4話 ベルーカの故郷
この世界、グラフィカに来て数日が経った。
ユウキ君とアイリちゃんは毎日、それぞれフォードさん、シアンさんに稽古をつけてもらい剣と弓の修行を頑張っている。
私はと言うと、ユウキ君とアイリちゃんに応援も込めてレモンの蜂蜜漬け(宮殿の厨房を借りて作った)を振舞ったり、この世界で生きていくのに恥ずかしくない程度の知識を得るため、自室でベルーカに勉強を教えてもらったりしていた。
今もまさに、勉強真っ最中である。
「ではサキ様、復習として、今日お勉強されたグラフィカの国々について説明して下さい。」
「はい。え〜っと…」
この世界、グラフィカに国は25カ国ある。フェルラーンは最も東にある国で、世界で3番目の大国だ。肉料理が美味しい。
その他の大国はと言うと…世界で一番の大国、クロスバレンが南に。海のそばで魚が美味しい。フルーツも美味しい。
2番目の大国、北のミルグスレナ。お酒が美味しい。
西のフロイラは4番目に大きい。農業が盛んでお米が美味しい。
「素晴らしいです。国ごとの特産品まで覚えられているのですね。」
ニッコリと笑顔で褒めてくれるベルーカ。
本当に旅行で世界巡ることになったら必要だもんね、その国の名物情報。バッチリ覚えましたとも!
「えっと、あとは北のミルグスレナの向こう、海を越えたところにある島国が、魔王国ガルガレオンだね。」
魔王国が島国…鬼ヶ島みたいなの想像しちゃうよね。
「はい、正解です。国については完璧ですね。それではフェルラーン国内についての説明もお願い致します。」
「了解。えっと、フェルラーンは、フロイム・フェン・フラム・フェルラーン国王陛下が統治する王制国家で……」
「そろそろ、休憩と致しましょうか。お茶を入れて参ります。」
「やった〜!ありがとう、ベルーカ」
ベルーカの入れてくれた温かい紅茶を頂く。ああ〜、あったまる!そしてすごく香り高くて美味しい。
何か、毎日が穏やかすぎて申し訳なくなってくる…。
魔王討伐っていう目的のために勇者の二人は稽古を頑張ってる。
それに比べて、何も役に立ってないくせに、お城で厄介になってる私…。
初めは巻き込まれたんだから〜みたいに楽観的に考えてたけど、ふとした時に考えちゃうよね。
「そんなことありませんよ。サキ様は何も知らないこの世界のことを知ろうと、お勉強を頑張っていらっしゃいます。今はそれが一番必要なことだと思いますよ。」
ニッコリと優しくそう言うベルーカ。
「…今、声に出てたかな、私」
「いえ、そう言う表情をされていましたので。私の特技なのです」
「すごいねベルーカ。…ありがとう。ちょっと心が軽くなったかも。」
ベルーカの優しさで心晴れ晴れですよ。お母さんみたいな包容力もあるイケメンメイド…最高…。ベルーカママって呼びたい…。
心の中で暴走している私をにこやかに見つめるベルーカ。まずい、また特技とやらで考えを読まれる危険性がある。話題を変えよう。
「ところで、ベルーカって、この国の出身なの?」
「いえ、私はとある小国の生まれです。この国には一年ほど前に来たばかりです。」
そうだったんだ。出稼ぎみたいなもんかな。
「故郷ってどんなところ?」
「そうですね…土地は豊かではなく余り作物は実りませんが…海が近いので魚が少し獲れます。昔は戦や争いが後を絶ちませんでしたが、今は良き王に治められているので争い事もなく、民も穏やかに暮らせています。小高い丘に登ると海の遠く先に他の国が見えて、幼少のころは外国に憧れて何度も丘に立って眺めたものです。」
故郷を思い出しているのか、ベルーカは遠くを見るように語った。なんかいいなあ。故郷が大好きなのが伝わってくる。
「そうなんだ。いつか、行ってみたいな。ベルーカの故郷。」
「…私の、故郷にですか?」
私が言った言葉に少し驚いたようなベルーカ。いつも冷静で笑顔を絶やさないベルーカのキョトンとした顔が少し面白い。
でもすぐに花が綻ぶような笑顔で。
「ええ。是非いらして下さい。その時は私も一緒に。故郷を案内致します。」
「かわいい(確信)」
「サキ様?」
「いや何でも。」
危ない、ベルーカがかわいいこと言うから心の声を普通に喋ってしまった。
「サキ様、この後はいかがなさいますか。余りお勉強ばかりでこんを詰めてもいけませんし、屋敷の中を散策されてはいかがですか。」
「うん。座ってばっかりだったし、ちょっと歩きたいかも。」
「でしたら、宮殿の奥庭に行かれたことがなければ是非。薔薇の花が咲き誇りとても美しいので、息抜きになるかと思います。」
なんと!そんな場所があったとは。居候の身で…と思って余り屋敷をウロウロしないようにしてたけど、薔薇の咲き誇るお庭とか、女の子なら誰でも興味を唆られる。行くしかない!
「そんな素敵なところがあるなら是非行きたい!ありがとうベルーカ、お茶を飲み終わったら、行ってみるね。」
「はい。お供いたします。」
「一人で大丈夫だよ。ちらっと見に行ってすぐに戻ってくるし、付き合わせるのも申し訳ないし。」
「そういう訳には……いえ、そうですね。ずっと一緒では息が詰まりますね。お一人でお散歩されるのも宜しいと思います。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
ベルーカは笑顔で送り出してくれた。心なしか笑顔が少し寂しそうに見えたのは気のせいに違いない。あと息が詰まるどころか、四六時中見ていても飽きないくらい麗しいよベルーカは。毎度毎度付き合わせることの申し訳なさでお断りしただけよ!
私は宮殿の長い廊下をゆったりとした足取りで歩きはじめた。