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第1話

 そんなことを土方千恵子が考えている内に、映画は始まった。


「土方さん。会津藩を本当に見捨てるのか」

「見捨てるのではない。仙台に赴き、仙台藩等と共同して会津藩救援に駆けつけるつもりだ」

「それができると、本当に考えているのか」

 画面上では、若き日の斎藤一が、土方歳三に詰め寄っており、土方歳三は、視線を下に向けて、斎藤一から目をそらしていた。


「これを斎藤に託す。本当に自分達が会津藩を救援に駆けつけるつもりだということの証として」

「これは」

 土方歳三は、斎藤一に2つの物を渡そうとし、斎藤一は受け取ることを躊躇った。


「新選組の誠の旗と、会津藩主の松平容保公より直々に賜った名刀、葵紋越前康継。この2つを斎藤に託す。これでも信用できないのか」

「いえ。信用します」

 土方歳三は、新選組の旗と会津藩主から賜った刀を、斎藤一に渡した。


 そこにナレーションが入った。


 だが、2人共に分かっていたのだ。

 最早、会津藩を救うことは不可能であり、どうにもならないことを。


「斎藤、志を同じくする者をできる限り引き連れていくことを許す。自分達が救援軍を引き連れてくるまで、出来る限りのことをしてくれ」

「分かりました」

 土方歳三は、視線を逸らしたまま、涙を浮かべて、そう言い残して部下達と共に出立した。

 斎藤一は、自分と志を同じくする者と共に、それを見送った。


 更に画面が変わった。


 ナレーションが流れる。

 だが、救援軍は来なかった。

 会津鶴ヶ城陥落後、斎藤一は、会津鶴ヶ城に一般人のふりをして隠密裏に入る。


 斎藤一は、そこで1人の少年に出会う。

「結局、救援軍は来なかった」

 その少年は、体育(三角)座りをし、膝を抱え込み、俯きながら言った。

「済まなかった。力が足りなかった」

 斎藤一は、その声を聴いて、頭を下げながら、ささやいた。

「君の名は」

「柴五郎」

 その少年は答えた。


 更に画面が変わる。


 ナレーションが流れる。

 西南戦争が始まり、斎藤一は長崎に、誠の旗と葵紋越前康継を持って駆けつける。


「土方さん」

「まさか、その2つを持ってきてくれるとは」

 斎藤一は、土方歳三に声を掛けて、旗と刀を渡す。


「結局、会津藩を自分は救えなかった。この旗と刀は、その悔いを思い出させる」

 土方歳三が述懐する。

「いつか、その悔いを晴らす時があると信じましょう」

「そうだな。それを信じよう」

 斎藤一が、そう土方歳三に声を掛け、土方歳三も、それに同意する。

 その周囲には、永倉新八、島田魁ら、かつての新選組の面々もいた。


「ここに近藤勇さんや原田左之助らもいればなあ」

「そうですね。でも、皆、あの世に逝ってしまいました」

「そうだな。自分も逝くのだろうな」

 土方歳三と斎藤一は会話する。


 また、画面が変わった。


 ナレーションが流れる。


 城山の戦い、土方歳三は桐野利秋と相撃ちになり、致命傷を負っていた。


 布団に横たわり、末期の息をしている土方歳三が、斎藤一に声を掛ける。

「どうやら、悔いを晴らせずに、自分は逝くことになりそうだ。どうか、悔いを晴らしてくれ」

「でも、そんなことがあるでしょうか」

 斎藤一の疑問の声に、土方歳三は呟くように言う。

「きっとある。自分の息子と共に会津藩を救えなかった、という悔いを、その時には必ず晴らしてくれ」

 そう言って、土方歳三は目をつぶり、息を引き取った。


 千恵子は、ここまでの情景を斜めに構えて見ていた。

 千恵子の両親は会津出身であり、更に義曽祖父(夫の曽祖父)が、土方歳三であることから、色々と真実を知っている。

 幾ら映画だからと言っても、それが千恵子の想いだった。


 そもそも幕末に新選組が掲げた誠の旗は戊辰戦争の際に失われ、維新後に屯田兵村で再製されたのに。

 千恵子はそうも思った。

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