5話 バラ園の隠し部屋
目的地の奥庭に向かい歩いている道中。ユウキ君とフォードさんに遭遇した。
「あっ!サキちゃーん!!やっほー!!」
元気いっぱいなユウキ君の声に、その姿を探すが見当たらない。
「あはは、こっちこっち!」
肩をトントンと叩かれ、振り向くと同時にむにっと、頰に刺さる、ユウキ君の指。
「ぶっ…」
後ろか。初めてされたよ、この若者らしい絡み方。
多分、今めちゃくちゃ不細工な顔になってるし、へんな「ぶっ」て声出たし、恥ずかしさで消えたい…。
「あはは、サキちゃん、かーわいい」
覗き込むようなユウキ君のドアップが目の前に現れ、冗談じゃなく意識を手放しそうになりました。このイケメンに、今まで何人の女が泣かされてきたのやら…。恐ろしい…。そしてそろそろ指を離してくれ…。
「ユウキ様、女性にそのように軽々しく触れては失礼ですよ。サキ様、申し訳ありません。」
「あ、ごめんサキちゃん、つい…」
フォードさんが嗜めてくれたお陰でようやく解放された。少しじんじんとする頰を撫でる。
「ちょっとびっくりしただけだから大丈夫…。ところでユウキ君とフォードさんはどうしてここに?」
「俺たちはさっき、午前の鍛錬が終わったとこでさ、今から自室で休もうとしてたんだ〜。そういうサキちゃんは?」
「私はお散歩。奥庭目指して歩いてたとこだよ。」
「奥庭、というと庭師とシアンが育てているバラ園のことですね。」
「シアンさんもバラを育ててるんですか?」
フォードさんの言葉に驚く。シアンさんとバラ。すごく似合うけども。
「ええ。シアンはバラを育てるのが趣味でして。バラを育ててはジャム作りや匂い袋作りなどしているようです。」
「うわ〜、それは素敵ですね!」
シアンさん、女子力高っ。バラのジャムと匂い袋とか、素敵すぎる。今度ちょっと分けてくれないか聞いてみよう。
「へえ!俺も行こうかな〜!そのバラ園。」
「ユウキ様、鍛錬で疲れた身体を一度休めることも、また鍛錬の一環ですよ。その後でなら幾らでもお供致しますので、一度お部屋にお戻り下さい。」
「ええ〜、サキちゃんと一緒じゃなきゃ意味ないよ。そうだ、何ならサキちゃんも俺の部屋で一緒に休んで、それからバラ園に…」「ユウキ様。余り不用意に女性を自室に招かれてはいけません。」「…なーんてね!俺は自室に戻ることにするよ。残念だけどまたね、サキちゃん。」
フォードさんに言葉を遮られ、苦い顔をするユウキ君。なんだか仲よさそうでいいなあ。微笑ましい…。
ユウキ君は笑顔で手を振り、自室の方へ歩いて行った。その後をフォードさんも続く、と思いきや、私の方に振り向いて言う。
「…サキ様、一つ宜しいでしょうか。」
「え?あ、はい…どうかしました?」
「いえ、出過ぎた真似だとは存じますが、一つご忠告を。奥庭の像にはくれぐれもお手を触れぬよう。王女様の気に入りですので。」
「え…」
「おーい!フォード!お前だけ楽しくサキちゃんと喋ってずるいぞー!」
もう廊下の曲がり角まで差し掛かっていたユウキ君が、声を張り上げる。
フォードさんは「失礼致します。」とだけ残し、今度こそ本当に去って行った。
ユウキ君たちとの遭遇からそれほど経たないうちに、奥庭のバラ園へ到着した。迷わなくて良かった〜。この宮殿、割と迷路みたいだから。
「うわ〜!すごい!」
思わず声に出してしまうほど、咲き乱れたバラは美しかった。もっと色んな種類のバラを想像してたけど、このバラ園は、一面真っ赤なバラだ。一面のバラの海の中に、囲まれるようにして中心に女の人の銅像が立っている。
おお。この銅像、フィオーナ王女に瓜二つだ。
美少女は銅像になっても美しいんだなあ。
銅像に近づいてまじまじと眺めていると、銅像の土台の下になにやら、紙切れが挟まっているのが見えた。
何これ?ゴミ?
分からないけど、せっかくの美しいバラ園と銅像の景観を損ねるよね。拾っとこう。
銅像に手を添えて紙切れを引っ張り出そうとする。
ゴゴゴ…
「うおっ!?」
手を添えたフィオーナ王女の銅像が、突然ひとりでに動き始めた。
あー、ビックリした。何なの…。
そして、動いた銅像のあった位置に、地下へと続く階段が現れた。
なんか、隠し通路的なのが出てきたぞ…。
…はっ。思い出した。フォードさん、さっき庭の銅像に触っちゃダメって言ってたよね。そういうことか〜!
ダメっていうくらいだからなんか、秘密の部屋的なものがあるのかな。お宝とか…。
「やばい、めっちゃ気になる。」