第七話 ゲロゲロPT 緑猫回
リアルって、辛いよね。
深夜、フロッガのとある宿の一室にて──
「ねぇ、あなた。……クエリは……楽しんでいるかしら。あの子は昔から引きこもりがちだから……少し、ほんの少しばかり心配なのだけれど……」
「そうだね。けれども君が心配する必要はない。あいつのことは私が背負っていればいい」
「ッ……でも!」
「でもじゃない。あいつが行くと決め、それに我々は『封印を解く』という助け舟を出し、その舟にあいつは乗ったのだ。自分でも自身の力のことは分かっているだろう。その上で、自分が創った夢の世界を壊さないように、創った意味を再確認するために、ちょっと出掛けただけだ。もう一度言う。君が心配をする必要はない。良いな? ……話は終わりだ」
窓から夜空を眺める男性は話をさっさと終わらせると、シャワールームに入ってしまった。服を着たまま行ってしまったが、ルームの中には脱ぎ捨て場があるので問題ない。だがしばらくは出てこなさそうだ。
取り残された女性は、用意されていたネグリジェを着てベッドに入る。
そして密かに、我が娘の事を想う。
「クエリ……無事でいて……」
~~~~~~~~
フロッガの祭り・大食い会場にて──
「……おかわりッ!」
「おおっ! 黒崎選手、これで三千キロカロリー突破だぁ~!!! 彼女の胃袋は留まることを知らないのかァ~!?」
フロッガ大食い対決。
それは、最強の大食いたちがプライドと意地を賭けて食いまくり合う、この街の名物!
世界中から、食べることに関しての猛者たちが集まり、食べて食べて食べまくる!
苦手な食べ物が多い奴でも安心しろ!
好きなものを食べまくり、その合計カロリーで勝敗を決するから、どんな奴でも大丈夫だ!
さぁ、君もこの闘いに挑戦しよう!
※賞金、金貨百枚。
──と言うのがこの大会の売り文句である。
噴水のある広場で休憩するために向かったのが最後、そこで大々的に行われていたのは大食い対決。休憩なんて出来たもんじゃない。
そしてそれに二人が反応してしまった。
よく食うよく寝るよく育つ……筈だった、か弱い乙女? の黒崎シオン。
ボンキュッボンの童顔女の子、天神姫のクエリ。
どちらも好奇心旺盛なため、
「あ! 大食いやってるー! 行こ行こ!」
「大食い……面白そう……!」
みたいな感じの軽いノリで参加しようとしたのだ。
「え、ちょっと待って。参加費が銀貨一枚──」
「さぁ! いざ決戦の地へ!」
「おー……」
「ちょ、もうそんなお金無い──」
「すみませんおじさん! 三人分、参加する!」
「お? そんな華奢な体で参加するのかい? ……いいだろう! 参加費はあるかい?」
「え? 参加費? 参加費があるの?」
「そうだぜお嬢ちゃん。そこの看板、よく見てみな。銀貨一枚って書いてあるだろ?」
「……ホントだ、シオン……。もう私達、お金、無いかも……」
「な? だからさっきから言おうとしてたけど、もう俺の金は尽きた。シオンの自腹になるけどいいのか?」
これで諦めた、と思った。
俺も『ヨッシャ勝ち確!』と思った、が……。
「──ハッ……! おじさん! あの銅像を見て!」
「ん? ありゃあクエリ様の銅像じゃねぇか。それがどうした……って! えっ!?」
「おいシオン……まさか……」
「この子を見て! そしてあの銅像と見比べて!」
「……ま、まさか、貴女様は……」
受付が、シオンの突き出したクエリとクエリの銅像を、何度も交互に見る。
「く、く、クエリ様ぁ!?」
「フフッ、ようやく気づいたようね……。どう!? 神が参加しようって言うのよ? お金なんか取る気なの? まさかねぇ~? そんなことしたら、協会の方がどんな顔して走ってくるか……分かってるよね?」
悪魔だ。悪魔がいる。
「……いや! 俺は騙されねぇぞ! 見た目が似てるだけで本当は別人だろ!? そうだ、そうに違いねぇ!」
「あら、そんなこと言って……。もしここにいる子が本物のクエリ様だとしたら、貴方どうなるかしらねぇ!? クエリ様を除け者にした罪……重罪よ?」
ゲスい、ゲスすぎる。
「……仕方ねぇ。そこまで言うなら信じるしかねぇな。クエリ様と嬢ちゃんと……もう一人は?」
「いや、俺は参加しな──」
「アイツ」
「よし、お前だな。……さぁ行ってこい! お前らなら勝てる! オーラだけで分かるぜ!」
「勿論、優勝してくるに決まってるじゃん!」
「おー……」
「なんで俺まで……」
──今に至る。結局のところ、無料。
「オエッ……」
「クエリ! 耐えろ、今ここで出せば、ゲロインの称号が付いちゃうぞ!」
「た、耐える……!」
クエリと俺は少し食べてギブアップ。
シオンはと言うと……。
「おかわりぃ!!!」
「黒崎選手、三千五百キロカロリー突破! 凄い、凄すぎる! そして! ここで食材が尽きたァ~!!! 圧倒的差で黒崎、黒崎シオン選手のォ……」
会場が静まり返り……
「優ゥ勝ぉ~!!!」
沸いた。
「ウオオオオオスゲェェェェェェ!!!」
「シオンちゃぁぁぁぁぁぁんサイコオオオオオ!!!」
「可愛いぞぉ! シオオオオオオン!」
「シオン愛してるゥゥゥゥゥゥ!!!」
大喝采を受けたシオンは、優雅に舞台を降りる。
「あれ? 賞金は受け取らないのか?」
「え? そんなのあったの?」
「見てなかったのか」
「見てないけど……あったっけ?」
こ、コイツ……。
と、その時受付のおじさんがジャラジャラと音のする袋を持ってきた。
「あるよ! ほれ、受けとれ。金貨百枚!」
「え!? ひゃ、ひゃく……?」
「おうよ! お前が優勝者だ! おめでとう!」
シオンが本当に目を点にしてる!
め、珍しい……。
「……ナク」
プルプルとシオンが震え始める。
「? どうした?」
「これ、ナクにあげる」
「は!?」
「良いじゃん。私のお金だから、どう使っても文句ないよね?」
「だ、だけど……──」
「ハイッ」
シオンは俺に向かって、金貨の入った袋を放り投げてくる。
「それでクエリに色々買ってやりなよ。私はいいからさ、ね?」
「…………」
どこまでも分からないな、シオンは。
何を考えて行動してるのか、全く予想がつかない。
「さ、帰ろ! ナク! クエリ!」
「あ、ああ……」
「き、気持ち悪い……略して、キモい……」
祭りが終わる。
女の闘いは無かったことになった。
そしてふと思う。
……クエリはいつまでここに居られるのだろうか?
~~~~~~~~
オマケ
「オエッ……」
「もう腹ん中何もない?」
「な、ない……」
「じゃあこれで口とその周り拭いて。あと蛇口の水で口ゆすぎな。気持ち悪いだろうし」
「げ、ゲロゲロパーティー……」
「言わなくていいから」
※クエリは無事にゲロインになりました。




