第14話
斎藤一や林忠崇、土方勇志、岸三郎らが剣を振るう勢いに押されて、相次いで画面上の義和団の団員は、海兵隊に背を向けて逃げ出し始めた。
「追うな。追うな。逃げる者の命を奪うことは無い」
日本海兵隊の伝令兵が声を限りに大声を上げている。
(画面上では)その声を聴いた斎藤一らは冷静さを取り戻して、戦場から逃げる義和団の団員を見逃した。
「命冥加な奴らだ」
斎藤一が笑いながら刀を納めている。
「生きたい奴は逃げるがいい」
林忠崇も苦笑いをして、刀を納めつつ、部下の方に向き直っていた。
土方千恵子は、この画面上の光景を見て思わざるを得なかった。
田坂具隆監督としては、第二次世界大戦を契機に広まった、敵は絶滅させるべきという思想を批判したいという想いから、この画面を撮ったのではないだろうか。
自分の考え過ぎなのかもしれないが。
第一次世界大戦は、戦争を終わらせるための戦争と当初は謳われた筈だ。
だが、実際にはそうはならなかった。
第二次世界大戦が起こってしまった。
更に言うなら、第二次世界大戦後に自発的に早期退役した石原莞爾提督に至っては、「世界永久戦争論」を現在は書いて出版する有様になっている。
第二次世界大戦の最大の功績は、戦争を本当に終わらせたいのなら敵を絶滅させるしかない、というシニカルな思想を世界的に広めたことではないだろうか。
そう千恵子は想う事がある。
このシニカルな思想は、恐らく世界の大多数、少なくとも過半数の人々からは反対されている筈。
だからこそ、田坂監督はその思想に反対する意思でこの画面を撮った。
だが、実際は。
第二次世界大戦が終結した後、世界各地で民族、宗教紛争が噴出している。
そして、民族、宗教の過激派の声は大きく、穏健派の声は陰りがちだ。
その結果として、憎悪が憎悪を産み、終わりの見えない戦争が世界各地で起こっている。
第二次世界大戦の戦勝国の筈の米日英仏等は、第二次世界大戦で疲弊しきってしまった。
日米等の植民地を(余り)持っていない国々は、完全に内向きになってしまった。
英仏等の植民地を持っている国々は、植民地を半ば見捨てて植民地の独立を容認しつつある。
そのために民族、宗教紛争を誰も押し止めようとしない状況になっている。
例えば、インドはそのためにかつての中華民国と同様に分裂するのでは、と危惧される有様だ。
本当にそんな事態になったらどうなるのか、つい、仕事柄で千恵子は頭の片隅で懸念してしまった。
もっともこの映画は基本的に娯楽作品である。
千恵子自身がそれは考えすぎだ、と思わせるかのように画面は更に変わっている。
北白川宮殿下の下に、林忠崇や斎藤一、内山小二郎らが集ってきた。
「よくやってくれた。これで北京への路は完全に開けた」
北白川宮殿下が、林忠崇らに労いの言葉を掛けた。
「一刻も早く、北京へと急行しましょう」
斎藤一が声を挙げた。
「気持ちは分かるが、あれだけの戦いをしたのだ。小休息をすべきだ」
林忠崇が主張した。
「林提督に同意します。戦場の掃除をしないといけませんし、あれだけの戦いをした以上、多くの兵士が疲れています」
内山小二郎も林提督に加担した。
「林や内山の方が正論だろう。それに露の妨害も排除しないとな」
北白川宮殿下が決断を下しながら言った。
「露の妨害とは」
斎藤一が問いかけた。
「いや、色々と露が言ってくる。会議を開けとか、鉄道の修復を最優先にすべきだとかな。戦闘で忙しいという口実でできる限り聞き捨てているが、全く答えない訳にもいかない」
北白川宮殿下は愚痴った。
千恵子は想った。
史実でもそうだったといえるが、ここでも露は悪役だな。
仕方ないけど日本海兵隊の足を引っ張る役を露は務めている。
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