第三話 神様の娘 ニムエ回
『三度の飯より休日』の俺にとって至福の三日間が始まる予定だった。
なのに……。
二時間前、P.M.四時半
「ぐはっ」
「おはよう……」
お腹にすごい衝撃で何かがぶつかり起こされた。
重い目蓋を擦りながら目を開けるが、辺りが暗くぼんやりとしか見えない。
俺の視界には毎日見ている木目の天井ではなく、何か人の様な輪郭が見える。上の方は薄い蒼で、下の方はなにかふわふわとしている。
「えっ?!」
俺の目はいつも通りの仕事を始めだした。
目の前には、俺の腹の上には、女性が馬乗りになっていた。
「あの、すいません。どなたですか……」
俺は答えを知っていた。だか、あまりにも信じられなかったので思わずそう聞いてしまった。
「私は……クエリ。ツキノヒカリガミ、キミと……タイヨウノキガミ、シロミの一人娘」
このとき、俺の三日間は怠いものへと変わることが確定した。
「ご飯美味しい」
「そうでしょそうでしょ」
クエリが来たということで母親が小躍りしながら、腕を振るった。
まぁ、喜ぶのも仕方がないとは思うが……。ツキノヒカリガミを見たものには幸せが訪れる、なんて言い伝えがあるからな。あくまで言い伝えに過ぎないが。
日が昇り始めた頃、俺がいつも二度寝を決め込む時間帯に、にわかに外が活気づいてきた。俺はもう朝食も食べ終わり、これから起こるであろう、災難に備えようとしていた。
ピンポーン
そこに悪魔の鐘。どうやら時間切れみたいだ。この時間帯のインターホンはシオンのものであることが確定している。いつもは「寝てた」とか「気づかなかった」って言って堂々と居留守を使っている。
が、今日はそれも使えない。母親が起きているから、確実に最後の砦が開けられてしまう。
「おはようございまーす」
やっぱりシオンだ。二階の俺の部屋まで声が聞こえてくる。
なにやら玄関で母親と立ち話をしているらしい。内容までは聞こえないが、「本当ですか?!」とか「えっ?!」とか時折驚きの声があげているのが聞こえる。その反応だけで、母が何を話したのか大体わかる。
ドタドタドタ
「クエリ様はどこ!」
……やっぱり。
「いやいや人の部屋にノックもしないで入ってきて、ってもう聞こえてないな」
一家が月光神信者である黒崎シオンにとっては、クエリは文字どおり神なのだろう。そのクエリ様が俺のベットの上に座っている。
「感動のとこ申し訳ないけど、今日は何しに来たの」
「……」
「聞こえてますかー」
あれっ? 返事がない。
あっ、白目剥いてる。感動で気絶してるよ。
「何が幸福が訪れるだよ。早起きさせられるし、いつも通りシオンはくるし、気絶してるし。……俺は不幸にしかならないんですけど!!」
俺の叫びは空しく家に響き渡った。




