表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/21

第5話

 そんなことを千恵子が考えている内に、画面は更に変わっていた。


「武器弾薬、それから保存がきく食料を大量に手に入れるのだ。籠城戦に備えた準備をしろ」

「分かりました」

 柴五郎中佐は、横須賀海兵隊から北京に派遣されている小隊長に、指示を下していた。

「他にも防衛に役立つ、と考えた物を見つけたなら、すぐに報告して判断を仰げ。今や一刻を争う」

「はい」

 柴中佐とその小隊長は、更にやり取りをしていた。


「それから、ここに避難してきた日本人のみならず、中国人の避難民からも義勇兵に志願したいという申し入れがあります。日本人については認めていますが、中国人の避難民はどうすべきでしょうか」

「わしが志願者と面談をする。その上で決めよう」

 小隊長の報告に柴中佐はそう答えた。


 その背景では、ナレーションが流れていた。

「少し時が戻る。

 1900年の5月に入った頃から、義和団の面々が徐々に北京市内に入り込むようになっており、北京市内の治安は徐々に悪化していた。

 それもあって、1900年5月の半ばに日本政府は、日本から不測の事態に備えて、横須賀鎮守府海兵隊から1個海兵中隊を天津に送り込んで駐屯させ、更に1個海兵小隊を割いて、北京に送り込んでいたのである。

 本音を言えば、もっと大量の海兵隊、具体的に言えば、横須賀鎮守府海兵隊の全力、1個海兵大隊を基幹とする部隊を北京に送り込みたいくらいだったが、それでは清国政府を過剰に刺激する、と日本政府は考えたことから、1個海兵小隊しか1900年6月初め時点では北京に日本の兵力は存在しなかった。


 それでも、その時には何とかなると日本本国では考えられていた。

 清国政府が北京にいる義和団の鎮圧を行ってくれると考えていたからである。

 だが、北京の現地にいる日本人達の考えは違っていた。

 義和団の面々が、日本人や欧米人、中国人キリスト教徒等を公然と襲うようになっており、更に清国政府の治安維持にあたる人間の多くが、義和団の方を持つようになっていたからである。

 このままいけば、清国政府も我々に銃口を向けかねない。

 そう考える北京にいる日本人達は増える一方だった。


 そうした背景があったことから、北京にいる日本海兵隊の最高位の軍人である柴五郎中佐は、半ば独断専行して、武器や食料等を買い込み、籠城戦の準備を進めていたのだが、どうにも兵力不足は否めなかった。

 そのために、日本人や中国人からの義勇兵の志願を受け入れる状況にあったのである」


 千恵子が、更に画面を見ていると、中国人の義勇兵志願者を、柴中佐が面談している画面になっていた。

「張徳令と言います」

 その中国人の男は40代後半に見えた。

「若い頃に横浜に商売の為に数年間いたので日本語が分かります。そこでキリスト教徒になりました。商売に失敗して、清国に戻ったのですが、キリスト教徒という事で迫害され、流浪の末にここに来ました。ここでこのような事態に出遭ったのも、何かの縁です。義勇兵に志願させてもらえませんか」


 その言葉を聞いた柴中佐は、張徳令に尋ねた。

「何か武術はできますか」

「射撃と銃剣での戦闘なら少々できます」

 張徳令は、そう答えて演武を示した。


 それを見終わった柴中佐は言った。

「中々のものですな。喜んで義勇兵にお願いします」

「ありがとうございます」

 張徳令は答え、画面から去って行く。


 それを見送る柴中佐の画面に、ナレーションが流れる。

「柴中佐は想った。

 あの男の銃剣での戦い方は、純粋な銃剣術ではない。

 槍術を変形させたものだ。

 日本語も横浜辺りの訛りではない。

 訳あって日本から逃亡して清国に渡ってきた日本人ではないだろうか。

 だが、一兵でも欲しい現状では見過ごすしかない」

 ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ