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第13話

「手持ちの砲弾、30発を迅速に全弾射撃せよ」

 内山小二郎大佐が号令を下し、日本海兵師団の砲兵隊が全力砲撃を行った。

 画面上では、前面の義和団と清国軍の混成部隊は壊乱状態になっていた。


 それはそうだろう。

 と土方千恵子は、義祖父から聞いた昔語りを思い起こした。

 この当時の日本海兵師団は75ミリの山砲48門等を装備していた筈。

 幾ら20万人近い大軍とはいえ、更に75ミリの山砲に過ぎないとは言え、身を隠すもの一つない状態で、疾風のような勢いで10分間で1500発近い砲撃を浴びせられたのだ。

 それで、平然と耐えられる兵士がほとんどいるなら、この目でお目にかかりたいものだ。


「各員、個々に射撃して突撃せよ。今こそ好機」

 林忠崇提督が絶叫して、眼前の敵軍に突撃していく。

 その声に呼応して、その指揮下にある将兵は思い思いに射撃して、敵軍に切り込んでいく。

「生を惜しむ者は速やかに逃げよ。死にたい奴だけ残れ。虎徹の錆にしてくれる」

 映画の画面では、目を据わらせて林提督が、清国軍の部隊に更に斬りかかっていた。


 一方、次の画面では、土方勇志大尉や岸総司少佐が刀を正眼に構えて、義和団の団員に斬りかかっていた。

「父より伝えられた遺愛の和泉守兼定よ。父の無念を晴らし、柴五郎中佐の下へ駆けつける時。我の想いに応えて、力を貸せ」

 土方大尉がらしからぬ科白を吐いて、義和団の団員を斬り捨てていく。

「永倉さん。播州手柄山氏繁が再び血を吸う時が来ましたぞ。永倉さんの力を貸してください」

 岸少佐も、思う存分に刀を振るっていた。


 千恵子は斜めに構えて、その光景を眺めた。

(異母)弟の岸総司が、母方の実祖父の岸三郎提督が、こんな映画を作られては表を歩きにくい、とぼやいていると私に言ってくるのも最もな訳だ。

 義祖父の土方伯爵にまで岸提督はボヤキに来たらしい。

 実際、岸提督の剣術の腕は土方伯爵といい勝負らしいから、岸提督がぼやくのも無理はない。

(千恵子は、敢えて岸提督の件に関しては、これまでの様々な因縁から距離を置いていた)


 そして、斎藤一大佐が画面上に出てきた。

「こいつはいい。右も左も敵ばかりだ。思う存分、刀を振るうまでだ」

 そう画面上の斎藤大佐は笑いながら言っている。

 実際、十重二十重に義和団の団員は、斎藤大佐を取り囲んでいる。

 だが、その笑い声を聞いた義和団の団員全員の腰が引けてしまっている。


「行きたい奴は逃げるがよい。死にたい奴だけ掛かってこい。この葵紋越前康継の錆にしてくれる」

 斎藤大佐が、刀を正眼に構えながら、そう言い終わった瞬間に、義和団の団員全員は泣きながら斎藤大佐に喚きかかった。

「そうか、戦って死にたいか。一度に1人に襲い掛かれるのは6人までだ。それも一斉に襲い掛かると自分の武器が味方に当たる。だから、時間差が出来てしまう。結局、1対1の戦いになるのだ。冥土の土産に覚えておけ」

 斎藤大佐は笑顔のままでそう言い放ち、義和団の団員を何人も斬り捨てていった。


 千恵子はそれを見て更に思った。

 斎藤一大佐の最後を飾る戦い、義和団事件の際の百人斬り伝説。

 林侯爵に私が聞いた限り、

「百人斬りどころか、十人斬りも実際には不可能に近い。どうしても刃こぼれするし、血糊等で斬れなくなってしまう。西南戦争の田原坂の戦い等でも、自分は何本も刀を取り換えて戦った」

 そう林侯爵自身が認めていた。


 だが、斎藤一大佐の最後の戦い、義和団事件の際の戦いには、この伝説が真実のように伝えられている。

 実際に現場にいた日本海兵隊員の殆ど(上は北白川宮殿下から下は末端の兵まで)が否定するのに、この伝説は真実だと肯定する者が多い。

 それだけ、斎藤一の剣客伝説は強く根付いている。

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