0話 〜出会い〜
『助けて···』
声が聞こえた。顔を上げ、周りを見回しても誰もいなかった。
「えぇ? どこから? 」
呟いてももうその声は聞こえない。
普段ならすぐに忘れてしまうが、今回は何故か忘れられない。気になって仕方がなかった。
「まだ夜だけど···」
そう言いながらも私は支度していた。自分でも不思議だった。
家を出る。冬の冷たい空気に家に戻りたくなるが、声が気になることには仕方がない。
手を温めながらも歩き出した。
(確か神社の方角だった気がするんだよね···)
北風に吹かれながらも神社を目指す。
神社は家からも近く、五分程でついてしまう距離だ。
(どこから···? )
見回すとなにか光が見えたような気がした。蛍のような、淡い光がふわふわと飛んでいる。
そして誘うように近くの森の方へと入っていってしまった。私も入ってみる。入ったことない森、少し心細かった。
光は私のスピードに合わせて進んでいるようだった。かなり深いところまで来た時、光は急にスピードを上げた。
「え? 待って···」
私も追いかける。すると明るい場所に出た。
夜だというのに明るく、まるで目の前に月があるのかと思うほどだった。
見るとそこは池のようだった。丸い月が水面に映る。
周りにはいくつもの光がふわふわと飛んでいる。
池の中央が微かに揺れる。
するとどこからか暖かい風が吹いた。いつの間にか寒さも感じなくなっている。
再び辺りを見回すと先程までの森はなく、草が生えてるだけの広場のようになっていた。
「ふぇ? え? 」
この状況に頭が追いつけず、混乱する。
明るいせいでよく分からなかったが、月が出ているため、夜だと考えられる。
すると突然、周りの光が池の中央に吸い寄せられるように集まっていった。
淡い光がいくつも集まり、綺麗な星のようになる。
「わっ! 」
急に明るくなり、その眩しさに思わず目を瞑る。
少しして目を開けると目の前には私と同じくらいの、少女が立っていた。
だが私はその少女が立っている場所に驚く。
池の上にまるで地面に立つかのように立っていたのだ。
「えぇ? はい? どうなって···? え? 」
よくわからない言葉を口に出してしまう。
神秘的な雰囲気の中、場違い感を感じてしまう。
少女はゆっくりと歩いてきて、ニコッと微笑み、こう言った。
「初めまして。今宵は助けていただき、ありがとうございます。」
「···はい? 」
状況が飲み込めない私はそんなことを言ってしまうのだった。
少女に予想外の頼み事をされる美琴。
さて、どうなるのか?