一話〜頼み事〜
その少女はよく見ると私に似ていた。顔立ちもそっくりだ。
「あの、それで、助けていただき、ありがとうございます。」
少女の声に我に返る。そうだ。私は池で出会った少女に何故か
助けていただきありがとうございます。
と言われていたのだった。
「···ごめん、私、いつ助けた? 」
思ったことを聞くと少女はクスッと笑い、
「助けてと言ったのは私ですよ」
と言った。
そういえば家で助けてと聞こえたからここまで来たのだった。予想外のことが起こりすぎてすっかり忘れていた。
「···だからか···ックション! 」
いつの間に寒さが戻ってきていたのか、くしゃみをしてしまい、慌てて抑える。
少女を見ると笑われていた。
「あはは···寒いからとりあえず家おいでよ」
私も苦笑いをし、話をそらそうとこう言った。
「えっ?!いいのですか?!」
少女は露骨に驚いた表情を見せる。どこに驚いたのかは分からなかった。
「うん、いいよ! それにその格好、絶対寒いでしょ? 」
少女は巫女服のようなものを着ていた。明らかに寒そうな格好だった。
少女はきょとんとしながらこう言った。
「私は別に寒くはないです。あなたは大丈夫ですか? 」
その言葉に驚いた。熱があるのかと思い、額を触ってみたが、イマイチ分からなかった。
「うーん···まぁとりあえず早く行こっ! 」
私は少女とともに家に戻った。家族のいない家。人が来たため、少し緊張してるが自分の部屋に案内した。
「ここで待っててね、お茶淹れるから。」
下に降り、お茶を淹れて渡すと、少女は
「ありがとうございます。」
と言った。本当に礼儀が正しかった。
とりあえず名前で呼ばれたいので自己紹介をすることにした。
「私は天野 美琴。美琴って呼んでね! あなたは? 」
聞くと少女は困ったような顔をして答えた。
「すみません、私には名前が無いんです」
「っえぇ? 」
物語の中でしか聞いたことない展開に素っ頓狂な声を上げてしまった。
少女は苦笑いをしていたが、間違いなくその表情には悲しみも混ざっていた。
「···うーん、じゃあ、私が名前をつけるよ! 」
冗談半分、本気半分で言ってみると少女は表情を明るくさせ、
「いいんですか? !」
と言った。
「えっ? ! うん! 大丈夫! 」
その迫力に少し驚いたが、そう答えた。
自分で言ってみたのはいいものの、勢いで言ったため、思い浮かばなかった。
一つだけ思い浮かんだものがある。
「···優愛···」
ダメ元でそれを口にした。
すると少女は目を輝かせ、口を開いた。
「えっ! そんなにいい名前···いいんですか? 」
散々センスないと言われ続けていた私だが、この時
(あ、私ってセンスあるんだ···)
と思った。
「こんな名前でよかったら···って、いいの? 」
そう言うと驚きながらも
「そんなに素敵な名前···こんな名前なんかじゃないです! 」
と言った。
心の底から飛び上がりたかった。生まれてからこんなに褒められたことはなかった。 私もウインクをしてこう答えた。
「いいよ! じゃあ今日からあなたは天野 優愛ね! 」
ニコニコしながらも優愛は頭を下げ、
「ありがとうございます! それであの、天野とは···? 」
私は驚きながらもこう言った。
「泊まるあて、ないでしょ? だったら家族になってくれないかな? って思ったんだ! 」
優愛はさらに嬉しそうにしたが、すぐに暗い顔をした。
「どうしたの? 」
私が聞くと申しわけなさそうにしながら
「実は私、お願いがあってきたのです。」
私は基本人のお願いは聞く方だ。
どんなことを言われるかわからないが、聞くことにした。
「なに? 」
優愛は顔を上げた。そして
「一年だけ! 私と入れ替わってください! 」
と言った。
「はぇ? え? 」
予想外の頼み事に変な声が出る。正直すぐに決められなかった。 悩んだ末私はこう言葉を口にした。
「答えは明日言うね」
優愛はニコッとして、
「考えていただくだけでも嬉しいです。ありがとうございます! 」
と言った。
その後、優愛を泊まる部屋に案内し、一人で片付け、私も自分の部屋に入った。
ベッドに横になり、お願いについて考えてた。
「···入れ替わる···か···」
私と優愛は声もそっくりだからなりすますことは出来る。
だが私が一番心配なのは一年バレないかだ。
考えながらも私は眠りに落ちていた。