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第15話

 命を惜しんで戦場から敗走した義和団と清国軍の混成部隊の多くが向かったのは、北京だった。

 天津から北京へと向かう救援部隊、9か国連合軍を、もう阻止できないと考えた義和団と清国軍の混成部隊は、せめてもの腹いせとして、人質としての価値が無いと考えた籠城部隊への猛攻を加えるようになった。

(とナレーションが流れた)


「断じて退くな。後少しだけ持ち堪えれば、救援部隊が来る。北白川宮能久親王殿下が直卒して、サムライ、海兵隊が駆けつけてくれる。ここを会津鶴ヶ城にはさせない、と北白川宮殿下からお言葉があったのだ。そのお言葉を信じて戦うのだ」

 画面上で、柴五郎中佐は咆哮していた。


「応」

 生き延びている柴中佐率いる海兵小隊の隊員、皆が声を限りに応える。


「弾薬です。とりあえず今できているのを全て持参しました」

 そこに民間の日本人が、布袋に入れた弾薬を持参してくる。

「有難い。これでまだ戦えます」

 柴中佐が丁寧に答え、小隊員は各自が弾薬を受け取っていた。


 上手いなあ。

 土方千恵子は、素直に感嘆した。

 さりげなく北京籠城戦のシーンを再現している。

 北京で籠城している民間の多くは、単に守られるだけの存在ではなかった。

 義勇兵として志願する者もあれば、負傷兵の看護にあたる者もおり、また、武器弾薬の自作を試みて、兵士に提供する者もいた。

 何もできない、と謙遜しつつ、見張りに立つ老人までいたという。

 こういった軍人のみならず、民間人まで協力したことが、北京籠城戦の成功につながったのだ。

 そして。


「コッソリ、武器弾薬や食料を調達できていたのですが、救援軍に敗れて敗走してきた部隊が殺気立って、我々の最前線に来ているようで、武器弾薬や食料の調達が出来なくなりました」

 張徳令が、柴中佐に渋面で報告している。

 張徳令は、北京から天津へ、更に天津から北京へと決死の伝令任務を成功させた後、北京で籠城している中国人キリスト教徒の事実上の頭首としての役を映画で務めるようになっていた。


「後、数日、耐えればいいのだ。それだけの食料はあるし、弾薬も何とか持つだろう」

 柴中佐も少し渋い顔をしたが、すぐに気を取り直したようで、そう張徳令に明るい声を掛けた後で続けて言った。

「何しろ北白川宮殿下、いや輪王寺宮殿下が言われたのだろう。君は、その名前の方が呼びやすいのではないのかな」

 柴中佐は、張徳令にカマをかけた。

「何を言われるのです。私は中国人ですよ」

 張徳令は、シラを切った。

「そうかね」

 柴中佐は、全てを見透かすのような目をした。


 だが、二人の会話に水を差すかのような轟音がした。

(後で観客に分かるのだが、北京城の城壁が終に崩れ、日本海兵隊を先頭に9か国連合軍が北京城に乱入したのだ)

 二人は何事か、と顔色を変えた。

 そして、更に。


「目の前の義和団や清国軍が殺気立っています。どうやら、最後の戦闘だと覚悟を決めたようです」

 見張りをしていた中国人義勇兵が声を限りに叫んだ。

「どうやら最後の戦いのようですな。弾が切れるまで撃つ必要がありそうだ」

 海兵隊の下士官が、腹を括ったような声を挙げた。


「弾が切れても戦えよ。銃剣がある。銃剣が折れたら、素手でも戦い、何としても民間人を守り抜け」

 柴中佐が叫んだ。

「これはきついことを言われる指揮官だ。ですが、それこそ武人の言葉ですな。その命令通りに戦って御覧に入れよう」

 張徳令が芝居がかった口調で言う。

 それを聞いた周囲の兵に笑いが起きた後で、兵が口々に言った。

「私も柴中佐の命令通りに戦って御覧に入れましょう」

「私も」

「私も」


「良く言ってくれた」

 柴中佐が落涙しながら言った。

「得難い部下を持ったことにわしは心から感謝する。各自、奮闘せよ」

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