15.召喚者、ドラゴン退治を報告する
アキトは、テトラになるべく動きやすそうな皮の服を買うと、もう一度召喚して服を着せておいた。
「そのまま、一緒にいくか」
「一緒に行きたいけど、あるじの魔力は大丈夫なのか?」
召喚し続けていると、その分だけ魔力を食うことにはなる。
ただ、魔王を召喚してるときと比べたら、大したことはなかった。
「特に問題はないようだから、一緒に来てよ」
実際にゴブリンを倒したのはテトラだし、連れて行ったほうが、話が早いと思ったのだ。
そうして、早速アキトは冒険者ギルドに報告しに行った。
「アキトさんだいぶ遅かったですね」
「ええ、結構時間がかかっちゃいまして」
まず、薬草を出す。
「かなり集めましたね。ああ、他の植物もあるんですね。よかったらみんな買い取りますよ」
何に使うのかわからなかった硬めのツタはロープに、しびれヨモギは毒草の類なのだが、しびれ薬を作って敵に攻撃できたりするそうだ。
意外なものが使えたりするし、毒も場合によっては有用な道具になるということだろうか。
その発想はなかったので、今度は毒草も集めて置こうと思うアキトである。
「それで、ゴブリンも倒されたんですよね」
「ああ、えっと。ちょっとここではスペース的に無理なんで、外に来てもらえますか」
アキトは、クレアを連れてギルドの裏の空き地にまでいく。
「ここならいいかな」
そういって、ドサッと三百匹を越えるゴブリンの死体を山盛りにして出した。
「これはまた……」
「ちょっと数がわからないんですよ。数えるの面倒くさいですよね、すみません」
「い、いえ。凄くありがたいんですけど、なんかもう想像を遥かに超える討伐数で、少し驚いてしまって、こちらこそごめんなさい。ああ! ゴブリンロードもいるじゃないですか。これ、アキトさんが退治されたんですか!」
クレアさんが唖然とする。
「ああ、それは俺が召喚した、このモンスターが倒してくれたんですよ」
「テトラなのだ。よろしくなのだ!」
テトラに握手されて、それに応えながらクレアは言う。
「アキトさん。テトラさんは、モンスターじゃないですよ。知性を持った善い獣人ですから、人間扱いです」
クレアの説明だと、なんでも獣人は善悪の属性があって、悪い方だけがモンスターと呼ばれる存在になるそうだ。
高い知性を持ち、性格も温厚なホーリーワータイガーは、魔族や魔物ではなく人間側の方に分類されるようになるらしい。
「なるほど」
どうりで、黒い宝玉のモンスター知識でわからなかったはずだ。
モンスターと人の境って、結構曖昧なものなのだなあ。
「それにしても、最初の冒険で凄い活躍をされたされたんですね。さすがアキトさんです」
「いえいえ、やったのはテトラですから」
テトラはえっへんと胸を張る。
「ここまでとは思わなかったので、報酬が足りるかどうか心配になっちゃいますね」
そういうとクレアさんは、いたずらっぽく笑う。
「あ、そうだ。違うモンスターでもいいって言ってましたよね」
「はい。何か他に倒されたんですか」
これなんですけどと、アキトが空間収納からコロリとドラゴンの首を出しすと、クレアは悲鳴を上げて腰を抜かす。
「わわわ!」
「大丈夫ですか」
「ワイルドドラゴンを倒されたんですかぁああ!!」
「あの、とりあえず立ちませんか」
「あ、すみません……」
何よりも先に、アキトはさっさとクレアを引っ張り上げる。
受付嬢の制服は、意外にそのなんというか……スカートが短くて、ピンク色のパンツが見えてしまっていた。
紳士としては、眼のやり場に困るところだ。
クレアとしてはそれどころではないのだろう。
転がったドラゴンの首を恐る恐る確かめるように触って、「ひゃあ!」と叫んでいる。
「このドラゴンが、クレアさんが言っていたワイルドドラゴンだったんですか」
「そ、そうですよ。でも、いくらホーリーワータイガーのテトラさんでも、このドラゴンの首を取るなんて難しいんじゃ」
「あ、これは俺が倒したんですよ」
そう言われて、クレアは絶句する。
「あ、違いますよ。召喚した強い武器を使ったんです」
「……やっぱり、アキトさん最強なんじゃないですか!」
「いやいや、そうではありません。俺じゃなくて使った武器が強かっただけですよ」
どうも、ファンタジーの人には説明しづらい話だ。
「わかりました。いえ、よくわからないんですけど、とにかくアキトさんの『全召喚』がめちゃくちゃ凄いってことですね」
「そう理解していただければ」
クレアは、どうやって倒したかより気になっていることがあるのだ。
「でも、アキトさんたちが行ったのは近場の『馴染みの森』ですよね」
「そうですね」
深刻そうに形の良い眉根を顰ませるクレア。
「ワイルドドラゴンは、ワイルドの谷の奥にいるんですよ。習性的に、王都の方には絶対来ないはずなのに、もしこっちに来るようになっていたなら大変なことです!」
言われてみれば、こんなドラゴンが近くの森にいたら危なくて仕方がない。
これは国にも報告して、他の冒険者にも警告しなければならないと、クレアは慌てる。
「大変なことなんですね。じゃあ、そっちの用事を先にどうぞ」
「あ、あの。でも、これ全部買い取りしてもいいでしょうか。ドラゴンの素材はとても貴重なので!」
クレアが物欲しそうに流し目を送ってくる。
「ああ、もちろんいいですよ」
「よかった! 申し訳ないんですが全部でいくらになるかわからないし、すぐうちのギルドで全額払えるとも思えないので、即金でまず百万ゴールドと目算して出しておきますね。おそらくもうちょっと出せると思うんですが、残りは次に来ていただいた時にでもお支払いするということで」
「それでいいです。手持ちのお金が少なくなってたので助かりますよ」
一ゴールドが、金貨一枚なので、百万枚か。
アキトは、いきなりお金持ちになってしまったようだ。
大量の金貨を運んできたクレアは、さっそく馴染みの森にドラゴンが出たという注意喚起を始めた。
それで、同時にアキトがワイルドドラゴンを倒したという話がバレてしまい、冒険者ギルドが蜂の巣をつついたような騒ぎになってしまったのだった。
まあそうなるよねという話。





