第3話
そんなことを千恵子が考えていると、画面が変わり、ナレーションが流れた。
「会議が終わった後、斎藤一は、別室で待機していた土方勇志に、今後のことを伝えていた」
「土方大尉。我々佐世保鎮守府海兵隊は、義和団事件鎮圧の準備、北京への派遣準備に取り掛かることになった。速やかに佐世保に戻り、様々な準備をせねばならない」
斎藤一が言うと、土方勇志は打てば響くように言った。
「そういうことなら、佐世保に帰り次第、斎藤大佐にお渡しせねばならないものがあります」
続けてナレーションが流れる。
「斎藤一と土方勇志は、佐世保に戻った。その翌日、斎藤大佐の私室を、土方大尉は二振りの刀を持って訪ねていた」
「この刀を斎藤大佐にいざという際には渡すように、と以前に母から言付かっていました。渡せば分かる、とのことで母からそれ以上のことは聞いていません」
土方勇志の言葉を聞いて、刀を受け取った斎藤一は、その刀を抜いて見て、驚愕して叫ぶ。
「これは、土方副長の愛刀、葵紋越前康継ではないか。君が持っていたのか」
「はい。西南戦争の後に永倉新八さんが、母の下へ父の遺愛の愛刀ですと言って、持参されました。他にも何振りかの刀を私は引き継いで持っています」
「そうか。君が持っていたのか」
絶句し、斎藤一は嗚咽し、涙を流す。
暫く時が経ち、斎藤一は嗚咽を止め、土方勇志に言う。
「これは、君が持つべき刀ではないか。君に返そう」
「いえ。私にはこれがあります。こちらを持って、私は父の遺志を継ぎ、柴五郎中佐を救います」
土方勇志は、そう言って、もう一振りの刀を抜いて、斎藤一に示した。
「これは和泉守兼定。確かに土方副長が一番愛した刀。うむ。君が振るうのに相応しい」
斎藤一は、また落涙しながら言った。
「ありがとうございます。この刀に相応しい働きをします」
土方勇志は言った。
土方千恵子は、また斜めに見ていた。
義祖父の土方勇志の剣の技量は、凡人ではないが、超達人と言えるレベルでもない。
天然理心流の道場に私的に通ったこともあるが、中極意目録までしか義祖父は取得できなかった。
(最も、義曽祖父の土方歳三も、色々な実戦向けの癖が付き過ぎていたために、天然理心流の免許は取得できず、中極意目録までしか取得できなかったらしいと千恵子は聞いていた。)
それ故に、実戦で剣を振るったことは(時代もあるが)、土方勇志には無い。
土方勇志にしてみれば、白兵戦になったら、銃剣で戦うのが当然だった。
だが、「台湾で亡くなられた宮様」の映画で、土方勇志が剣を振るうシーンが無かったところ、評論家から観客に至るまでの多数から、
「土方歳三の跡取り息子が剣を振るわないというのはどうなのか。映画なのだから、積極的に剣を振るって土方勇志には戦場で戦って欲しかった」
という意見、感想が噴出したために、今回の映画では土方勇志は剣を振るうことになった。
確かに映画の画面上の写りは、この方が良くなるから仕方ないけど。
と土方千恵子は更に想いを巡らせた。
生前の林忠崇侯爵から、千恵子は直接次のように聞いたことがある。
「土方勇志は、刀、剣術はダメだ。わしには到底、勝てない。土方勇志は、銃剣での戦いの方が得意だ」
最も、林侯爵の剣の腕は、斎藤一に伍する腕前なので、土方勇志に対して冷たい評価になるのはある意味で当然だった。
ある程度、中立的な意見と思われる空軍の草鹿龍之介将軍(ちなみに一刀正伝無刀流4代目宗家で、海軍兵学校時代、土方勇志が教官を務めた)から、千恵子が聞いたところによると、
「土方勇志提督は、剣の腕はまあ達人と言えるでしょうか。その程度で、それ以上は教え子としてちょっと言えません」
とのことだった。
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