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第12話

 いよいよ海兵隊が、天津から北京へと向かうのか、と土方千恵子は期待したのだが、その期待は少し裏切られた。

 その前に、千恵子からすれば、要らない描写が入ったのだ。


「浅葱色の羽織ですか。ここ、天津で手に入りますかね」

「やるだけやってみてくれ。今は理由は言えないが、土方大尉に着せてみたい。それから、土方大尉には内密にやってくれ」

「分かりました。他の者を使ってもいいですか」

「口の堅い下士官ならいい」

「分かりました」

 画面上で、斎藤一大佐と岸総司少佐がやり取りをしていた。


 次の画面で、岸少佐が浅葱色の羽織を持って現れる。

「何とか手に入りました。それで、今、土方大尉に着せるのですか」

「今ではない。着せる時が来たら、私から指示する。それまでは隠し持ってくれ」

「一体、何事なのです」

「何れは分かるが、今は秘密だ」

 斎藤大佐と岸少佐はそうやり取りをしており、斎藤大佐は笑みを浮かべていた。


 千恵子は考えた。

 敢えてこの場面で入れるという事は、張徳令絡みだろうか。

 だが、この状況で必要性があるのだろうか。

 必要性があるという事は伏線ということになるが。


 そんなことを千恵子が考えている内に、画面は更に変わっていた。

 日本海兵隊の軍服を着た将兵が続々と画面上に現れた。

 ナレーションによれば、日本海兵師団の約1万6000名の将兵だった。

 同じくナレーションによれば、その前には約20万名に近い数の義和団と清国軍の混成部隊が立ち塞がっていた。

(なお、画面上には、義和団と清国軍の混成部隊らしき大量のエキストラが現れていた。)

 そして、日本海兵隊の後方には約1万名の日本以外の八か国の将兵が続いているとのことだった。


「さてもさても、盛大なおもてなし。心から悼み入る。命を惜しまれるなら、速やかに逃げられよ」

 画面上では、北白川宮能久親王殿下が、義和団と清国軍の混成部隊を見て言っていた。

 傍にいた(無名の大尉の襟章を付けた)士官が、北白川宮殿下に言上する。

「9か国連合軍全てを合わせたのよりも5倍以上、我が日本海兵隊単独で考えれば10倍以上の数です。幾ら装備に勝るとはいえ、勝てるのでしょうか」


 北白川宮殿下は、悠然と答える。

「例え眼前の2倍の数がいようとも、日本海兵隊単独で勝って見せる。戊辰戦争の際の悔いを晴らさねばわしはあの世に逝けないからな。そして、わしの想いを多くの海兵隊員が共有している」


 内山小二郎大佐が、画面上で吠えていた。

「いいか。砲兵隊は全力で眼前の敵に砲弾を撃ち込め。10分間で30発の砲弾を撃ち込むのだ。これまでの訓練の精華を今こそ示す時ぞ。北白川宮殿下の御前で恥を晒すな」

「応」

 砲兵隊員が、声を揃えて答えていた。


「今日の虎徹は、血を求めておるようだ」

 林忠崇提督が画面上で呟いていた。

「目の前の敵は逃げた方が良い。死にたい奴だけ掛かってこい。掛かってきた者は、全員が死出の旅路へと赴くことになるだろう」

 その言葉を聞いた林提督の後に続く将兵は、全員が身体を震わせた。


「砲撃が終わり次第、一斉射撃を浴びせた後で全員が突撃せよ。わしが先陣を切る」

 斎藤一大佐は、目を据わらせて部下の将兵に訓示していた。

 土方勇志大尉が、その言葉を聞いて思い切って忠告した。

「斎藤大佐自ら先陣を切られなくとも良いのでは」

「一刻も早く、北京に向かう必要があるのだ。わしの今生の願いを聞いてくれ」

 斎藤大佐のその言葉を聞いた土方大尉は、何も言えなくなる。

 他の将兵全ても同様で、沈黙してひたすら義和団と清国軍の混成部隊を見つめるだけになった。


 千恵子は想った。

 北白川宮殿下、林提督、斎藤大佐、内山大佐、全員が前しか見えていない。

 血の雨がこの後に降ることになる。

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