかったよ」
アキトはというと、ワインやブランデーはドワーフたちにくれてやって、自分はちびりちびりと大衆的なにごり酒を飲んでいる。
特にアルコールに強くないアキトは、こっちの世界のどぶろくのような薄いにごり酒でも十分美味しい。
異世界の酒というだけで面白いではないか。
原始的な手法で作られているのが自然な感じがして、これはこれでいいものだった。
「村が取り戻せて、美味い酒に料理があって、今日は最高じゃな!」
「英雄殿には、一体どんな礼をすればええんじゃろか」
ドワーフたちが相談しているのを聞いて、もぐもぐ串焼きを食べていたマールたちも真顔になる。
「アキトさん、改めてお礼を言います。僕たちは、アキトさんに返しきれない借りができた。何かお返しできることがあったらぜひ言ってください」
マールが代表してそう挨拶した。
「お返しか……」
「お礼に、私がアキト様のお嫁さんになってもいいです!」
顔を赤くした魔術師のエマが手を上げた。
「おい、誰がエマに飲ませたんだよ。こいつに飲ませちゃダメっていつも言ってるだろ!」
「英雄様に迷惑だからやめろ!」
暴走し始めたエマを、周りが慌てて止める。
「アハハ、礼で結婚を申し込まれるとは思わなかったな」
「ちょっとみんな邪魔しないで、私は本気よ!」
エマは十七歳ぐらいだろうか。
艷やかな若草色の長い髪にクリクリとした緑色の瞳が可愛らしいが、アキトからしたら若すぎる。
告白は嬉しいが、男女は十歳も歳が離れてると話が合わないというから、よく知らない女の子に告白されても困ってしまう。
ここは、酒の席の冗談にしておいたほうがいいだろう。
「エマがすみません。お酒飲むといつもああなんですよ」
「可愛いお嬢さんにそう言ってもらえると大変光栄だが、今回の礼には他の物をもらうことにしよう」
マールは目を輝かせる。
「なんでしょう。本当になんでもするつもりです!」
「あの採掘所では、ミスリルが取れると聞いた」
「はい、かつては銅とミスリルが村の収入源でした」
「村が復興できたら、一番最初にできたミスリルを貰えるかな」
ミスリルは、現代兵器と交換できた。
ちょっと持っておけば、次も何かの交換に使えるかもしれないと思いついたのだ。
「おお、それは嬉しいわい。ワシらの腕の見せ所じゃ」
「任しておいてくれ、最高純度のミスリルを掘り当てて見せるぞ」
アキトがミスリルを求めたので、ドワーフたちは自分たちの得意分野だとたいそう喜んだのだった。





