過去、そして彼との出会い
お母さんは僕を愛してくれたけど、あの人はあまり家に帰らなかった。
たまに帰って来た時、お母さんはすごく嬉しそうな顔をするけど、送り出す時はすごく寂しそう
な顔をしていた。
僕はお母さんのことが大好きだったから、お母さんを悲しませるあの人のことは大嫌いだった。
そんなある日、お母さんは……帰らぬ人になってしまった。
あとで発明家のおじに話を聞くと、お母さんは『寿命』だったらしい。
病気じゃなくて、寿命。
その時の僕はその言葉を病気の名前だと判断して、あの人のことをますます嫌いになった。
おじからは『お父さんに心配かけたくなかったんだよ。お母さんはそう言う人だった』と
フォローを入れてくれたけど、それでも僕の心は変わらなかった。
葬儀の後、あの人からお母さんの手紙を渡された。
僕は手紙をその場で開封して、お母さんの手紙を黙読する。
手紙には13歳になったらお母さんの故郷である清合町に住んで、そこから私立希愛中学校へ
進学しなさい。これまで自分になかったものを手に入れて、その先へ進みなさいと書かれていた。
自分になかったものとは何のことなのかは分からなかったが、それでもお母さんの遺言通りに
僕は従うとあの人に伝えた。
進学先を決めた後、僕はあの人に連れられて大きな武家屋敷へ連れて行かれた。
あの人が屋敷の人を呼んでくると言って、僕が外で待っていると「こんにちは」と、後ろから
誰かに声を掛けられる。
突然のことで身体がびくっとなったけど、よく見ると僕と同い年ぐらいの男の子だった。
彼はしばらくじっと見て、「もしかして、君が幸磨君?」と、僕に尋ねる。
どうして僕の名前を知ってるのか分からなかったけど、とりあえず「はい」と返事をした。
すると彼は「おぉ~やっぱり。そっかそっかぁ!」と、僕の肩を右手でパンパンと叩く。
まるで宝くじにでも当たったかのように嬉しそうな顔をしていた。
「あっ、俺は月冴。よろしくね」
彼は自分の名前を名乗ると、僕に握手を求めた。
僕は少し遠慮しながらも「よろしく」と、彼の手を握る。
その後、タイミングよくあの人が屋敷の人を何人か連れてきて、僕達二人は屋敷の中へと入っ
て行った。
話を聞けば、月冴は僕の遠い親戚で、普段は屋敷の外に出ることはないらしい。
電気とガス以外はほぼ自給自足の生活で、月冴は家事掃除洗濯その他もろもろの仕事をこなし
ており、外出する余裕が全くないと僕にこっそりと教えてくれた。
「幸磨君と同じ学校に進学するんだよね、俺」
「えっ?そうなの?」
「そっ。幸磨君一人じゃ心配だからね~。俺も一緒の中学に通って一緒の家に住むんだよ」
「えっ、一緒に住むっ!?」
そんな話は初耳だった。
一緒の学校へ通うだけじゃなくて、同じ家に住むなんて…。
だけど過保護なおじいさんが考えそうなことだと、僕は思い返した。
「これからよろしくね。幸磨君」
「あぁ…うん。よろしく」
これが月冴君と僕の出会い。
そして、その2か月後に僕と彼は同じ家に住み、私立希愛中学校へ入学し現在の生活を送ること
になったんだ。




