7話 捕獲されました
「えっと、私は、何も、ミテナイデスヨ」
精一杯の笑顔で振り返ってみる。
ほら!私は、何も知らないよ!見てないよ!というアピール。
「うふふ。本当にサキ様って、楽しいお方ですわ。そんなわけ、ありませんわよね。」
ですよね。
バッチリがっつり、目の前に鳥かごとかあるしね。
無理があるよね。
多分、というか、確実に、これ見たらあかん部屋だったんでしょうね。うん。
だって、フィオーナ王女、顔は笑ってるけど声が低くなっていってるよね。
「あの、す、素敵なバラ園ですね!」
「そう言って頂けて、シアンもきっと喜びますわ。」
「王女様の銅像も、この世のものとは思えない美しさで…!」
「うふふ。わたくしが美しいだなんて、そんな当たり前のこと…。」
フィオーナ王女が一歩踏み出す度に、一歩後ずさる私。
「う…美しいバラ園の下に、こんな地下室があるなんて、全然知りませんでしたよ〜!」
「ええ。わたくしの秘密のお部屋ですもの。わたくしとわたくしの騎士、フォードとシアンしか入室を許していませんのよ。」
ジリジリと、逃げ場がなくなっていく。
「そうだったんですね!!勝手に入ってすみませんでした!!そろそろお暇しますね!!」
「あら、お待ちくださいませ。せっかくですもの!サキ様にも、わたくしのコレクションをご覧頂きたいですわ。素敵でしょう?この、伝説の武器の数々…。」
うっとりと話すフィオーナ王女。いいえ!!全力で遠慮します!!激しくお暇したいです今すぐに!!
ジリジリ追い詰められていた私の背中は、今、鳥かごにぴったりとくっついている。やばい。冷や汗がとまらん。もちろん、恐怖で!
「これ、ぜーんぶ伝説の武器なんですのよ!素敵でしょう、そうでしょう!わたくしの1番のお気に入りはね……」
フィオーナ王女は本当に楽しそうに、うっとりと語る。でも、全く隙はない。私から全く目を離さない。まるで獲物を見るような…。
「そうだわ!うふふ。今度ね、またコレクションが増える予定なんです!それも一気に、3つも!」
にっこりと、花がほころぶような笑みで、鳥かごを背に体を仰け反らせている私を覗き込むフィオーナ王女。
私の嫌な想像は、的中してしまったみたいだ。一番最悪な方向に…。
「一足早く、1つが手に入って嬉しいですわ。ね、サキ様?」
ガチャン
私は、鳥かごの中の飛べない小鳥…。
なんて、気持ち悪いこと言ってる場合じゃないんだけどさ。自分でも寒くなってきたけどさ。でもまさにそんな状況なんですよ。
フィオーナ王女にまんまと鳥かごに収監されましたよ。
「サキ様…素敵ですわあ。儚げですわ。可愛らしいですわ。一生大切にしますわあ。」
王女様が鳥かごの前に座り頬に手を当ててうっとりと言う。
なんか、一見プロポーズのように聞こえるけど絶対違うよね。さすがの私も、無理矢理鳥かごに入れられた状態でプロポーズされて喜ぶような特殊な性癖はありませんから!
「あの、王女様、1ついいですか。」
「あら、何かしら。可愛いわたくしのコレクション。」
「私は何でこんな状況におかれているのか皆目検討がつかないんですよ。バラ園に息抜きに来て、偶然銅像触ったら隠し通路見つけて、地下室で謎の私の名前入りの鳥かご見つけて、気づいたらこの状況ですよ。何だこれ。何て日だ。」
話す度にどんどん言葉が溢れて来た。本当にね。何て日だ。
「うふふ。落ち着いて下さいまし。サキ様には言っていなかったですわね。貴女様は、人間ではないのです。」
はあ。何ですか。突然のお前は人間じゃねえ宣言ですか。お前など私のペットよ!的な。
「あらあら、違いますわ。貴女様が今考えているようなことではなく、本当に、貴女様は人間ではなくなっていたのです。あの、勇者召喚の儀式の日から。貴女様は、『伝説の武器・宮田サキ』様として召喚されたのです。以前『異世界からの旅行者』と鑑定したというのは、方便ですわ。」
「…………は?」
「生きている伝説の武器なんて。まさに伝説ですわ!!絶対に手に入れたいとコレクターの血が騒ぎましたの!!それに、今回は生きた伝説の武器というのがプレミアでしょう?だから方便でも言っておいて、慎重にわたくしのものにしなければね?いつもみたいに、断られたり抵抗されたら力づくで奪う、というわけにはいきませんし…。あら、喋りすぎたかしら?うふふ。」
この歪んだ性癖の、頭のおかしな王女様の言っていることが全て真実とは限らない。限らないけども。
…私が生きた伝説の武器?人間じゃない?何それ。突拍子がなさすぎる。
「信じられないのなら、このメガネで鑑定してみて下さいまし。ご自分のことを。」
鳥かごの僅かな隙間からするりと渡されたフィオーナ王女のメガネ。
私は、震える手で、それを掛けた。