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第16話

 少し時が戻る。

 露の進軍妨害は中々止まなかった。

 露としては、少しでも多くの自国の軍隊を義和団事件を理由に清国内に送り込みたかった。

 そのために、義和団事件の鎮圧を行う救援軍の早期進軍に反対していたのだ。

 日本海兵隊の進軍が独断専行過ぎる、列国会議を開いてその上で進軍すべきだ。

 幾ら運河があるとはいえ、鉄道の補修無しに進軍して良いものではない、鉄道の補修を最優先にすべきだ。


 だが、北白川宮殿下を筆頭に、日本海兵隊はその露の進軍妨害を無視した。

 しつこく露が言ってくると、義和団と清国軍との戦いに忙しく、そんな余裕はない、と木で鼻を括る様な返答を一貫して行った。

 すると、露は他の諸外国を味方に付けようと工作した。


 しかし、露の進軍妨害があからさますぎると、英仏米等は拒絶反応を示したし、今回の件に関してはやや露に好意的な独墺等さえも、日本海兵隊の急進撃の前に沈黙せざるを得なかった。

 そして、8月8日の深夜に日本海兵隊を先頭に9か国連合軍は、北京城の城壁を望める場所まで急進撃を果たすことに成功したのである。

(と少し長めのナレーションが流れた)



 旧暦で言えば7月14日ということもあり、満月に近い月が日本海兵隊を照らす中で、海兵隊の砲兵部隊は、北京城の城壁に対する砲撃準備を行っていた。

「口径が小さいのが不安ですが、集中砲撃を浴びせれば何とか城門等を破ることは可能だと考えます」

 内山小二郎大佐が、北白川宮能久親王殿下に報告していた。

「うむ。日の出と共に砲撃を開始することは可能か」

「ご安心を。砲兵隊の兵員が、うたた寝するだけの時間もあります」

「よし。疲れをとって必中を期せ」

「はっ」

 画面上では、そんな会話を2人が交わしていた。


「寝れないな」

 土方勇志大尉が、ボヤキながらも横になって眠ろうとしている。

 その横にいる多くの下士官兵も同様らしく、寝返りをひたすら打つ者が多い。


「明日、少しでも早くこの旗を届けねば。そして、土方大尉に浅葱色の羽織を着せてこの旗を持たせれば」

 斎藤一大佐は、ここまで持参してきた新選組の誠の旗の傍にたたずみながら、独り言を言っていた。

「必ずや、あの人は正体を現すだろう」

「あの人とは誰なのです」

 岸三郎少佐が、斎藤大佐に声を掛けた。

「既に戦死した筈の新選組の仲間だ。彰義隊の戦いの時にな」

 斎藤大佐は答えた。


 二人の間に暫く沈黙の時が流れた後、斎藤大佐は独白を始めた。

「あの人は、彰義隊の戦いの後、行方不明になった。多分、彰義隊の戦いの際に戦死したのだろう、と多くの者が考えた。何しろ、200人以上が戦死し、その中には遺体の損傷が酷く、誰の遺体か分からないものも多数あった。そして、彰義隊の遺体の多くは無残に取り扱われてしまった。だから、その中にその人が混じっていても不自然ではない」

 斎藤大佐はそこで言葉を切った。


「だが、私が戊辰戦争後、東京に住むようになってから、妙な噂を聞いた。その人が、彰義隊の戦いを生き延びて新潟へ、更に朝鮮へと逃げたというのだ。更に噂には尾ひれがついて、満州にまでたどり着いて馬賊になったという噂にまでなった。だが、永倉新八や私といった新選組の仲間達は、その噂に首を捻った。あの人が本当に生きていたのなら、妻子の下に戻る筈だ、と我々は想った。愛妻家で子どもが大好きなあの人が、妻子を見捨てて、朝鮮へ更に満州へと赴くだろうか、とな。それにその当時の朝鮮は鎖国中だ。あの人が朝鮮にそもそも入れただろうかとも」

 斎藤大佐は、そこで言葉を切って、頭を振った。


「ともかく明日になれば真実が全て分かるだろう。ともかく寝よう。しゃんとして戦わねばな」

「はい」

 斎藤大佐と岸少佐は動き出した。

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