3話 伝説の武器はチート
フィオーナ王女の説明を聞きつつ、お腹がぺこぺこな私は用意された朝食に手を伸ばす。朝から、豪華な鳥の丸焼きやら何かのパイやらフルーツの盛り合わせやらが並ぶ中、とりあえずスープらしきものを頂く。あ、これ美味しい。
「ところでサキ様、お尋ねしたいのですが、こちらへ召喚された際に何か、持って来られたものはございませんか?」
メガネをクイッと上げながら、フィオーナ王女がそう聞いてきた。
徐々に記憶が蘇ってきたけども、そういえば私は昨日の夜、仕事帰りにコンビニでご飯を買って帰宅しようとした。そして目の前にいきなり倒れ込んだ女子高生がいて、受け止めた拍子にいきなり視界が真っ暗になって、気がついたら魔法陣の上にいたのだ。しかもその倒れこんで来た女子高生ってアイリちゃんに似てたような…。
そういえばこっちにきた時にはカバンもコンビニの袋も近くになかった。もしかして道端に置き去りになってる?スマホも財布も入ったまま!テンションガタ落ちです…。
「いえ。手ぶらです…。」
「やはり、そうだったのですね。実は、勇者は召喚された際に1つ異世界より持ち物を持っていらっしゃるのです。サキ様ももしや…と思ったのですが、思い過ごしでしたね。」
「ちなみに俺はこの竹刀だぜ!剣道部の部活帰りに召喚されたんで、そのまま持ってこれたみたいだな」
そう言ったユウキくんが手にしているのは竹刀…ではなく柄に大きな赤い宝石の埋め込まれた美しい細工の宝剣である。
それのどこが竹刀なんですか!?
「どこが竹刀だよって顔だね〜!俺もよくわかんないんだけどさ、王女様に聞いた話じゃ、勇者が持ち込んだ異世界の持ち物は伝説の武器とかいうもんに変わっちまうらしいぜ」
「伝説の武器…?」
「それについては、僭越ながら私からご説明致しましょう」
ユウキくんの後ろに控えたフォードさんが口を開く。
「勇者の持ち込んだ持ち物は伝説の武器となり、勇者にしか扱えない専用の武器として魔王を討ち亡ぼす鍵となるのです。ユウキ様の持つ〝勇者の剣〟は一度振るうだけで山を割る、凄まじい威力を秘めた剣なのです」
えええ。なにそのチート武器。そんなもんあったら魔王の軍勢とか一捻りじゃん…!
「あの…私のは、〝勇者の弓矢〟みたいです。私は弓道部の部活帰りにこっちに呼ばれて…」
そう言ってアイリちゃんも黄金に輝く弓矢を見せてくれた。
「アイリ様の弓矢は、一本放てば百本に増え雨のように相手に降り注ぎます。ああ、なんと素晴らしい…」
うっとりと話すシアンさん。
矢が雨のように降るとか怖っ…。突然戦闘力上がりすぎでしょ高校生ズ!頼もしいな!
「伝説の武器は勇者が所有権を手放すか、それこそお亡くなりにならない限りその持ち主である勇者しか使えません。実は私も、先代勇者様が残された伝説の武器を持っていますの。」
そう言ってフィオーナ王女はクイッとメガネを上げる。
「これは〝勇者のメガネ〟というものですわ。先代勇者様が所有権を手放され、このフェルラーンへお譲り下さいました。これには鑑定という能力があり、使用者は対象者のステータスを知ることが出来ます。」
「それ、伝説の武器だったんですか!」
思わずツッコミ入れてしまったわ!王女様相手に!
だって、メガネじゃん。武器じゃないじゃん。
「ええ。これのおかげで、相手の方の職業まで分かるので、ユウキ様とアイリ様が勇者様で、サキ様が勇者様でないと分かったのですわ。」
「へえ〜すごく便利ですね…。ちなみに、私は何の職業ってことになってるのでしょうか。」
気になったので聞いてみる。するとフィオーナ王女は一瞬固まったようになり、しかしすぐにニッコリと笑って。
「…異世界からの旅行者、ですわ。」
えええええ〜〜。
何かちょっとカッコいいかも…。
「旅行者か、いいね!せっかくだからサキちゃんはこの世界を本当に旅行してもいいかもね。この城だけにいるなんて退屈だろうし。」
ユウキ君が笑顔で言った。城の持ち主の前で堂々と退屈と言ってのける度胸!とツッコミたくはなるが、私のために言ってくれたことは分かっているよありがとう。
うん。たしかにこの世界の観光、楽しそうかも。
「でも、魔王の脅威が迫っているんですよね…?気軽に外を出歩けるんでしょうか?」
アイリちゃんが心配そうに言う。
たしかに、まだ来たばかりの私たちには外の状況が分からない。
たとえば、魔王って結局のところ、どういう存在なんだろうか、とか。私はあまりその手のゲームも小説も縁がなかったから、漠然と悪くて強そうなやつってくらいの知識しかないんだよね。
「あの、ちなみに魔王についても詳しく教えて頂けませんか?この国を脅かすほどの存在がどういうものか知りたいので…」
って、私は直接戦うわけじゃないんだけどね。知識だけでもつけておこう。
「魔王とは、その名の通り魔物や魔族を統べる王ですわ。普段は魔王国〝ガルガレオン〟の魔王城に住んでいるのですが、度々他国へ魔物をけしかけ戦を仕掛けたり、略奪したりと悪虐の限りを尽くしているのです。この国も、いつ襲われるかと思うと…」
フィオーナ王女は悲しげに目を伏せる。
「魔王ってサイテーなやつだな…。そんなの許せねえ!王女様、俺たちに任せとけ!勇者の剣に誓って、魔王は絶対に倒すぜ!」
「私も、怖いけど、そんな非道は見過ごせません…。魔王と戦います。勇者の弓矢に誓って。」
フィオーナ王女の話を聞いて、ユウキくんとアイリちゃんは力強くそう言った。
2人ともめちゃくちゃかっこいいぞ…!私も全力で応援しよう!本当に応援しか出来ないですけど!
「微力ながら私共もお供いたします。ユウキ様」
フォードさんが胸に手を添えて跪いて言う。
「お姫様を守るのが騎士の役目、ですからね」
シアンさんも胸に手を添えて跪く。アイリちゃんに向けてウインクしたの見逃さなかったぞ。そして赤くなるアイリちゃん。む?ここだけ甘い空気を感じる…。
「まあ!頼もしいですわ勇者様方!では、早速今日より訓練を始めて参りましょう。ユウキ様は剣をフォードに、アイリ様は弓をシアンに習って下さいまし。2人とも実力はフェルラーン随一ですわ。さあさあ、奥宮殿の訓練場に案内致します。サキ様、ごゆっくり朝食を召し上がって下さいね。」
そう言うが早いか、フィオーナ王女や勇者たちは足早に訓練場へと向かって行ってしまった。
……うん。今の私の状況を一言で言うとぽつん、だね。仕方ないけど寂しい。寂しすぎる。
しかし腹が減ってはなんとやら。私はとりあえず朝食を堪能することにした。