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危機回避・未来  作者: 中野翔
僕に危機回避能力は存在しない
1/59

幸磨と月冴


 あなたは今幸せですか?

 それとも…不幸せですか?


   時間はあっという間に流れ、人はその流れに逆らえない。

   あれから約10年以上が経ち、世界も少しずつ変わっていく。

   豊かで平和な生活ばかりが続くわけではないものの、人々はこの世界で生きている。


   清合町という田舎町のとある大きな一軒家。

   元々は何年も誰も住んでいないボロボロのお化け屋敷のような家だったが、立て直して綺麗で

  立派な家へと大変身を遂げた。そんな元お化け屋敷の家に住んでいるのは、この春から私立中学

  へ通う13歳の少年。しかも…二人きりである。

   

   今日は4月9日、月曜日。時刻は午前6時を指している。

   そろそろ起きて学校へ行く支度をしなければならないのだが、彼らはまだ寝ていた。

   「月冴つかさ君…起きて」

   「…っん…」

   「月冴君、起きて!お願いだから起きてってば!」

   「……もう少し……寝かせて」

   「お願い、起きて。ちっ、近い…よ」

   「……うるさいなぁ………ん?」

   月冴と呼ばれる少年はようやく目を覚まし、現在の状況を把握した。

   自分がいつの間にか彼の上に乗っかって寝ており、お互いの顔があまりにも近いということに。

   「ワオッ。幸磨こうま君のドアップっ!」

   「ワオッじゃないよ!早くどいてよっ!」

   幸磨に怒られた月冴は「あぁ~ごめんごめん」とすぐに起き上がり、彼から離れた。

   「冗談だよ。こう君は可愛いなぁ~」

   「もう…なんで朝起きたらこんなことになってるのさっ!」

   「だから、ごめんって。わざとじゃないんだし、許してよっ」

   月冴は幸磨にそう言うと手を合わせて右目をウインクさせる。

   「じゃあ、もう可愛いって言わない?」

   「言わない、言わない」

   「…じゃあ、許す」

   「やったー!わぁーいわぁーい」

   許すと言っただけなのに、月冴は大げさに喜んでみせる。

   その直後、部屋の扉が開き『朝から賑やかだね、お二人さん』と女性の声が。

   二人が振り返るとそこにいたのは人間の女性ではなく、人型のロボットだった。

   普通部屋にロボットが入って来たら驚くだろうが、これを見て月冴が「あっ、お母さん」と

  呼んでロボットに駆け寄り、「おはよう」と朝の挨拶をする。

   この人型ロボットは子機03と言い、彼らが住むこの家の管理をしている。

   幸磨の家の所有物だがある理由から彼らと共に生活し、保護者として見守っているのだ。

   『おはよう。仲良しなのは良いけど、あんまりうるさいと近所迷惑になるわよ?あと、そろそろ

  支度しないと学校遅刻よ』

   子機03の話を聞き、幸磨が壁に掛けてる時計を見て「やばっ、もうこんな時間っ!?」と

  バタバタと騒ぎ始める。

   「急がなきゃっ!月冴君も早くっ!」

   「はいよっ。じゃあ、お母さん留守番よろしく」

   『言われなくてもそのつもりよ』

   その後、二人は中学の制服に着替えて朝食をパパッと済ませるとすぐに家を出て学校へ向かった。

  

   

   幸磨と月冴が通う希愛きあい中学校は、彼らの住む家から電車を使って徒歩10分の場所に

  ある私立中学校。創立からまだ日が浅いこともあり、全校生徒数は100人にも満たない。

   だが、それはこの学校が普通の学校にはないある制度を導入していることに理由がある。

   「やぁ~セーフだったね。こう君」

   「ぎりぎりだけどね」

   学校の下駄箱でそう話す二人。

   HRの時間帯に近いこともあり、ほとんど人通りがない。

  「間に合ったからいいじゃない。さっさと教室行こっ」

   月冴が上履きに履き替え、一人先に教室へ向かおうとした時、幸磨は「あっ、ちょっと待って」

  と呼び止める。

   しかし、月冴は「早くしないと置いてくよぉ~」と振り返りもせず、一人で歩いていく。

   「もぉ~!!」

   意地悪だと思いつつ、幸磨は上履きをしっかり履いたことを確認して慌てて月冴の後を追いかけ

  て行ったのであった。

   二人は自分達のクラスの教室へ入ると、一人の女子生徒が席を立って二人に「おはようございま

  す」と笑顔で挨拶した。それに答えて月冴も「おはよぉ~マリアちゃん」と笑顔で返した。

  「こう君もおはようございます」

  「おっ、おはよう…」

  「良かった。何かあったんじゃないかって心配してたんです」

  「いやぁ~ちょっと寝坊しちゃっただけなんだ。心配かけてごめんね」

   月冴は茫然としている幸磨の代わりに事情を説明した。

   それを聞いてマリアは「そうだったんですね」と一安心する。

   彼女の心配性が解決されたところで、月冴はマリアに「今日も俺達だけなんだね」と告げる。

   彼らのいる教室に他の生徒の姿はない。あるのは誰も座っていない空っぽの机と椅子だけ。

  マリアも月冴のその言葉に何も言えなかった。

  「もうタイムアウトだな。入学式の時もそうだったけど、うちのクラスってまだマリアちゃんと

  しかちゃんと会えてないんだよね」

  「そうですね。早く…他の皆さんにも会いたいですね」

  「…」

   数秒間沈黙後、月冴が先程から黙り込んでいる幸磨に話しかけた。

  「こら、こう君」

  「えっ!?なっ、なに?」

   いきなり話しかけられて、幸磨は後ろへと後ずさる。

  「なにじゃないでしょ?さっきから全然話してないじゃない」

  「えっ…そうだっけ?」

  「もう~しっかりしてよね」

   月冴に『しっかりして』と言われてなんだか釈然としなかったが、何とも言い返せない幸磨。

   その様子を見てマリアは思わず「うふふっ」と笑ってしまう。

  「本当にお二人は仲良しですね」

   彼女の笑顔を見て幸磨の頬が赤く染まる。

   それを隣で見ていた月冴が突然幸磨を自分の元へと引き寄せ、「そうだよ。俺とこう君はすご

  ぉ~い仲良しなの」と自慢げにマリアに話す。

  「ちょっ、月冴君。ひっつかないでよ」

  「え~なんで?ただの仲良しアピールなのに?」

  「ここは日本なんだから、もう少し人目というものを考えてよぉ~!」

   確かにここは外国ではなく日本だが、別にそれをしてはいけないというルールはない。

   だが、過剰なスキンシップはいきすぎると誤解を招いてしまうことがあるので、ほどほどに。

   それはさておき、三人が教室で盛り上がっているとどこからか「ごほんっ」と咳払いする声が

  聞こえてきた。

   三人はその咳払いにびくっとし、恐る恐る教室の扉前へ視線を向けるとそこには30代ぐらいの

  がっしりとしたスーツ姿の眼鏡を掛けた男性が立っていた。

  「HRを始めるから席につきなさい」とだけ伝えると、さっさと教壇へと歩いて行く。

   それに三人は急いで自分の席へと向かい、その後約一時間のHRを受けるのであった。


   

   午後13時05分。昼食を食べ終えた幸磨は教室前の廊下でぼんやり外を眺めていた。

   そこへ別のクラスへ散歩に出かけていた月冴が「ただいま~」と幸磨に手を振って帰って来た。

  「おかえり。どうだった?」

  「やっぱりうちのクラスだけだったよ」

  「そっか」

   月冴は休み時間の暇つぶしに別のクラスの生徒から話を聞いていた。けれど、やはり自分達の

  クラス以外ほとんどの生徒が入学式に出席後もちゃんと学校へ来ているという。

   それが普通のはずなのに、彼らのクラスは三人以外誰も学校へ来ていないという異常な状態が

  続いている。

  「でも、良かったんじゃない?」

  「えっ?何が?」

   幸磨は最初月冴が何を言っているのか分からなかった。

   月冴はムッとした顔をしながらも、幸磨のために今度は分かりやすく教えた。

  「マリアちゃんだよ。あんなに可愛い子と最初に仲良くなれて幸運だったねって」

  「えっ!?」

   幸磨はマリアの名前が出て、顔が真っ赤になった。

   ようやく理解したなと月冴は更に幸磨を責める。

  「話聞いたらマリアちゃん良いとこのお嬢さんみたいだし、性格良くて可愛いから他の男子が彼女

 を我が物にしようと戦争を起こすんじゃないかなぁ~?そして、こう君はその戦場に足を踏み入れ

 ようとするけれど、他の男子達にもみくちゃにされてぺらっぺらの干物になっちゃうの」

  「ぺっ、ぺらっぺらの干物……」

   幸磨は実際に自分がそうなるんじゃないかと想像して、身体をぶるぶると震えさせる。

   月冴はそれを見て「良かったね、干物にならずに済んで」と爽やかな笑みを浮かべた。

  「一番最初に仲良くなれて、本当幸運だよね~こう君だけに」と言葉を追加するが、この洒落に

 関して幸磨は無反応だった。

  

   

   午後16時。幸磨と月冴は授業を終えた後、電車に乗って清合へと戻ってきた。

   希愛中学校には部活動がないため、授業が終われば生徒はすぐに下校することになっている。

   二人は制服のまま、駅近くのスーパーへと立ち寄って子機03から送られてきたチャットメッセ

  -ジを見ながら買い物を進めていく。


   「でもさぁ~今はネットでも買い物出来るんだから、そっちの方が楽だと思うんだけど」

   共働きの家庭や一人暮らしのお年寄りなど多くの人々が利用しているネットショッピング。

   しかし、中には怖くてネットショッピングに抵抗がある人も少なくない。

   「うーんー…確かに便利だけど。でも、僕はこうやって誰かと一緒に買い物するのも良いと思

  うんだ。楽しいし」

   忙しいからネットで簡単に済ましてしまえば良いという人、忙しくてもやはり自分の目で見て

  買い物したい人、誰かと一緒に外へ出て買い物を楽しみたい人。

   便利になったとはいえ、それを使うか使わないかはその人次第だ。

   「ふーんー…まぁ、お母さんにお世話になってるわけだし、これぐらいのお遣いは当然だよね」

   「おっ、お遣いって…僕達、中学生なんだけど」

   「お遣いはお遣いでしょ?年齢なんて関係ないよ」

   「うっ…うん」

   幸磨は納得がいかなかったようだが、月冴に反論する言葉が見つからなかったので仕方なく

  彼に同意した。その後、買い物を済ませて二人は子機03が待つ家へと戻った。



   家に着いたのは午後17時30分。

   玄関扉を開けると、子機03が二人を出迎えてくれた。

   「お母さん、ただいまぁ~」

   「ただいま」

   最初月冴、その次に幸磨の順で子機03にただいまと言う。

   それにすぐ子機03は『おかえりなさい』と言った後、『ちゃんと買ってきてくれたみたいね』

  と二人が持つレジ袋を回収する。

   脱いだ靴を閉まった後、月冴が子機03に今日の晩御飯のことを尋ねる。

   「お母さん、今日は何作ってくれるの?俺の予想では、カレーライスなんだけど」

   『カレーライスはこの間作ったでしょ。今日は野菜炒めよ』

   「やっ、野菜炒め…」

   幸磨が野菜炒めと聞いて顔が真っ青になった。

   それを隣で見ていた月冴は「あ~、こう君の大嫌いな野菜炒めかぁ~」と他人事のように

  呟く。

   『肉ばっかり食べても大きくなれないからね。もう中学生なんだから、少しぐらい食べれるよ

  うにならないと大人になってから困るわよ』

   「やっ、野菜を食べなくても大人になれるさっ!…たぶん」

   言い切ろうとしたが、本当に出来るかどうかの保障はない。

   だから、幸磨は途中から段々と不安になってきて最後に「たぶん」と言葉を付け足すのだった。

   すると横で聞いていた月冴が「あっ、でも~」と何か思いついたように話し始めた。

   「肉ばっかり食べてると今の体型維持できなくなって、マリアちゃんに嫌われちゃうかもしれ

  ないよ?」

   「えっ!?」

   月冴の言葉に幸磨は驚いた。

   だがそれはマリアのことではなく、子機03がいる前で彼女の話題を出したことだ。

   『マリアちゃん…って、確か二人と同じクラスの子だったっけ?』

   「そうそう。んで、こう君の初恋の相手ね」  

   「ちょっ、月冴君!?」

   なんてことを。と言うように、幸磨は月冴の名を叫んだ。

   その話を聞いて子機03は『へぇ~…そうなのぉ?』と、興味深そうに幸磨に尋ねる。

   ロボットなので表情は変わらないが、口調からして明らかに面白がっていることは確かだ。

   それが嫌で幸磨は「ちっ、違う!全然違うからっ!」と、全力で否定する。

   「あははっ、こう君顔真っ赤だよぉ~?」

   「月冴君、ちょっと黙ってて!」

   月冴が自分をからかうので、少し幸磨はイラッとする。

   『別に隠さなくてもいいじゃないの。人を好きになることは悪いことじゃないし』

   「そういうことじゃないっ!……ぜっ、絶対喋るだろ。おじいさんとか姉さんとか…あの人

  とかに…」

   子機03は幸磨の返事にすぐ答えることはできなかった。

   しかし、少し間を開けて…。

   『うーんー…そうね。幸磨が頑張って嫌いな野菜を残さず食べてくれたら、おじいさん達には

  黙っておくわ』

   「なっ!?」

   子機03は家族に喋らないことを条件に嫌いな野菜を残さず食べるよう要求した。

   「おやおや。これは一本取られましたなぁ~こう君」

   「いったい誰のせいだよっ!」

   『まぁまぁ、そう興奮しないの。今からご飯作るから、頑張って食べてね~こう君』

   子機03は幸磨にそう言葉を掛けた後、一人先に台所へと向かって行った。

   「うっ…くそぉ…」

   その後、幸磨は子機03が作ってくれた野菜炒めを見事完食したのだった。

   

   

   

   

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