表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/21

第10話

 更に画面は変わっていた。


 張徳令は、一寝入りをした後で朝食を食べ、天津から北京へと命懸けの帰還を図ろうとしていた。

(とナレーションが流れた)

「まさか、輪王寺宮殿下に直接に自分がお会いできるとは。そして、新選組の誠の旗を、このまぶたに焼き付けることができるとは。今生の思い出ができたな」

 張徳令は、そう呟いて、日本海兵隊のいる陣営を名残惜し気に見ていた。


 その張徳令の姿を遠目で見つけた斎藤一大佐は、顔色を変えながら言った。

「あの姿は。あの人ではないだろうか。いや、あの人は死んだ筈。だが、あの噂が本当ならば生きていて、ここにいてもおかしくはない」

 そう呟いて、張徳令に近寄り、声を掛けようとしたが、そこに間の悪いことに岸三郎少佐が声を掛けた。

「斎藤一大佐、林忠崇提督がお呼びです」


 斎藤一、という声が、張徳令の耳に届いたのか、張徳令は不自然に見えない程度の足早の歩きで、斎藤大佐の視界から消えていく。

 斎藤一は、舌打ちするような想いをした。

(とナレーションが流れた)


「どうかなさいましたか」

 岸少佐が斎藤大佐に声を掛けた。

「あの男、張徳令だそうだが。かつての知り合い、日本人の気がするのだ」

 斎藤大佐は、そう答えた。


「一体、誰だと思われたのです」

「新選組のかつての仲間、但し、死んだ筈の人間だ」

「えっ。それなら追いかけないと」

「いや、追いかけて声を掛けても、別人の中国人だと否認されるだろう。もし、最初から自分で認めるつもりなら、日本人だと最初から名乗るだろうからな。だから、思わず、自認させるようなことをしないと、シラを切られて意味が無い」

「何か方策がありますか?」

「ちょっと考えてみる。それにしても、あいつに遭うとは。噂は本当だったのかもしれん」

「誰なのか、教えてもらえませんか。それから、噂とは」

「今は言えない。だが、全てが終わったら、日本に帰る前に明かそう。取りあえず、林提督の下に行こうではないか」

「はい」

 画面上では、斎藤大佐と岸少佐が、少し長めのやり取りをした。


 それを見た土方千恵子は、更に考えた。

 やはり、新選組の仲間だったのか。

 それにしても、何故に日本人ではなく中国人だと、身元を偽るのか。

 その理由は何なのだろう。

 そして、誰なのだろうか。


 そう千恵子が考えている間に画面は変わり、ナレーションが流れた。


 命辛々、張徳令は、天津から北京へとたどり着き、更に北京城へと潜り込み、そして、柴五郎中佐の下に帰り着くことに成功していた。

 張徳令の北京への帰還は、籠城していた外交団や日欧米の避難民、更に中国人キリスト教徒から歓呼の声をもって迎えられていた。


 柴五郎中佐の前で、張徳令は報告している。

「ご安心ください。北白川宮能久親王殿下が、直々に私に声を掛けて約束して下さいました。日本海兵隊、サムライは8月4日早朝を期して、全力で天津から北京に向かって出撃する。今度は、会津鶴ヶ城の悲劇を柴中佐に味わせるようなことはしないと。それまでの間、今少しの間、北京で籠城している人達には頑張ってほしいと。例え、他の国々からの妨害があろうとも、サムライとしてこのことは誓うと」

 

 その声を聴いた柴中佐やその周囲の人達は落涙し、中には嗚咽する者もいた。

 代表して、柴中佐が声を震わせながら発言する。

「北白川宮能久親王殿下自らが、日本海兵隊の全力出撃を約束して下さるとは。数日もすれば、我々の下に日本海兵隊が必ずや駆けつけてくれるだろう。その間だけ、我々は守り抜けばよいのだ。何としても守り抜いて、日本海兵隊の来援を生きて待とうではないか」

「応」

 海兵隊員や義勇兵の多くが、柴中佐の声に呼応して応える。

 それ以外の人達も、無言で肯いた。

ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ