8話 私のステータス
『勇者のメガネ』を掛けた瞬間、私の見ていた景色は一変した。
この部屋にある全ての物という物の名前やステータスが、メガネを通して空間に映し出される。
周囲のありとあらゆる情報が一気に脳に流れ込み、気が遠くなってくるのをなんとか堪える。
情報が多すぎる!!うっ…気持ち悪い…。
「ふふ。初めての鑑定はいかがですか?情報酔いしてしまったかしら…。鑑定したいものに意識を集中して下さいませ。周囲の雑音が消えるはずですわ。」
「がっつり…酔いましたよ…先に言って下さいよ…。」
「あらあら。ごめんあそばせ。」
コロコロと笑うフィオーナ王女。絶対にわざとだろ。
まだ気持ち悪さはあるが、なんとか自分へと意識を集中してみる。フィオーナ王女の言った通り、徐々に周囲の雑音が消え、自分のステータスのみが浮かび上がってきた。
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宮田 サキ L v1
【性別】女性
【種族】人間
【職業】伝説の武器 Lv1
▽ 所有者:なし
【属性】無属性
【状態】疲労
HP:5/10
MP:65/70
物理攻撃力:8
物理防御力:5
魔法攻撃力:14
魔法防御力:11
素早さ:5
運:225
【スキル】
伝説の武器 無 制限されています
伝説の武器 火 ロックされています
伝説の武器 水 ロックされています
伝説の武器 風 ロックされています
伝説の武器 土 ロックされています
伝説の武器 光 ロックされています
伝説の武器 闇 ロックされています
【装備】勇者のメガネ
▽所有者:宮田 サキ
▽スキル:鑑定
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職業の欄には、確かに、『伝説の武器』と表記されている。
種族が人間で伝説の武器って何だ!
ステータスが強いのか弱いのか分からんけど運だけ225もあるのおかしいでしょ!
ていうかこんな状況なのに運いいわけないでしょ!
スキルとかいうやつもほぼ全部ロックされてるし!
ツッコミどころしかないし、普通に自分が武器になってることがショックだし、泣いてもいいですか。
「ほら、ね?本当でしたでしょう?ああ、そうですわ!わたくしのことも鑑定してみて下さいまし!ええ、それがいいわ!」
「はあ…」
もう何でもいいよ。どうにでもなれよ…。
投げやりな気持ちで、今度はフィオーナ王女に意識を集中させる。
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フィオーナ・フリル・フェルラーン L v49
【性別】女性
【種族】人間
【職業】フェルラーン王国 第一王女
【属性】火属性
【状態】良好
HP:125/125
MP:125/130
物理攻撃力:117
物理防御力:80
魔法攻撃力:44(補正+57)
魔法防御力:78
素早さ:60
運:51
【スキル】
魅了 Lv4
暗殺 Lv5
【装備】勇者の指環Lv57
▽所有者:フィオーナ・フリル・フェルラーン
▽スキル:魔法攻撃力補正(+57)状態異常無効
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「つよっ…」
思わず声に出た。
えっ!王女様強すぎるでしょ!まずレベル差がありすぎてお話にならない。
「ご覧になりました?ふふ。お分かりになったことと思います。サキ様がいくら抵抗しようとも無駄ですわ。これだけのレベル差では、万が一にもサキ様がわたくしに敵うわけがないのですから。さあ、もうお諦めになって、わたくしのものになって下さいませ。」
私に差を見せつけて諦めさせようと、自分を鑑定させたのか…。この王女様怖すぎる。本当に最初の天使のような姿は演技だったんだな。
「ふう。本当は、サキ様も頃合いを見てユウキ様たちの鍛錬に参加して頂いて、ゆくゆくは魔王討伐へ…と思っていましたのよ。なのにサキ様ったら、わたくしの秘密のお部屋を覗いてしまうんですもの。残念ですわ。もう少しレベルを上げてから手に入れたかったのに。サキ様はご存知?伝説の武器にもレベルがありますのよ。所有者のレベルに連動して武器のレベルも上がるんですの。ああ、安心して下さいまし。ユウキ様とアイリ様には魔王を討伐して頂いて、十分に経験値を得て武器のレベルを上げてから交渉しますわ。もちろん、わたくしに武器を譲るか、死んで頂くか、というね。ふふふ。」
フィオーナ王女は頰に手を当て、うっとりと独り言のように話し続ける。
今の話からすると、フィオーナ王女の目的は魔王討伐より伝説の武器のレベルを上げて、最終的にそれを手に入れることのように思える。
しかも、ユウキ君たちが伝説の武器の所有権を譲るのを拒めば殺す、ときた。
これがフィオーナ王女の本性なんだ。ユウキ君たちになんとか知らせたい。そして逃げてほしい。この狂った王女から。
「まあ、いいですわ。どうせサキ様のお力ではこの鳥かごから出ることも出来ないのですから、しばらくここでお考えになって下さいな。答えは決まっていると思いますけれど。さて、わたくしはユウキ様たちのところへ行きますわ。ちょうど午前の鍛錬が終わって、お部屋で休憩されているところかしら。ふふふ…。」
「フィオーナ王女!待って!」
「またすぐに来ますから、そのときに答えを聞かせて下さいまし。」
私の制止も虚しく、フィオーナ王女は地下室の厚い扉の向こうへ消えていったのでした。