9話 美しいメイドさん
フィオーナ王女が出て行ってから。
私は何とかこの鳥かごと言う名の檻から抜け出そうと頑張っていた。
鳥かごに体当たりしてひっくり返そうとしてみたり、ジャンプしたり引っ張ったり。もちろんビクともしなかったよ。
大声で叫んだりもしたけど地下だから多分地上には届いてない。
え?魔法を使えるか試してみたらいいんじゃないのって?
うん。実はすでに試した。お恥ずかしながら。
ファイアー!とか言いながら。
あと、ひらけ、ゴマ!とか言ってみたり。
もちろん何も起きなかったよ。
めっちゃ恥ずかしかったよ!
あー、もう!どうすりゃええんや!
このままあのキ◯ガイ王女にコレクションにされるなんて以ての外だし、何も知らずに異世界のために頑張ってるユウキ君たちを見殺しにするのも絶対に嫌だ。
あ!!
そうだ!!
ひらめいたかもしれない。
…今履いてるストッキングを脱いで、投げ縄みたく隙間から投げてたくさん壁に飾ってある伝説の武器のどれかに引っかかれば…。
それを使って鳥かごぶっ壊して外出れる!!すごい!!ナイスアイディア!!冴えてるぜ私!!
そうと決まれば善は急げ。
スーツのスカートの裾を少しめくり、ストッキングを脱いで…。
「おや。女性がそのように素足を晒すものではないですよ。美しい方。」
「しっ…シアンさん!?」
声のする方を向くと、アイリちゃんの騎士、シアンさんが厚い扉の向こうからにこやかに現れた。
シアンさんが来てくれたことへの安心感から泣きそうになる。
「えっと、これはですね、この檻から逃げようと…。そうだ!シアンさん大変なんです!今私、フィオーナ王女に捕まってて…あと、ユウキ君とアイリちゃんはフィオーナ王女にだまされてて!早く伝えないと!」
「そうだったのですか、大変でしたね。私が来たからもう大丈夫ですよ。サキ殿は何も心配せずに、ここでお待ち下されば。」
「ありがとうございます!でもえっと、出来ればここから出して頂けると…。」
「申し訳ないのですが、それは出来ません。ですが大丈夫ですよ。サキ殿もすぐに分かります。王女殿下の物になる素晴らしさが…」
…ん?
「えっと、シアンさん?」
「王女殿下のコレクションになれるとは、宮田サキ殿、貴女は本当に運がいい。これ以上の喜びがありましょうか。」
「………。」
…何を言ってるんだろうこの人。頭大丈夫かな。
まさか…。
私は勇者のメガネを通して、シアンさんに意識を集中させる。
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シアン・マイセン L v60
【性別】男性
【種族】人間
【職業】魔法騎士
【属性】土属性
【状態】魅了
HP:240/240
MP:36/36
物理攻撃力:243
物理防御力:109
魔法攻撃力:210
魔法防御力:96
素早さ:79
運:60
【スキル】
剣術 Lv6
土魔法 Lv5
植物操作 Lv3
【装備】勇者の魔法剣Lv70
▽所有者:シアン・マイセン
▽スキル:光魔法『ライトニングバスター』
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うわあああ!!やっぱり、この人【状態】魅了とかいうやつにかかってる!!フィオーナ王女のステータスにあったスキル『魅了』ってやつでしょこれ!!
この人も敵なんじゃん!!フィオーナ王女の命令で私を見張りに来たんだよ!!より逃げ出せなくなっただけでした!!
しかもレベルはフィオーナ王女より高いし、この人も伝説の武器持ってるし、ライトニングバスターとか明らかに物騒なスキルあるよ怖すぎる。
そういえば、フィオーナ王女はこの部屋にフォードさんと、シアンさんも出入りしてるって言ってたような。
この狂った秘密の部屋を知ってて平然としてるなら、シアンさんだけじゃなくきっとフォードさんも『魅了』にかかってるんじゃ…。
もう詰んでるよ、私…。
「サキ様!!!!!」
突然、凛とした私を呼ぶ声が耳に届く。と同時に、
ドゴオオオオオン!!!!!
と凄まじい轟音と共に天井の一部が崩れる。
土煙の中から、ゆっくりと姿を現したのは…。
「…ベルーカ?」
「お待たせしました、サキ様。怖い思いをさせて申し訳ありません。不肖ながらこのベルーカ、サキ様をお助けに参りました。」
そこには、右目が隠れるように流れる、赤毛っぽい茶髪の、美しいメイドさんがいました。
「何で…」
「私はサキ様の侍女でございます。お助けに来るのは当然のこと。」
いつもの美しい微笑みに安心する。ベルーカママ…。
「おや。ベルーカ殿。どうしてこのようなところに?ここは貴女が土足で足を踏み入れて良い場所ではありませんよ。」
「それはこちらの台詞です、シアン殿。サキ様をこのように怖がらせて、許されることではありません。」
シアンさんとベルーカはお互い微笑みを称えているが、目が笑っていない。
ベルーカが助けに来てくれてすごく嬉しいけど、シアンさんはレベルも高いしめちゃくちゃ強そうだ。
可憐な見た目のベルーカが、敵う相手なのか…。
私は勇者のメガネごしにベルーカに意識を集中させた。