試験
6月11日、月曜日。
季節は梅雨に入り、ここ最近は雨降りが続いている。
雨の日は憂鬱になるという人が多いが、幸磨達中学生にとっては憂鬱どころではなかった。
「あぁ~…覚えられない……」
朝少し早く家を出て学校へ来ていた幸磨と月冴。
希愛中学では今日から学力試験が始まり、赤点を取ってしまうと夏休みに補習授業を受講しな
ければならない。ここまでは一般の公立学校でも行っていることだが、やはり長期期間の夏休み
を半分補習授業で奪われることはなんとしても阻止したい。
「こう君、諦めて補習授業受けようよ」
「嫌だよ。僕は諦めないからっ!」
幸磨は学校に行くのが嫌いというわけではない。
ただ、点数が悪いと子機が家族に報告する可能性はあるので油断できない。
幸磨の目標は40点以上を取ること。
彼は全教科がほとんど得意とも言えないので、一週間前から勉強しているがそれでも不安で
こうして早く月冴と学校へ来て特に一番苦手な英語の勉強をしている。
その一方で月冴は、今まで学校という機関に縛られずに育ったためか最初から諦めていた。
彼の中では幸磨を守ることが最優先事項。
もし幸磨が試験で赤点を取って補習組になり、月冴が赤点の壁を越えたとする。
そうなると幸磨の側に付くことが出来ず、月冴は学校の外で待機するしかない。
本人は必死に今勉強をしているが、月冴予想では今勉強したところで赤点は回避できないと
判断。なので、さりげなく「諦めて補習を受けよう」と言っているのだが、幸磨は全く聞こう
としなかった。
そんな時、彼らの教室にマリアが入って来た。
「おはようございます」
「おはよう、マリアちゃん」
「おはよう」
「お二人共、早いですね。試験勉強ですか?」
「そうだよ。こう君張り切っちゃってさ~…俺は諦めてるんだけど」
月冴がマリアに説明する。
「月冴君もですか?実は私も今回の試験、少し自信がなくて」
「えっ、そうなの?」
勉強していた幸磨がマリアの言葉に驚く。
「えぇ。もちろん勉強は一通りしましたけど…」
「へぇ~なんか意外だな」
月冴が言った後、「おはよう」と、三人に声が掛けられた。
「炎樹。今日は早いじゃないか」
声を掛けたのは炎樹。普段ならまだ来ていない時間帯だったので月冴が口に出す。
「俺だって試験日ぐらい早く来るさ」
「余裕なのか?」
「全然」
「なんだそりゃあ…」
月冴は炎樹の言葉に呆れてそれ以上言葉がでなかった。
その日の試験内容は、数学・社会・英語の三教科。
三時間目が終わった後はHRを行い、その後生徒は下校。
試験勉強という理由でも放課後学校に残ることは許されない。
試験・HRを終えた後、幸磨と月冴は自分達の家にまっすぐ帰って明日行われる試験勉強を
幸磨の部屋ですることに。
「…で、なんで炎樹と桜華が一緒にいるんだよ」
学校で別れてからまだ二時間ほどしか経っていないはずなのに、炎樹と桜華が家を訪ねてきた。
「いや、打ち合わせしてたわけじゃないんだ。俺が二人の家に行こうとしてたら偶然にね」
話を聞けば炎樹が二人の家へ行こうとしていた際、駅の周辺をうろうろしている桜華を発見し、
声を掛けて一緒に行こうと誘ったらしい。だがそれは、彼女の目的を把握したからこそ出来た
行動だった。
私服姿・勉強道具類を入れた鞄。
そして、最寄駅でもないのに周辺をうろついていたという炎樹の証言。
月冴は桜華をじっと見た後、「もしかして、駅で聴き込みしたら俺達の家が分かるかもって
考えて清合まで来たの?」と怖い顔で問いかける。
「えっ……いやぁ…その………」
ヘビに睨まれたカエルのようになる桜華。
しかし、彼女に救いの手が差し伸べられる。
「まぁまぁ、月冴。それよりこのメンバーで明日の試験勉強しようじゃないか」
「お前は最初からそのつもりで家に来たんだろ?バレバレなんだよ」
今日の試験は彼の言葉通りにボロボロだった。
さすがの彼もこのままじゃと焦り、月冴を頼って来たわけだが彼にはお見通し。
桜華を助けた理由も自分一人じゃ追い返されることを考えての保険だった。
「まぁ、桜華は頭良いし、炎樹の頭を良くする薬になるかもな」
「薬って…月冴~」
「桜華。今回の件は許すけど、次同じようなことをしたらただじゃおかないからね」
「はっ……はい」
もし、桜華が一般人ではなく、どこかの組織に送り込まれた刺客だった場合は容赦なく始末
していたところ。だが、桜華は月冴達の事情を知らないので、「ただじゃおかない」という
本当の理由を把握できていない。
「月冴。歌藤さん怖がってる」
「お前が連れてきたんだろ。責任取って勉強見てもらえ」
「ん?なんかそれ違くない?責任で勉強見てもらうって…」
「あ~はいはい。とにかく二人とも中に入ってください。試験勉強しましょう」
月冴はやけくそに言いながらも、二人を家の中へと招き入れた。
二人でやっていた試験勉強も桜華が加わったことですごくはかどったのだった。




