回復支援て前衛でしたっけ?その5
回復支援なのに前衛ってどういう事?それに神官破門って何やらかしたんだこの人。冒険者の素性を聞くことは暗黙の了解でご法度だが、それでも気にせずにはいられない位ルドルフさんはあっけらかんとしていた。馬鹿なのかな?この人。
「差し支えなければ教えて欲しいんですけど、何故神官を破門されたんですか?」
「うん?あぁ~それか?何処から話せば良いかな。先ずお前ら聖ハルモニア公国の神官について何処まで知ってる?」
「聖ハルモニアって法王が治めてる国でしょ?大昔に聖女が世界に蔓延る魔を浄化し、この世界に平和をもたらしたとされ、聖女を神として崇めた唯一信教よね?確か・・・神官は聖女に仕える為、女人禁制で全て男性よね?」
「へえぇ~良く知ってるな。赤毛の癖に。」
「ムカッ!赤毛って呼ばないでよね!私にはアリアって可愛い名前があるんだから!」
可愛いって普通自分で言いますか?
「本当アリアさん良く知ってますね。僕は聖ハルモニア公国が隣国って事位しか知らないですよ。」
「ミシェル~あんたは歴史を知らなすぎよ。この位は冒険者として知っておかないと後で苦労するわよ?この先他の国に行く機会だってあるわけなんだし。」
「そうね。ミハイルには少し個別に歴史の授業を教えて行く必要がありそうね。」
ヒイィィ。マギーさんが不敵な笑みを浮かべている。
「だ、大丈夫です!自己学習しますから!授業はご遠慮願います。」
「あらっ?そう?残念ね。じゃあ諦めるわ。」
余り残念そうには見えませんが。諦めてる様にも見えませんが。
「おっと、話の腰が折れちまったな。えぇっと、そうそう!神官についてだったな。赤毛・・・あっ、いや、アリアの言っていた通り聖ハルモニア公国の神官は女人禁制で神官になるのは全て男なんだが、それ以外に決まり事があってな、神官3禁てのがある訳だ。それが、【酒】【博打】【女】だ。酒、博打はまぁ我慢出来なくは無いが女なんて我慢できる訳ないだろ!俺の場合は3禁全てぶっちぎってたから聖職者にあるまじき行為!って言われて破門になったんだけどな。それに司教クラスになると女で色々発散出来ない代わりに衆道ってのがあってな。俺はそれも嫌でなぁ。あのエロ親父共!」
「あ、あの衆道って何ですか?」
「うん?あぁ衆道って言うのはな・・・。」
「ちょっと待って!ミシェル私が後で教えてあげるから!」
アリアさんの顔が赤くなっている。
「えっ!?あ、はい。じゃあまた後で。」
「何だ?ミシェル衆道知らないか?アリアも顔赤くして案外スケベだな。」
ルドルフさんはそう言ってニヤニヤしている。
「し、失礼ね!そんな訳無いでしょっ!」
「ふぅん。まぁ良いけどな。そういう事で、俺は神官を破門されて他に出来る仕事も無いし、神官として回復支援は出来るから冒険者に転職したって訳だ!」
「そうだったんですか。それで次いでにもう1つだけ気になる事が・・・。」
「うん?何だ?」
「何故神官なのに後衛での回復支援では無く前衛何ですか?前衛での回復支援だと危険も大きいと思うんですけど。」
「それはな初めに言ったが後衛でちまちまいるのが性に合わないのと前衛で戦う神官ってなんだか格好良いだろ?」
ルドルフさんはそう言って誇らしそうな顔をしている。やっぱり馬鹿なのかな?この人。
「大体は分かりました。それと、マギーさんに聞きたい事があるんですが?良いですか?」
「ん?何?ミハイル。」
「うちのギルドの方針では危険度を下げ生存率を上げる為に同ランク同士ではパーティーを組ませないのが原則ですよね?なのに何故僕とアリアさんはパーティーを組んでいるのでしょうか?アリアさんには失礼かもしれませんが、確かにアリアさんは先輩ですけど、別段経験豊富というわけでは無いと思うんですけど・・・。」
「確かにそうね。ミハイルが疑問に思うのも仕方が無い事ね。私が立ち上げたギルド【星屑】の方針は少数精鋭。それは分かるわね?これは個人の能力が大きく関係するわ。私が何故貴方達Eランク同士パーティーに組んだかはそこにあるのよ。アリアは確かに先輩だけれども経験としてはまだ1、2年位ね。だけど、私の見立てではアリアは既にDランク相当、若しくは更に上のランクと捉えているわ。それにミハイル。貴方もまだ新人だけど、能力の伸びで言えばアリアにもひけは取らないと考えているわ。
勿論貴方の特殊な能力込みでね。だから本来ギルドの規則に則れば貴方達二人は組ませないのだけれども今回に限り私と副ギルド長であるロイズと相談した上で貴方達二人パーティーを組ませる事にしたのよ。けれどこの後、貴方達に依頼しようとしているクエストの事を考えたら貴方達二人では荷が重いと考え、ルドルフを貴方達の新しいメンバーに加える事にしたの。これでミハイルの質問の答えになるかしら?」
「そこまで評価して頂いてありがとうございます。アリアさんだけでなく僕の事も。」
「あらっ?失礼ね。ギルド長として冒険者をキチンと評価するのもギルド長としての重要な務めよ?」
「そ、そうなんですね。すみません。」
「良いのよ。これが私の仕事なんだからミハイルが知らなくても当然よ。」
マギーさんはそう言って優しく微笑んでいる。
「なぁ!ギルド長。さっき俺達に依頼したいクエストがあるって聞こえた様な気がしたんだが俺の聞き間違いか?」
そういえば確かに言っていた様な気がする。
「そうね。でもこの依頼はちょっと特殊でね。どちらかと言えばルドルフ。貴方がいて初めて成り立つ依頼なのよ。」
「それって・・・つまりはどういう事だ?」
「ちょっと説明が足りなかったね。この先は私が説明しよう。」
そう言ってロイズさんは依頼内容が書いてある依頼書を手に取り説明してくれた。
「簡単に言うとグールの討伐クエストなんだ。
ここ城塞都市オデッセイから北へ行くと炭鉱の街デュークがある。君達にはこれから其所へ向かってもらいたいんだ。」
「炭鉱の街デュークですか?何故です?」
「うん。最近炭鉱の一部で崩落事故があってね。何人か犠牲者が出たんだ。そこまでだったら別にギルドに依頼は来ないんだけど、その炭鉱では時折瘴気が発生するみたいで犠牲になった人達がグール化したんだ。そこでギルドへ依頼が来たんだ。依頼の内容は討伐と浄化だ。浄化にはどうしても神聖魔法が必要だから元神官であるルドルフ君に頼むとして、そのパーティーとして君達に依頼しようとね。」
「そういう事か。了解した。その依頼受けるぜ。お前らも良いか?」
「ちょっとぉ!何勝手に決めてるのよ!依頼内容は分かったけど肝心な報酬の話がまだでしょ!私達には其処が一番重要なんだから!」
「かぁ~!本当がめつい女だなぁ!困っている人がいたら普通手を差し伸べるだろ。奉仕の心が無いのか?この冷徹女!」
「はあぁ?ギルドは奉仕活動じゃないのよ。そんな事してたら私達食べていけないじゃない!依頼があって報酬がある。その報酬に見合う内容だったら受けるべきなのよ。それに!冷徹女って失礼ね!現実主義者と言って欲しいわ。」
また二人の口喧嘩が始まりそうだな。
「ごめん。ごめん。報酬の話がまだだったね。報酬は一人銀貨3枚だよ。グールは毒を持ってるから毒消しは必ず持って行くようにね。」
「銀貨一人3枚!?やるわ!その依頼受けましょ!」
「おいおい!報酬聞いた途端それかよ。まぁ確かに銀貨3枚は欲しいがな。元々受けるつもりだったから良いけどよ。」
「じゃあ決まりだね。宜しく頼むよ。期限は無いけど、必ずグールは殲滅する様にね。」
「了解。」
「分かったわ。」
「ロイズさん。質問良いですか?」
「なんだい?ミハイル君。」
「あの、何故今回はただの討伐では無く殲滅何ですか?」
「あぁそれはね、グールに毒があるのはさっき言ったよね。例えば、ミハイル君がグールに噛まれたとしよう。グールには毒があるので、その毒が全身に回って亡くなると、ミハイル君はそのままグール化してしまうんだ。この意味分かるよね?」
「成る程。だから殲滅なんですね。新たなグール化と犠牲者が増えない為にですね。」
「そういう事。その為の殲滅なんだ。幸い、街の対応が早く炭鉱は現在封鎖されているけど、不届き者が中に入らないとは限らないからこの依頼は迅速にお願いしたいんだ。」
「分かりました。急いで仕度して出発しますね。失礼します。」
僕はマギーさん、ロイズさんに一礼してギルド長室を後にした。
「ちょっ・ちょっとぉ待ってよぅミシェル~。」
「おっ・おい!俺も置いて行くなよ!」
二人共バタバタと僕の跡を追い掛けるようにギルド長室を後にした。
「ふふふ。忙しい子達ね。ねぇロイズ。」
「そうだね。戦女神の加護がありますように。って戦女神は僕の隣にいるか。」
「ぷっ!何よそれ~。兎に角私達はあの子達が無事に戻って来る事を祈りましょう。ここがあの子達の家なんだから。」
「そうだね。」




