2.召喚者、勇者を召喚する
異世界勇者召喚の魔法陣がピカッと光って、その中央にいかにも異世界勇者になりそうなイケメンな若者が登場した。
学生服だから、おそらく高校生だろう。
召喚する側から見るとこんな感じになるのかと、アキトも興味深く観察した。
同時にアキトは魔法陣とのつながりを自分から、高校生の若者へとすり替える。
「ほら、できましたよ」
姫聖女が、唖然とした顔でつぶやく。
「まさか、こんなことができるなんて信じられませんわ!」
召喚されたのは、ウルフヘアーのちょっとやんちゃそうな高校生だ。
鑑定の水晶を向けた王様が叫んだ。
「凄いぞ! 本当の勇者だ!」
アキトも姫聖女や王様が持ってる鑑定の水晶をそっと覗き込んで見ると、高校生は職業がすでに勇者だった。
スキルも、アキトも持っている異世界人の標準装備、『言語理解』『鑑定』『空間収納』『心身強化』に加えて、『神聖剣術』『上級格闘術』『火魔法』『水魔法』『土魔法』『風魔法』『雷魔法』『毒耐性』『麻痺耐性』『睡眠耐性』『気絶耐性』『対魔法耐性』などなど、水晶に表示しきれないくらい使えそうなスキルがたくさん並んでいる。
こりゃ本物の勇者だと、一目でわかる。
自分で使ってみてわかったのだが、召喚魔術は望んでない人間は喚び出せないようになっている。
喚び出したアキトの感覚だと、この高校生は勇者になりたがってるはずだ。
しかし、間違いということもあるので、一応本人に確認してみることにする。
アキトは、すげーすげーと感動の面持ちで、周りを見回している高校生に話しかける。
「あのちょっといいかな」
「なんだいおっさん。もしかして、俺と同じ日本人なのか」
そういうってことは、もう状況がわかってるのか。
さすが勇者に適性のあるやつだ。
「そうなんだけど、君は魔王を倒す勇者として喚び出されたんだけど、オーケーかな」
「オーケーに決まってるだろ。こんな熱い展開を、俺は待ってたんだ!」
勇者君の方はオーケー。
王様も、「おお勇者殿、なんと頼もしい!」と喜んでいるようだし、これなら大丈夫そうだ。
苦難に立ち向かう主人公なんかは、やりたいやつにやらせておけばいい。
アキトは、ゆっくりと異世界を満喫できる脇役で十分だった。
「それじゃあ、俺は勇者じゃないみたいなんで、ここから出ていってもいいでしょうか」
アキトがそう言うと、王様が一瞬考え込んだが、うむうむと満面の笑みで応えた。
「もちろん約束は守る。アキト殿、勇者召喚ご苦労であった。これは少ないが、礼として持っていってくれ」
なんと王様は、中にたっぷり金貨の詰まった革袋を渡してくれた。
やった、これで当面の生活費はなんとかなる。
「ありがとうございます。それでは、私はこれで失礼します」
「え、ちょっと待ってください。アキト様!?」
姫聖女がなんか呼び止めてきたけど、アキトは面倒ごとになる前にさっさと城から逃げ出すことにした。