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異世界がゲーム化するまで  作者: ゆゆゆ
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EP 6

 

 五日がたった。


 今ノインたちはシュンと出会った街道を二日程進んだ所にあるムルグという町にいる。神聖法国フェリアへと向かう人が行き交うだけの他に特に資源も見所もない小さな町だ。


 町までの道程でシュンからいろいろと情報を聞き出し、その結果やる気をゴッソリと削ぎ落とされたノインは三日間特に何をするでも無く宿にてダラダラと過ごしていた。



「えっと、ノイン……様?」


「気持ち悪いな。普通でいいから」


「いや、でも一応神様って敬わないと…」


「神様だなんて思ってないだろうに。それにそんな大層なもんじゃない。あれだ、簡単に言うと世界っていう物件持ってる大家さん? 地主? 見たいなもんだから」


「そんな馬鹿な…」


「とにかく、大家さんに様付けとかなんか変だろ? だから普通にしとけって」


「はぁ…じゃあノインさん。いつまでここにいるんですか?」


「世界が崩壊するまで」



 これは半分が冗談、もう半分は本気だ。世界の現状を知ったノインは苦労して築き上げたものが寝ている間に崩壊していた事に放心状態に陥っていた。



「そんな冗談はやめてください。笑えませんし、それにウィラちゃんはどうするんですか」


「どうするって親はもういないんだし、面倒ぐらいみるさ」



 ウィラとはシュンが抱えていた赤ん坊だ。ノインが治療した後ずっと眠り続けていたが町に着いた頃に目覚めた。


 ウィラは髪も肌も尻尾も耳も全て白い獣人で、シュンの話によると狐の獣人らしい。「何故狐かどうかなんてわかるんだ?」とノインが尋ねると「耳の先端が少し灰色っぽいですし、尻尾も特徴的だから」ということらしい。


 白い狐の獣人は殆ど見かけないことから探せばすぐにでも元いた集落が見つかるだろうと二人は予想したが、赤ん坊が目覚めたことでそれが出来なくなった。


 目覚めた赤ん坊の目は赤味の強いピンク。その全身が白くそして特徴的な目の色はアルビノの証でもある。

 白い狐族では無く突然変異であることが分かったのだ。


 盗賊による襲撃前にシュンは赤ん坊の母親を見かけていた。その母親の髪や耳は赤ん坊と同じく白かったが目は黒に近い茶色で単に珍しい種族なんだと記憶していたそうだ。今考えると母親も部分的なアルビノだったのかも知れない。


 この世界にはまだアルビノ等の突然変異や病気に関して理解がない。同じ種族でも忌み子として迫害されていてもおかしくはない。母親の服装は襤褸布をまとっているだけであった事からその予想はまったく外れているわけでもなそうだった。


 その母親も盗賊の襲撃の際に命を落としている。

 問題は赤ん坊の容姿から一族の元へ届けたとしても、どうしても悪い未来しか想像出来ない。そのためノインは赤ん坊にウィラと名付け面倒を見ることにしたのだ。



「それは構いませんが、いつまでダラダラしてるつもりですか? 僕にも目的があるんですが?」


「あれだろ。強くなって他の勇者どもを見返すっていう。勝手にすればいいじゃないか」


「貴方がついてこなきゃ殺すって言うからだろ!」


「騒ぐなよ。ウィラが怖がるだろう」


「だーだー」



 ウィラは怖がるどころか、気にした様子もなくノインのスウェット咥えている。肌触りがお気に入りのようだ。


 シュンは五日間、何も言わずノインに付き従ってきた。それはノインを神と信じた訳ではなく単純にノインの力を恐れたからだ。


 町までの道中も町に着いてからも三人は何も口にしていない。ノインの側にいるだけで空腹はなく、むしろ力が漲るようにすこぶる調子がいい。そして極め付けは街道を塞ぐように倒れていた大木をノインが手をかざすだけで消滅させたことだ。

 魔法を詠唱した様子も無くただ翳しただけで大木は最初から何も無かったように消えてしまった。


 その光景にシュンは心底恐怖した。相手が神であるとかは関係無く逆らえば自分は大木と同じように一瞬にして消されてしまうと。



「それに、僕の力じゃゴブリンやオークを倒すのが精一杯だ。それじゃ強くなるのに何年かかるか分からない…」



 ゴブリンと聞いてノインの表情が一気に険しくなる。ノインがやる気を底辺まで削がれた要因の一つでもあるからだ。


 元々のノインの創造したこの世界にはゴブリンなんていうファンタジーな生物はいない。そもそも魔法すら存在するはずはなかったのだ。


 だが今この世界にはゴブリンやオーガ、ドラゴン等が跋扈しているという。

 そんなファンタジーな世界になってしまったというだけでノインは辟易しているというのに、さらにこの世界は魔物を倒すとその者の力が増すという。

 正確には生き物を殺すとその力の一部を吸収できるということらしいが、それを聞いた瞬間にノインのやる気は底辺まで落ちた。


 自分の世界がゲーム仕様になってしまった。


 本当であればここでそうなってしまった原因を探るべきなのだが、ノインのやる気はそこに至るまでにはまだ回復していなかった。



「お前は勇者なんだろ? 普通の人よりは身体能力も高いんじゃなかったか?」


「それでも剣術なんてやった事なかったし、それにハッキリと言われたんだ才能ないって…魔法だって魔法陣を介さなきゃ発動も出来ないし、どんなに練習しても魔法陣の構築は早くはならなかった。模擬戦でも実践でも攻撃する暇なんてなくて……お陰で避けるのだけは自慢できるようになったよ」



 最後にハハっと苦笑いをして諦めたような表情になる。シュンは身体スペックが高いだけの木偶の坊となってしまった。



「なんだ。俺をあてにしてたのか。最初からそう言えよ」


「そんな! そういう訳じゃ…」


「それじゃ、俺と会わなかったらそもそもどうしようとしてたんだ? 」


「それは……ドラゴンを倒して…」


「倒せるのか?」


「……」



 何も言えない。

 シュンは他の勇者たちと身体的なスペックはそう変わらない。それでは使いこなせていないかというとそうでもない。


 他の勇者たちと違うのは魔法を使えるかどうか。

 どんなに剣術に優れていても魔法を使う相手に勝つ事は難しい。遠距離から攻撃されれば無すべなくやられるだろうし、近距離でも身体強化を施した相手には勝てない。


 シュンは魔法自体は使えるが、全て魔法陣を介さなければならない。ある程度動きながらでも唱えられる魔法の詠唱と違って魔法陣はその場を離れられない。


 そもそも魔法陣を使うならばスクロールで事足りる。それならばスクロールに魔力を流すだけでタイムラグ無く魔法が発動するからだ。通常の魔法と比べると威力は極端に落ちるが、シュンが魔法陣を構築する時間を考えればどちらが優秀かは明らかだった。

 これがシュンが欠陥勇者と罵られる要因だった。


 単純な身体能力のみでドラゴンに勝つ事はまず無理だ。相手は鋭い爪、牙を持ち空を飛び炎を吐く。上位のドラゴンならば魔法だって使うのだ。


 今のシュンが安全に倒せるのはゴブリン程度。オーガまで行くと死なないが殺せないと言ったところだろう。


 ゴブリンはよく最弱の魔物と言われているがそれは魔物の中ではという事になる。力の無い一般の人からすれば十分すぎる脅威である。


 ノインは致命傷の自分を治し、大木を跡形もなく消滅させられるその力を見て、そして彼の言葉を受けて自分がノインをあてにしていたのだと気づいてしまった。



「なんだ、自殺志願者だったか。ところでさ、なんで俺がお前について来ないと殺すって言ったかわかるか?」



 急に話の流れを変えさせられてシュンは一瞬呆けてしまう。



「それは……転移者だから?」


「二十五点だな」


「えっと……情報?」


「二十五点。合わせて五十点。俺にとって転移者は迷惑な存在かどうかすらまだ分からない。まだお前しか知らないからな。前に話した転生者だって全員殺したわけじゃない。それと情報なんてお前じゃなくてもいいだろ」


「それじゃどうして……?」


「分からないか?」



 シュンは答えが分からず黙り込んでしまう。

 シュンはノインが神だとは思っていない。それはシュンが転移勇者だという事が彼を神ではないと思わせているのだ。

 ただノインが転生者なのは確実だと思っている。それも強力な力を持った。


 シュンがノインに従っているのは彼の力をあてにしていたという事以外にも、単純にその力に恐怖しての事だ。何度も言うが彼は大木を消滅させた。


 何らかの魔法で退かしたわけでも消し炭にしたわけでもなく、吹き飛ばしたわけでもない。消し去ったのだ。

 シュンがその光景を見て最初に考えたのは、消せるのは果たして物だけだろうか? という事だった。


 その事が頭を過ぎった時、シュンはどうしようもない恐怖に襲われた。もしそんな事が出来るのならば、自分はいつでもノインが手を翳しさえすれば消えてしまうのではないか、と。


 そんな凶悪な力を持ったノインが自分を連れているのは、自分が勇者であるからだと思っていた。そして他の勇者や世界の情報が欲しいのだと。


 ノインが情報を仕入れて何をしたいのかはシュンには分からないが、シュンがいてノインに利があるとすればそれぐらいしか思い浮かばなったった。


 だが、それだけではないとノインは言っている。それでは半分だと。

 五日前にノインが自分について来いと言った時の事を思い出す。何がきっかけでそんな話になったのか。


 思い当たるのはもう一つしかない。



「まさか…」


「やっとか。ずいぶん考え込んでいたな」


「こんなものが? こんな中途半端なもの貴方が気にかけるようなものじゃないでしょ」


「それはお前が使い方も、その価値も知らないからだ。俺の目的に反する最高に危険な物でお前は要注意人物だ。お前から話を聞いた限りではもうそれもどうでも良くなっているけどな。ただ俺とは関係なくてもお前が危険人物なのは変わらない」


「危険人物って……」


「危ないぞ〜。お前の魔法陣は、最高にな」



 そう言ってノインはニヤリと笑んで見せた。

 その笑みを見てシュンは直感した。ああ、なんか弄られてるな、と。



「ところでだ。そもそも魔法って何だと思う?」



 また話が変わる。

 だがシュンもそれを邪険にはしない。ノインの話には馬鹿にされてきた自分の欠陥能力に打開策があるのではないかと感じているからだ。そしてそれは間違いではない。



「また、唐突に…えっと、奇跡的な……?」


「奇跡って…お前の世界の奇跡ってどんな事をいうんだよ」


「僕の世界? …大事故で無傷で生還とか?」


「それに対しての対価は何だ?」



 対価。奇跡に対価は無い。だからこそ奇跡なのだから。

 スポーツ等での奇跡の逆転勝利。こんなのは奇跡では無いとノインは考えている。それは努力の裏付けがあってこその勝利であるからだ。その努力を奇跡の一言で片付けてしまうのは勝者と敗者の両方に失礼な事だと思っているのだ。



「対価……? 魔法と何の関係が?」


「お前の言っている奇跡には対価はないだろ? でも魔法にはある」


「え?」


「ああ、安心しろ。別に死ぬとかそういうんじゃない。単純に魔力が対価だろ?」


「そういうこと……。でも、その魔力っていうのは前に話してたオプリスでしたっけ? それの事なんでしょう? 生命自体もオプリスで構成されているって言ってましたよね? それって命が対価と同じことなんじゃ?」



 この五日間でノインとシュンはいろいろな話をしている。殆どがシュンが応える側だったわけだが、ノインはシュンの話を聞いた結果やる気を無くし自分の事を話すという事もどうでも良くなってしまったのだ。

 元々この世界において絶対者であるノインにとって隠しておくべき事など何もないのだが。



「世界のオプリスの量は世界が創られた時に決まる。その量は基本的に一定に保たれる。魔法で使われた分は消費されたんじゃなく役目を終えて世界の外へ、オプリスの大運河へと還っただけ。その分はまた大運河から供給される」


「それじゃ対価がないのと一緒なんじゃないですか?」


「それは違う。実際に消費されるのは確かだし、魔力が枯渇すれば死ぬことだってある。あえて奇跡と言うのならオプリスを魔法として使える事が奇跡かな」



 魔法の大元はオプリスだ。それを魔力というものに置き換えて使用しているに過ぎない。人やそれ以外の生命もタンパク質だとかそう言うものの前にオプリスで構成されている。枯渇すれば死んでしまうのも当然だ。



「はぁ……それで、何が言いたいんですか?」


「魔法っていうのはイメージや概念が顕現されたものだ。火の玉をイメージして魔力を対価に顕現する。よりイメージを明確にするために詠唱なんかをするわけだ。規模が大きかったりイメージが複雑になればそれに比例して必要な魔力量も増える。そして実際に発動するまでそのイメージを保たなきゃならない。ここまでは分かるな」


「まぁそれぐらいは」


「だが魔法陣は違う。一度構築してしまえばイメージを保つ必要はないし、その分必要になる魔力も少なくて済む。どうだ? すごいじゃないか」


「それぐらいのことは知ってます! でもそれじゃ、戦闘中に魔法陣を構築出来ない問題は解決してないじゃないですか!」



 ドヤ顔で説明するノインにシュンは憤慨する。当然だ。それぐらいの事は知っているしこれまで必死に勉強してきたのだから。学んだ結果としてシュンは構築速度を速くするしかなく、だがその速度には限りがある事も分かってしまった。


 戦闘中には使えない。だが強くならなければ他の勇者を見返せない。ゴブリン狩りでは時間が掛かり過ぎる。こうしている間にも他の勇者はどんどん力をつけているのだから。そう考えた結果がドラゴンを狩るという無謀な賭けだったのだ。



「お前もうちょっと考えろよ。お前は空中に魔法陣を構築してたよな?」


「そうですけど、それじゃ今までと何もかわーー」


「何で物に描き込もうとは思わないんだ?」


「……それは…既にスクロールがあるしわざわざ僕が描く必要も無いじゃないですか」



 シュンが馬鹿にされてきた大きな要因がスクロールの存在だ。

 スクロールは魔法の概念を魔力を持って描く事で完成する。それは別に直接書く必要はなく版画や判子のようなもので十分なのだ。

 シュンの場合、道具が必要ないという事ぐらいしかアドバンテージはない。



「あら? ここまで言って分からん? お前馬鹿なの?」


「なっなっ!」


「武器に直接描き込めばいいじゃん」


「へ?」


「さっき言ったよな? 魔法はイメージを顕現するものだって。魔法陣はさ言ってみればプログラムみたいなもんじゃん? ってことは組み合わせる事も出来るだろ。個人のイメージでは考えるのも、それを保つのも限界はあるが複数のイメージを組み合わせれば大規模なものだって可能だろ。それを何故、空中か紙に描くしか考えつかないのか疑問だわ」



 通常のスクロールは紙か羊皮紙に描き込むことで作られている。だがシュンの場合は空中に直接に描き込んでいる。いや、正確には発生させているのだ。何もないところに発生させているのだから物体に直接、内部にも表面にも描き込めない道理はない。



「それは…防具に身体強化、剣に直接攻撃魔法をってことですか?」


「おいおい。今の話を聞いて思いつくのがそれかよ。お前は何人だよ」


「に…日本人です」


「平和な日本でも銃ぐらい想像できるだろ? アサルトライフルなんてどうよ?」


「異世界でそんな……」


「ファンタジーとか認めねぇから」



 魔法をさんざん語っておいてこれである。



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