12.召喚者、最初のモンスターを喚び出す
ゴブリンは、背の低いモンスターであまり強そうではない。
二、三匹ならアキトでも倒せそうだ。
初心者向けのFクラスモンスターと言われるのも当然だった。
「でもせっかくだから、モンスター召喚を使ってみるか。えっと、魔王とか高位の魔族はまずかったんだよな。じゃあ、ゴブリンが倒せそうな程々に強いモンスターっと」
アキトの望みによって出てきたのは虎男だった。
「がおー!」
鋭い爪と牙を持つ虎男は、なかなか強そうだ。
「よーし、じゃあいっちょゴブリンを退治してきて」
すぐさま駆けていくと、一瞬にしてゴブリンの首が刎ね飛ばされた。
一撃で、三匹とも倒しちゃったよ。
「ゴブリンに虎男は、ちょっと強すぎちゃったかな」
「がおがお!」
なんか、白と黒の縞々模様のワータイガーは、バッサバッサと不満げに長い尻尾を左右に振っている。
「え、なんか悪いこといった?」
「がお」
このモンスター、がおしかしゃべれないのか。
そういえばモンスターの知識がわかるんだったなと、魔王にもらった黒い宝玉を使ってみる。
『これは、ワータイガーという半虎半人のモンスターだ。動物のお肉が好物だ。あと、モンスターには名前を付けるのをおすすめするぞ』
「なるほど、種族名が違ったから怒ったのか。うーん、とりあえず名前を付けるか」
「がおがおがお!」
全部がおしか言わないが、今度は喜んでる感じ。
「よーし。じゃあ、虎丸……はダメか、虎太郎は? これもダメ」
「ががおがお!」
がおがおしか言わなくても、なんとなくわかるようになってきた。
もっと違う名前がいいらしい。
「じゃあ、テトラは?」
「がおおおん!」
テトラと名付けられたワータイガーは、がおおおんと嬉しそうに吠えるといきなりブルブルと身を震わせた。
猫背だった身体は完全な二足歩行になり、身体から虎の毛がブワッと抜けて辺りに散らばる。
「えっ、なんで人間型に……って、女の子だったの!」
「だから、さっきからそう言ってるのだ」
顔とか胸のあたりの毛がごっそりと抜けて、人間の女の子とほとんど変わらない状態になった。
なんで女の子だとわかったかというと、割と大きめな胸が丸出しだったからだ。
これはいけない。
「裸はまずいよ。とにかく。もうこれでいいや。これを着て」
「なんか動きにくそうな服なのだ」
アキトが着ていたシャツを着させることにする、とりあえずの処置だ。
贅沢は言ってられない。
「いいから早く着て。ああ、前のボタンを留めないと意味ないでしょ!」
「このボタンというやつは、難しいのだ」
人間に姿がかなり近づいたとはいえ、指は肉球で虎の爪まで生えている。
そりゃ、シャツのボタンは留められないだろう。
「ああ、もう俺が留めてあげるよ」
「助かるのだー」
男に胸を見られても恥ずかしくないのか、テトラはのんきなものだ。
まったく、こっちのほうが焦ってしまう。
「はあ、これでよしと」
なんだか、戦闘より疲れてしまった。
女の子が裸でシャツ一枚というのも、あんまり良くない服装だった。
ズボンも履かせようかと思ったのだが、これから戦闘になるのにこれ以上動きにくくされても困るとテトラは主張する。
なんだか知的なことを言うようになったな。
「あるじが我に名前を付けたことで、従魔契約が結ばれてテトラはモンスター進化して賢くなったのだ」
「そりゃ、よかったね」
アキトの魔力の影響で、ホーリーワータイガーという上位種になったそうだ。
早速黒の宝玉でホーリーワータイガーについて調べてみるが、反応しない。
「ん?」
モンスターならなんでもわかるわけではないのか。
本人が、強く賢くなったと言ってるので、悪い変化ではないのだろう。
背中や手足には毛が残っているが、それも聖なるという言葉通り、純白のツヤツヤの毛並みになっている。
「あるじの魔力は美味しくて最高なのだ。我の命をあるじに預けるなのだ。これで、我をいつでも喚び出してくれなのだ」
テトラが、白い宝玉を渡してくるので、アキトは思わず身構える。
なんでなのかと、テトラが不思議そうに聞いてくるので答える。
「いや、キスされるかと思って」
「したほうがいいのか?」
どうやら、従魔契約にキスは別に必要ないらしい。
魔王アンブロシアがキスしたのは、あれはなんだったんだ。
単なる趣味だったんじゃないかという疑惑が出てきたぞ。
「まあいいや。どうしよう、今日はもう帰ろうかなあ」
とりあえず薬草は取れたし、最初の戦闘は経験できたし、働きすぎは良くない。
ちょっと早いが、最初の日はこれぐらいで帰るのもいいんじゃないかな。
「えー、もっと戦闘したいのだ! ほら、あっちのほうにいっぱいゴブリンがいるのだ」
なんだかテトラは鼻が利くらしく、すぐに新しいゴブリンの群れを見つけ出した。
受付嬢のクレアさんも倒す数は多ければ多いほどいいと言っていたし、それならと思ってもう少し冒険を進めてみることにした。





