犯人の正体
清合湾は、清合町にある地方湾港。
東には国道、西には県が通っており、西は電力会社・火力発電所があり、東には下水処理場が
あり、湾南部は国立公園の一部となっている。
昔は造船地帯として知られており、市街と造船所を結ぶ橋が存在したが、時代と共に利用者が
減少、多額の維持費がかかることから、橋は廃橋されることが決定。
しかし、橋が撤去された数か月後、造船所からの寄贈により、約60年間の歴史のモニュメント
が設置されたのだった。
幸磨達三人が子機から得た情報を元に辿りついたのは、その清合湾南部の国立公園である。
「…ねぇ、僕達騙されたんじゃない?」
時刻は午後6時ちょうどになった。
誰もいない公園を見て、幸磨は子機の情報を疑い始めた。
「こんな見晴らしのいい場所に犯人がいるなんて、僕とても思えないんだけど」
「まぁ、犯人の居場所って言うより、どちらかというと散歩コースって言った方がしっくりくる
よな。月冴はどう思う?」
「うーんー…けど、教えてもらった場所はここだしな……」
中学生三人がそう話をしていると、「君達、どうしたの?」と誰かが声をかけてきた。
声を掛けたのは、中学生ぐらいの少年。
黒髪で目が切れ長だが、背丈は三人の中では幸磨と同じぐらいの背丈。
よく見ると、右手にメロンパンの入った袋を持っている。
「僕で良かったら話聞くけど」
初対面の彼らに優しく話しかける男子。
だが、月冴と炎樹の心の中は「誰だこいつ?」とお互い顔を見合いっている。
「あっ…いや、大丈夫です。ちょっと迷子というか人探しというか…とにかく大丈夫なんで!」
しかし、二人が警戒中に幸磨がなんとかしようとするが、それはもう見てられないぐらいの
下手な言い訳だった。
この場合、月冴と炎樹の方が言い訳の使い方が上手い。自分達が黙っていたせいで、幸磨に
恥をかかせるようなことをしたと知れば、子機や彼の家族に申し訳ない。
だが、この幸磨の言い訳にその少年がこう言ったのだ。
「人探し?それって、僕の知ってる人かもしれないね」
「「「えっ?」」」
三人は同時に驚いた。
「僕が案内してあげるよ。ちょうど頼まれた買い物も終わったしね」
少年はそういうと一人で歩き始めた。
それを見て月冴が「ちょっと待って」と声を掛ける。
「まだ俺達が探してる人が君の知り合いと決まったわけじゃ…」
月冴がそう言いかけると彼は振り返って「大丈夫だよ」と答える。
そして、月冴に向けていた視線を幸磨に向けてこう言った。
「だって、そこにいる彼がその証拠だから。確認しなくてもすぐに分かるよ」
少年はそう言い終えると再び歩き始める。
いったいどういうことなのかと思いながらも、三人はその少年の後ろをついて行った。
すると驚いたことに、付いて行った先に三人が見たのは海に浮かぶ連絡船。
話を聞けば、これに乗って行くとのことで、急遽陸から海へ渡ることに……。
数時間後、四人を乗せた連絡船はとある島へ漂着する。
他に人の姿はなかったが、代わりに研究所のような大きな建築物が彼らをお出迎えしてくれて
いた。その周囲には黒い花が大量に咲いていて、まさに犯人が身を隠す絶好場所でアジトである
という印象が強く感じられる。
「どうぞ。入って」
少年の誘いに三人が恐る恐ると建物の中へ入って行く。
中は一般の家と変わらなかったが、廊下が迷路のように続いている。
そんな迷路廊下にまっすぐ歩いて進んでいくと、ある部屋の扉に少年は足を止めた。
「君達が探してる人がいるのは、ここだよ」
少年がそういうと月冴と炎樹は互いに見合って「どうする?」「誰が先に行く?」と話し合って
いると幸磨が扉をコンコンとノックしてしまう。
「ちょっ、こう君!」
「勝手にノックしちゃダメっ!」
月冴と炎樹の心臓が一瞬止まりそうになったのは置いといて、扉の奥から「どうぞ」と女性の
声が聞こえてきた。
それを聞いて幸磨は扉を開けて、一人中へ入って来た。
「こう君!」
「…っ!?」
月冴が幸磨の名前を呼んだ後、彼の視界にある人物が映る。
そして言葉を失った。
言葉の代わりに、幸磨は彼女にゆっくりと近寄った。
月冴や炎樹が彼の名前を何度も呼ぶが、彼の耳にその声は届いていない。
なぜなら、今の彼は目の前の少女に釘付けだったから……。
「久し振りね。私のこと覚えてる?」
「……覚えてる。覚えてるに決まってるじゃないか。僕は…姉ちゃんの弟なんだから!」
「良かった。それを聞いて安心したわ」
少女は幸磨に微笑んだ。
彼女の名前は宮木愛美奏。
幸磨の実の姉で、年齢は今年16歳になる女の子だ。
「姉ちゃんが…したの?マリアちゃんを……先生達の記憶を変えたの」
「そうよ。皆私がやったの」
「どうしてっ!?どうしてそんなことしたんだよっ!」
「私の大切な弟を誑かした挙句、不幸にしようとしてたからこらしめてやったの」
「たっ、たぶらかし…た?」
難しい言葉が出てきて、幸磨は混乱する。
「嘘やごまかしで人を騙すこと。つまり、詐欺。優しそうに見えて、あの子の心の中は真っ黒。
自分が気に入らないと思ったものは力を使って、偶然や不慮の事故に見せかけて人を殺す。そ
れがあの子の真の姿」
「そんな…そんなの嘘だっ!マリアちゃんはそんなこと…」
「嘘じゃないわ。マリアちゃんはあなたのことを騙してた。あなたが自分に好意を持っている
ことを知りながらも、気づかないふりをして、それを利用してあなたを最終的には殺そうとして
いたのよ」
「嘘だっ!嘘だっ!僕は信じないぞ」
「だったら信じさせてあげるわ。あなたが信じているマリアと私が言うマリア、どっちが真実
なのか。…十六夜」
愛美奏が少年の名前を呼ぶ。
彼は自分の名前が呼ばれるとすぐに駆けつけた。
「あれを持ってきて」
あれ、だけでは何なのか分からない。
だが、十六夜は「分かった」と言ってすぐに部屋を出ていく。
「十六夜が取りに戻るまで時間がかかるから、その間にご飯にしましょう。三人共、お腹空い
てるでしょ?」
「こんな時に呑気にご飯なんて食べたくな…」
幸磨がそう言いかけたその直後、彼の腹の虫が大きな声を上げる。
音が鳴ったことで幸磨の顔は真っ赤になる。
「メロンパン買ってきたから、三人で食べなさい。ここのメロンパン美味しいのよ」
と言って、十六夜が買ってきたメロンパンをいつの間にか自分の手に持つ愛美奏。
姉の手から幸磨が受け取り、メロンパンは月冴と炎樹に配られた。
食べてみると、彼女の言う通り懐かしい味がしてそのメロンパンはとても美味しかった。
ご飯というより三時のおやつだったが、これで三人の空腹は満たされる。
メロンパンを食べ終えた後、十六夜が例のあれを持って戻って来た。
「お待たせ。これで良かった?」
「そう、これこれ。ご苦労様」
「なにこれ?」
「何だと思う?」
「…うに?じゃないよね」
十六夜が持ってきたのは、幸磨の言うようにウニみたいで黒く多数の棘で覆われている球。
その回答に月冴と炎樹の二人も同じことを思っていたが、正解は違っていた。
「これはマリアちゃんが持っていた力を具現化したもの。名前は…モーニングスター」
「モーニングスター?」
幸磨は、普通に朝で星なのか?と考えてしまったが、そんな単純なものではない。
「日本だと朝星棒、星球式鎚矛、星球武器
とも呼ばれている星型の武器。鬼が持つ金棒は全体的に棘があるけど、モーニングスターは
柄頭にしか棘がない」
他にホーリーウォータースプリンクラーやゴーデンダッグといった武器も存在するが、この
説明は省かれる。
「これに触れてみて。そしたら、あの子の本当の姿が分かるわ」
「…」
幸磨は、姉が持つモーニングスターに恐る恐る触れてみる。
その直後、黒い煙が吹き出し、幸磨の身体を包み込んだ。
「「幸磨君っ!?」」
月冴と炎樹が助けようとするが、近くにいた十六夜に止められる。
力づくで振り切ろうとしたものの、彼も二人以上に力が強くとても振り切れる状況ではなかった。
黒い煙に包まれた弟をただじっと見つめる姉。
中では一体何が起きているのだろうか……?




