犠牲の花
一話完結型の短編集です。
初投稿でお見苦しい点もあるかと思いますが、読んでいただけると幸いです。
ある村に、少年と少女がいた。
ある村は、長い間続く日照りに悩まされていた。
ある村には、焦燥と不安があった。
日に日にやつれていく村人と、底をつき始めた食料。
それを目の当たりにした村長は、ついに悲しき決断をしてしまう。
人間を依り代に、神を降ろす。
それが村長の考えだった。
雨さえ降れば、大地に潤いが戻り、村人たちも救われる。
ただし、たった一つの犠牲を出して。
神を降ろすとは、則ち神にその身全てを捧げる事。
依り代となった人間か、村の全てか。
どちらを取るのが正解かは、誰にでも分かっていた。
すぐに“生贄”は選ばれた。
“生贄”はある少女となった。
その少女には、一人の友人がいた。
その友人は、少女のことが好きだった。
だが、村の決定は覆せない。
少年の願いとは反対に、準備は着々と進んでいく。
焦りばかりが積もっていく日々を、何も成果の出せない妨害でさらに加速させていく。
物を隠しても、言いつけを無視しても、装束を盗んでも、全て暴かれてしまう。
結果、少年は儀式の準備に参加することも許されず、家でずっと待機しているよう命じられた。
少年は諦めなかった。
「逃げよう」
家を抜け出して、生贄となった少女のもとへ駆け込んで、開口一番そう言った。
「できない」
返答は早かった。 唖然とする少年に、少女は笑って続けた。
「だって、私が逃げてしまったらこの村は破滅してしまう」
「私はこの村の人たちが好き。 こんな形だけど、皆の役に立てるのなら、私は構わない」
「でも、俺は」
その言葉は、喉元までせり上がり吐息となって、消えた。
情けなくも、想いを伝えられない少年を見た少女は、寂しげに笑った。
「ごめんね。 もう一緒に遊べなくて。
今までとても楽しかった、ありがとう」
最期の言葉、お別れの挨拶だった。
その後、放心して家に戻った少年は脱走がばれて、見張りを立てられて牢屋代わりの空き小屋に入れられた。
だが、もう少年に脱走する気力は無かった。
彼女は1人、心を決めてしまっていた。
もう、何をしても遅いのだと、少女と話してようやく理解した。
次の日。
虫すらも息を潜めているかのような静寂の中、3つの足音が村に響いた。
村長と付き人、そして“生贄”の少女。
足音が途絶え、村長が何かを話しているのが聞こえる。
声が消えた。
また、足音が聞こえ始めた。 今度は2つだ。
やがてその2つは遠く離れ、静寂に身を委ねるかのように消え失せた。
日が傾き始めた頃、ようやく足音が帰ってきた。
付き人の、足音だった。
その日は村の人間全てが家に篭もり、静かに祈っていた。
夜になった。
誰の、足音も、きこえなかった。
雨が降っていた。
村人たちは歓声を上げ、村長は胸をなで下ろしていた。
何日ぶりの雨なのか定かではないが、これで村は救われた。 そう、救われたのだ。
大地を潤す大雨の中、1人の少年が泣き叫んでいた。