ランク昇格試験。その4
「ミシェル・・・あんたねぇ~後で覚えて起きなさいよっ!!」
まだ腰が抜けた状態のままキッと僕の事を睨み付けるアリアさん。いつもなら凄まれたらビビって直ぐに謝ってしまうけれど、ヘタリ込んでしまっている今のアリアさんにはいつもの凄みは感じられず、寧ろ可愛いとすら思ってしまう僕がいた。
「アリアさん可愛いですね。」
「なっ!?ななな・・・っ!?何言ってんのよっ!馬っ鹿じゃないのっ!!本当怒るわよっ!」
アリアさんは顔を真っ赤にして怒っている。
おかしいなぁ?素直に可愛いから褒めたつもりなのに。
「それ位にしておきなさいミハイル。これ以上追い込んだらアリアが頓死するわよ。」
マギーさんはやれやれといった表情で僕らの会話を中断した。
「えっ!?そうなんですか?」
「そうよ。ミハイルにそんなつもりがなくてもアリアにはおおアリなのよ。それにアリアっ!ミハイルに文句を言うのはお門違いよ。私が何時までも呆けているアンタを起こすのにミハイルに命令してやらせたのだから。だから文句があるのならこの私に言いなさい。幾らでも相手をしてあげるから。」
「うぐぅ・・・。」
マギーさんにピシャリと叱りつけられたアリアさんも流石に反論する事も出来ずにいた。
そんな様子を見ていたロイズさんが注意を引くかの様に2度ほど手を叩いた。
「ハイハイ。お遊びも其処までにしておいて今回の昇格試験の話に戻して良いかな?」
ロイズさんの眩し過ぎる笑顔が突き刺さる。痛いっ!目が~目が~。
「何やってんの?ミシェルは。」
今度はアリアさんのジト目が僕の心を突き刺していく。
アリアさんも足元をガクガクと震わせながらゆっくりと立ち上がる。
「続けて良いかな?」
「はい。お願いします。」
「お願い。」
「先程も説明したとは思うけど基本的に昇格試験は筆記と実技そして面接になっているんだけれど、アリアが一番不安に思っている事はきっと筆記試験の事だと思うんだけど違うかい?まぁこれはアリアの反応を見たら誰が見ても分かるけどね。」
「うぅ~!そうよっ!筆記が1番嫌に決まってるじゃない!わかってるなら聞かないでよっ!」
アリアさんが若干涙目でプルプルと震えている。そんなに泣きたくなる程、筆記試験が嫌なのかな?
「まぁまぁ、アリアのその気持ちも分からなくは無いけれど、これは必要な事なんだよ?知識というのは時には窮地を救う事だってあるんだから。それにこの試験はね、筆記と実技の合計点による査定によって判断するから例え筆記が悪くてもそれを補う程に実技試験の結果が良ければ合格点にいく様になっているんだよ。まぁそれでも筆記の結果が悪くないにこしたことは無いけれどね。」
ピクッ・・・。アリアさんの体が微か反応する。
「へぇ~そうなんですね。じゃあ仮に逆もあるって事ですか?実技の方に自信が無くても筆記が良ければ合格点にいくって事ですか?」
「まぁそういう事だね。けれどそちらは余りお薦めはしないかな。確かに膨大な知識を覚えておく事は大事だけれど、僕達は冒険者だから依頼を達成し、それに見合う対価という報酬を得る訳だから知識だけでは、それは得られないからね。」
ピクッピクッ・・・。さっきからロイズさんの話が進むにつれ意気消沈していたアリアさんのヤル気が甦って来ている。
「やってヤろうじゃないのっ!!筆記試験が何だっていうのよっ!!それ以上に実技で大幅に点数を叩き出せば良いんでしょっ!?だったらヤッてやるわよ!ミシェルっ!私達で実技試験1位取るわよっ!」
「えぇ~!?アリアさん完全に今、筆記試験捨てましたよね?それに僕をそれに巻き込まないで下さいよぉ~。」
「あら?何言ってんのよ。私達はパーティーなんだから巻き込むも何も私とアンタは一蓮托生の運命共同体でしょ!」
「そんなぁ~。」
酷い・・・酷すぎる。アリアさんはきっと筆記試験の勉強をする気が更々無い。というか覚える気すら無いと思う。これはまずい。僕だけでも勉強をして少しでも点数を浮かせないとアリアさんの事だから指定討伐・採集以外に大物モンスターとかも狙いかねない。ここは僕がしっかりしないと・・・。
「二人共盛り上がっている所悪いんだけど大事な事を1つ言うの忘れていたわ。寧ろこれが1番大事と言って良いわね。昇格試験の日程なんだけれど、3日後だから。」
「「えええぇぇぇ~~~っ!!!」」
それはマギーさんからの死の宣告でした。




