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異世界がゲーム化するまで  作者: ゆゆゆ
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EP 1

はじめに。

作者は素人です。

自分の文才の無さに心が折れかけ語彙の無さに自分に失望しそうです。


今作は作者の処女作になります。気ままに思いついた事を書いていますので駄文は見逃して頂けると助かります。更新も不定期になると思いますのでご了承ください。

誤字脱字や矛盾はできる限り解消していきますのでご報告下さい。


最初の4話ほど説明がダラダラとしてますがそれでも読んで頂けると嬉しいです。

 現代日本。


 小さな美容室をたった一人で経営する男がいた。

 男は三十三歳の独身で如何にも美容師といった感じの優男だ。


 男は怠惰だった。毎日をダラダラと過ごす。客がいない日は店のシャッターも開けずに漫画を読み、ゲームの攻略サイトを検索、あるいは寝て過ごしていた。


 男は子供の頃から怠惰で飽きっぽかった。小学校の頃にサッカー少年団に入りたいと親にお願いしたものの一年ももたずにサボるようになった。中学の部活はテニス部だったが幽霊部員。高校は当然のように帰宅部。


 男は勉強もやはり嫌いだったが頭が特別に悪いわけでは無かった。授業を受けてさえいればテストで赤点を取るなんてことは無かった。


 そのせいもあってか必要以上のことは決してしなくなっていったし、空いた時間はゲームをするか惰眠をむさぼるようになっていった。その頃から「明日できることは今日やらない」が男の座右の銘となった。それを言うと「明日やろうは馬鹿野郎」だと叱ってくれる友人もいたが、心を入れ替えることも無く学生生活は過ぎていった。


 そんな怠惰な毎日も高校を卒業すると同時に終わる。美容室に就職したのだ。

 専門学校には通わず直接就職をして、通信教育で免許をとった。もともと頭も悪いわけでも無く器用だった男は国家試験も苦もなく一発合格し、社内での技術検定も異例の早さで次々と突破していった。


 就職してからの男はそれまでの怠惰な日々とは一八〇度変わって、多忙な日々を過ごしていた。毎日の営業に練習、午前様は当たり前で空いた時間も薬を扱うための勉強に費やした。


 それはスタイリストになった後も変わらない。技術や薬剤は日々進歩していく。新たな知識を得るためには勉強は欠かせなかった。技術職は一生勉強とはよく言ったものだ。


 毎日の忙しい日々は今までの怠惰な人生において努力をしたと自負できる、男にとって唯一のものだった。同期や先輩だろうとも誰にも負けない技術と知識を持っている自信があったし、職人として一流に近いづいているという感覚も男には確かにあったのだ。


 だがその努力が報われることは無かった。いや、この男にとってはと言うべきだろう。


 今の時代の美容師に必要とされているのは確かな技術を持った職人では無く、ホストや夜の蝶といった者達だった。

 ようは接客が全てで技術は二の次というこだ。それはデータでも明らかだった。


 技術が優れている技術者と接客の優れている技術者とのリピート率の差は三倍も開きがある。これは最新のデータというわけではないが、今でも変わらない割合だろう。


 男もこのデータのことは把握していたし、特段コミュ障というわけでもない。男なりに持っている知識をフル活用して接客をしていた。しかし、それが良く無かった。


 理屈屋があまり好かれないのと同じで、専門的な知識を利用した接客は客に好まれる事は無く、男の客数が一定以上増える事は無かった。


 男は十八歳から働き始めて一〇年間、悩みながらも美容師を辞めたりもせず足りない接客という技術を知識で補いながら歩んできた。その間にいくつか店舗を変えたが結果はいつも変わらなかった。


 ある毎週スタッフ全員で行う練習会の日。技術だけなら店のトップだった男が後輩の練習の面倒を見ていた。その後輩は最低限の技術検定を終えてスタイリストとして客に関わるようになっていたのだが、一年たった今でも技術の進歩が見られない。


 ほとんど練習も勉強もしていないのだから当然だろう。スタイリストになってからの後輩は練習することは無く、その時間を客に向けての葉書を書くことに費やしていたのだから。


 男は迷惑していた。

 年中無休で営業にしていた店では、休暇を取れば休みの間は当然に他のスタイリストが自分の客を担当する事になる。その後輩も例外では無いのだ。


 男は後輩に説教をしながら無理矢理に練習させていたところ、そこに店のオーナーが現れ男を呼び出した。


 

「ちょっと口調とか厳しいんじゃ無いかなー」


「あれくらい言わないとあいつは練習しないし、いつまでたっても下手くそのままですよ?」



 店の業務も全て終わり、いつもなら練習会には参加せずに帰っていたオーナーから呼び出され「何だろう?」と訝しんだ表情で後をついていく男。


 オーナーは男に練習の指導が厳しすぎるのではないかと注意してきた。男はそれを聞いて、最近のゆとり世代というものに危機感を抱いているのだろうと思い当たった。ちょっとした注意で辞めてしまう新人がいるのは美容室も世間と同じだったからだ。


 だが後輩は既にスタイリストとして客に関わらなくてはならない。いつまでも下手で良いはずがないと男はオーナーに苦言を呈す。



「下手くそと君は言うけどもね。彼は実際、お客さんも売り上げも多いじゃない?」


「それはそうですが、オーナーも分かっているでしょう? 客の数と技術は必ずしも比例しているわけじゃない事ぐらい。オーナーは下手くそばかりがいる店になってもいいんですか?」


「いや、そういうことじゃなくてね……」


「ん? どういうことです?」


「お客さんが多いということは彼が上手いということなんだよ」


「…………」



 男にとってそれは衝撃の一言だった。とても受け入れられるものでは無い。それでも理解しようとはした。実際にその後輩を指名している客はその技術に何の問題も無いと思っているからこそ指名しているのだろうから。


 しかし、同じ美容師から見ればその技術が穴だらけなのは一目瞭然で、髪を切って貰おうと思う同業者はまずいないだろう。それを理解しているはずのオーナーがそんな発言をしていいものなのか。


 男にはもう分からなかった。自分の努力が、一〇年が、全て否定されているような気がしていた。


 それから少しして男は店を辞めた。

 必死になって金を掻き集め、借金をして自分の店を出すことにしたのだ。もう誰の尻拭いをするでもなく、後輩の面倒を見ることも無い。


 一人でのんびりと好きな仕事をして生きる。そのための実力はあると思っていたし、腕は一流だ。自分一人が生活をするぐらいなら何の問題も無いと思っていた。


 だが現実はやはりそう簡単にはいかない。

 客は一向に増えなかったし、稼いだ売り上げも家賃や光熱費の必要経費に消えていく。自分の手元に残る金は僅かだった。それでも人というものはただそこに存在しているというだけで何かを消費していくもので、預金残高はどんどんと減っていく。


 店を出して四年ほどたった。

 相変わらず売り上げは上がらない。働くという意欲も磨り減っていく。働き出す前の怠惰な日々に逆戻りしていく。

 男はいつものように出勤し店のソファーに寝転がる。今日は予約も入っていないのでシャッターを開けることもしない。ぼっーっとソファーに寝転がっていると男の脳裏にあの言葉が浮かび上がってくる。



「客が多いから上手い、か」



 言葉に出して溜息を吐く。



「…………俺は下手くそだったんだな」



 言葉を発して後悔する。

 今まで絶対に認めることができなかった事、認めてはいけない事を言葉にしてしまったことで認めてしまったのだ。



「俺……頑張っていたよな?」



 男は十四年間必死に技術と知識を磨いてきた。自分の店を持ってから客は少なく、だんだんと怠惰な毎日を送るようになっていってしまったが、新しいものがあればそれについての勉強は怠らなかった。


 男は見習いのアシスタントだった時、誰よりも練習していたわけでは無かった。それは男が異常なほど器用だったからだ。習った技術も見ただけで、或いは数度の練習でできるようになっていった。


 その時から男は自分には才能があると思うようになっていった。だが才能に胡座をかくようなことはなく、練習しなかった分必死に勉強をした。それが同期に対してアドバンテージになると考えていたし実際に一年以上も早くスタイリストになることが出来た。


 スタイリストになってからも勉強を続け、資料を読み漁った。時には繊維学会の研究資料まで手を出した時期さえあった。



「本当に頑張っていたのか? つもりになっていただけか? …………頑張れていなかったのかな……」



 分からなくなっていた。

 男の今までの努力は頑張ったと言っていいものだろう。


 しかし、いくら努力をしても頑張っても報われなければ頑張れていたのかどうかも分からない。

 スポーツのように毎回結果が出ればどんなに楽だろうと男は思う。最終的な勝ち負けは才能によるところも大きいのだろうが、努力の結果は記録として残る。努力した分だけタイムが縮む。


 男の美容師としての技術や知識は間違いなく一流だ。同じ美容師から見れば誰もがそう言うだろう。だが相手にするのは美容師ではなく客なのだ。客が認めなければ男は一流では無いのだ。


 男は努力の結果、職人として一流になった。しかし美容師としては三流だった。


 男は何もかもが分からなくなっていた。男が信じていた技術や知識は美容師としては結局のところ二の次でしか無かったのだから。



「俺は頑張っていなかったんだな」



 男は小さな自分の店の天井を仰ぎ見ながら呟いた。呟いて涙を流す。

 どこで間違えたのか、どうすれば良かったのか男には分からない。どんなに努力をしても誰にも認めてもらえない。


 だが全ては「たら、れば」の話だ。

 ちょっとした言い回しや行動で結果を覆せることはいくらでもある。男はただそれに失敗したのだ。


 男はまだ恵まれている方だ。年齢も三十三歳で男盛り。仕事も上手くはいっていないが店はまだ潰れてはいない。家もあって食うにもまだまだ困ることは無いだろう。


 下を見ればいくらでも不幸な人はいるし、現状を鑑みれば出来ることはまだまだあるように思える。

 だが人は一度沈み込むとそこが底辺だと思い込み、上だけをただ恨めしそうに見るものだ。


 男の努力がほんの少しでも報われていればここまで落ち込む事は無かったかもしれない。少なくとも今までついてきてくれた客は男を認めてくれていたのだということに気付くことができれば違った未来が待っていたのかもしれない。



「うっううぅ、ぐぅっうう」



 男は三十三歳。もう若くはないが年寄りでもない。まだまだ何をするにも時間はあるが少し遅い気もする。職業柄か見た目は若いが年齢だけで言えばおっさんっと言っていいだろう。


 大人と子供の間。思春期にでも戻ってしまったように男は今までの無駄な努力、不甲斐なさ、情けなさ、これからの人生への不安と恐怖に耐えられず泣いている。


 

 三十過ぎのおっさんが号泣している。


 

 どうしてこうなったのか? 何を間違えたのか? どこで道を踏み外したのか?

 男は過去を悔やみ、既に未来を考える余裕は無い。嗚咽を繰り返し泣き叫び本来整っていた顔もぐしゃぐしゃだ。

 男を慰める者は誰もいない。


 男はシャッターを締め切り明かりもつけず店で一人泣いている。



「んぐあああああああああああああ!」



 男は突然に叫んだ。絶叫だ。


 幸いに閉め切ったシャッターのおかげで店の外に響く事は無いだろう。だから叫んだ。誰の目も気にすることなく叫べる。狂ったように叫ぶ。自分の不幸を呪うように叫んだ。


 泣き叫ぶ男の姿はさぞ滑稽だろう。

 だが男にとっての不幸はここに極まっているのだ。自分の持てる能力を発揮し努力した結果は誰にも認めて貰えなかった。


 男は一通り泣き叫び嘆息する。

 ソファーからゆっくりと身体を起こしてもう一度大きく息を吐いた。息を吐き終えると泣き叫んだせいか頭の奥がズキッと痛みが走った。


 その瞬間、視界は黒く塗りつぶされ意識は遠ざかっていった。



 ◇



 ゴゴゴゴォォオオオオオオオ


 ドンドンドンドン


 男の意識が薄っすらと覚醒していく。辺りには巨大な滝のような瀑布の音、脈打つような重低音が鳴り響いている。酷い騒音の筈なのだが男にはそれが何故か心地よく聞こえていた。


 意識がだんだんとはっきりしてくる。身体は自由には動かない。四肢の感覚が麻痺しているようだった。だがそれも身体を覆い包み圧迫されているような不自由さは感じても不快では無かった。むしろ微睡みに沈みこんでいくような安らぎを感じていた。


 記憶が正しければ店のソファーで寝転がっていた筈で、今のこの状況は不自由なのに何故か安心するという不可解極まりない筈なのだが、それがどうでも良くなるほどに今のこの空間は安らぎに満ちていた。


 男は安らぎに包まれる感覚に身を任せ、微睡んでいく。そして覚醒。もう何度繰り返しただろうか。いったいどれほどの時間がたっているのか男には分からない。覚醒していられる時間もそう長くは無いからだ。だがそれもこの安らぎに満たされた空間においては苦にも感じない。


 何度も覚醒を繰り返す中で、男は自分の四肢の感覚がある事に気がつく。それはまだ腕をほんの少しだけ動かせる程度のものだったが、その感覚は次第に腕から手、指、脚にいたるまでの感覚を取り戻していった。


 身体のほとんどの感覚を取り戻した男はやはり自分が極めて狭い空間に閉じ込められているのだと認識する。瀑布と重低音は辺りに変わらずに鳴り響いている。


 男は手足の感覚を取り戻してもそこから抜け出そうとは思わなかった。店のソファーにいた筈の自分が置かれている状況に当然疑問はあったが、ここらから抜け出したとしてもそこにはまた辛い現実が待っているだけだ。この心地よい空間にいつまでも浸っていたかった。


 自由は無いが不自由も無い。何も考える必要も無かったし、何かに怯えることも無い。何故か空腹すらも感じることの無いこの空間は、もしも天国というものがあるとしたならば間違いなくこの場所だろうと男は思っていた。


 だが、やはりというか現実は男にいつまでも安らぎを与えてはくれないようだ。


 その時は突然に訪れた。


 何かが身体から吸い取られるような感覚。いつまでも鳴り響いていた瀑布はその感覚と共に音が遠のいていく。脈打つように鳴っていた重低音はその間隔を狭めていき音も次第に大きくなっていく。心地よかった重低音のリズムは今では危急を知らせるように男に焦燥を感じさせる。


 とうとう終わりが来てしまったと男は思う。

 安らぎに満ちた時間は終わり、不安に悩まされ続ける日々が始まる。



(嫌だ)



 男は四肢をバタつかせてなんとか抗おうとする。



(嫌だ)



 以前のように叫ぼうとしたが声にはならなかった。


 唐突に狭い空間の先にぼんやりと光が見えた。意識が覚醒してからというもの光など今までには無かったものだ。

 狭い空間で急に暴れたためか徐々に息苦しさが増してくる。それがさらに男を焦らせた。冷静さを欠いた男は一瞬だけ見えた光の先へと縋るように手を伸ばし、狭い隙間を掻い潜るように頭を突き出した。


 眼前には眩い光が辺りを満たしていた。急な光のせいで朧げにしか周りの状況は分からない。だが先ほどまでの息苦しさも責め立てるように鳴っていた重低音ももう無い。


 男は差し迫った不安から解放され安堵し、産声をあげた。


 自由と不自由を再び手に入れた瞬間だった。




読んで頂きありがとうございました。

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