第11話
「張徳令という北京から脱出して、ここまでたどり着いた人間が言っている。北京城で外交団や避難民達のほとんどは生き延びていて、救援が駆けつけるのを待ち望んでいると。一刻も早く、天津から北京へと向かうべきだ。もし、他の国が動かないというのなら、我が日本海兵隊は単独で全力出撃させてもらう。最早、外交団や避難民の食料は尽きようとしているとも、張徳令は言っている。天津にまで駆けつけながら、北京城にいる外交団や避難民を餓死させた、という百年の汚名を被りたいのか。この際、我々は全力で北京城へと急いで向かうべきではないのか」
北白川宮能久親王殿下は、会議の場で最終通告ともいえる発言をしていた。
その横では、林忠崇提督が肯いている。
「その情報が本当だという証拠は全くない。その証拠が本当だと確認できるまで、我々は動くべきではない。外交団や避難民はすでに全員が死んでいる可能性もある。もっと兵力を集めるべきだ」
露の将軍が声高に、北白川宮殿下の主張に反論する。
だが。
「我が米軍は総力をもって、日本海兵隊に共闘して、天津から北京へと向かおう」
「我が仏軍も同様である」
「我が英軍も同様だ。何としても北京城の外交団や避難民を救わねば」
張徳令の報告を聞いた英仏米等は、事ここにいたり、完全に日本の味方となり、天津から北京へと救援軍は急行すべきという意見になっていた。
だが、意地悪な意見を言う者もいる。
「日本海兵隊が先鋒を本当に務められるというのなら、独は味方しましょう。それから天津から北京までの補給の確保はどうされるのでしょうか。北京から天津までは120キロ余り、その間の鉄路は、完全に寸断されています。鉄路を修復しながら進撃しなければならないとも考えますが」
独の将軍が、そう皮肉めいた意見を言った。
「これは、ライン川水運等の内陸水運を持たれる独の将軍とも思われないことを言われますな」
林提督が、その言葉に対しては皮肉で返した。
「北京から天津までは運河でつながっています。内陸水運も活用すれば、数日間の緊急補給を確保して北京へ天津から急行することは容易です。それから、先鋒は謹んで我が日本海兵隊が承る。臆病者の独軍は後からついてこられれば良かろう」
「我が独軍を臆病者と言われるのか」
「臆病者で無いと言われるのなら、独軍が先鋒を務められてはいかがか」
「我が独軍には、先鋒を務められるだけの兵力が無いのだ」
「それなら、我が日本海兵隊の足を引っ張るような発言を慎まれてはいかがか」
「良く言えるものだ。それなら、日本海兵隊の精華を見せてもらおうではないか」
「という事は、独も日本に味方するという事でよろしいですかな」
独の将軍と林提督とのやり取りというよりも口論に、北白川宮殿下が口を挟んだ。
「無論。言うまでもない」
反射的に独の将軍が言った後で、しまった、という顔色になった。
「露以外は全て日本の味方のようですな。この際、我々は北京に急いで向かうべきでしょう」
韓国の将軍が口を挟んだ。
露以外の将軍(独は渋々だが)全てが、その言葉に肯いた。
「それでは北京に向かいましょう。それから私が前線の司令官を務めましょう。異存はありませんな」
北白川宮殿下が発言し、その言葉に会議の参加者の殆どが同様に肯いた。
千恵子はそれを見て思った。
映画とは言え上手いなあ、北白川宮殿下と林提督が見事に連携している。
韓国の将軍の発言は、北白川宮殿下の内意を受けてのものだろうか。
それにしても、ようやく天津から北京へと9か国連合軍が向かうことになるのか。
ということは、数倍の義和団と清国軍の連合軍に、日本海兵隊が圧勝したあの戦いはどのように描写されるのだろう。
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