第2部隊〜チュートリアル①〜
勇敢な兵士達による気迫溢れた出陣の儀を経て、1000人もの大部隊はモンスターの待つ大運河周辺へと進軍を開始した。
ーーーーこの『Monsters』と言うゲームではターゲットとなるモンスターと戦うために、数百あるギルドの中から自分にあったギルドを選び所属するプレイヤーがほとんどだ。さらに大多数のギルドが、上限である1000人のプレイヤーを確保している。つまりある例外を除き、誰一人として一人でモンスターを相手にする者はいないのだ。それはなぜか?それは、このゲームに出てくる巨大なモンスターの圧倒的な強さを、全てのプレイヤーがチュートリアルで目の当たりにするからである。
巨大モンスターにとっては2メートルの大男でさえ、虫ケラ同然なのだ。
しかし、希望はある。人間一人一人の力は弱く脆い。だが1000人もの数が集まればモンスターにとって十分に脅威となりうるのだ。人気の高いギルドに所属し、他のプレイヤーと力を合わせてモンスターと戦うことが、このゲームの醍醐味であるといっても過言ではない。
1000人のプレイヤーが大運河へと足を進める中、周りの兵士達とは違い異質な軽装、一人ガチガチに緊張しながら歩くあどけない少年の姿があった。
「よお!少年!お前が噂のルーキーか!」
緊張をほぐそうとしたのか、背が高く体格のいい男が、少年の背中をバシッと叩いた。男の背中には自分の背丈の2倍はあろうかと言う大きさのハンマーを担いでいる。
「いてっ!何すんだよ!痛いだろ!」
「おっと!すまんすまん。新人の緊張をほぐしてやろうと思ったんだがやりすぎちまったぜ!まあそんな怒んなよ!カルシウムが足りてないぜ!」
「そんなことない!回復アイテムのモーモーミルクは毎日飲んで......ってカルシウムのせいじゃないわっ!いきなり背中を叩かれたら誰だって怒るだろ!それにあんたは誰なんだ?」
「悪い悪い。自己紹介が遅れたな。俺は第2部隊A班所属のSNOってもんだ。お前もA班だろ?これから一緒に戦う仲間同士仲良くしようぜ!」
「あ、それは、どうもです。僕は今回から第2部隊に選抜されたシバ......ニャンです」
少年は頬を赤らめながら自己紹介をした。
「シバ......ニャン?シバニャン?ってあれか?あの小学生とかに人気のあれだろ?お前、もしかしてけっこうイタイ奴なんじ......」
「わああああ!それ以上言わないでくれ!まさかこのゲームの中に閉じ込められて、素顔が見えるようになるなんて思わなかったんだ!シバニャンのシバは本名の柴崎を......」
背の高い男は手を開いて少年の前に出し、話を続けようとする少年を制した。
「みなまで言うな。俺も人のことは言えない。SNOってのは、ソード・ニート・オンラインの略だ。ここにいる奴らも名前なんて適当につけちまったのが大半だ。恥ずかしがる必要はないぜ!」
「は、はあ」
「そうだ!俺のことはソードって呼んでくれよ!間違えてもニートとは呼ぶなよ新人!」
「そ、ソードさんですね?わかりました。僕のことは本名のタツヤって呼んでください」
ハンマー使いなのにソードさん?と少年が疑問に思ったのは内緒の話である。
「タツヤか!いい名前だ。それはそうと、お前今回がゲームの中に閉じ込められてから初めての討伐作戦だろ?」
「そうです。今までチュートリアルしかやったことなくて。なんで選抜に選ばれたのか不思議なんです」
「俺らのギルド長は見る目があるからな。お前にもなにか光るものを感じたんだろうよ。もしくはあの伝説の......」
「伝説?なんですかそれ?」
「いや、いい。おいおい教えてやるよ。それより今回の作戦は頭に入れてきたか?」
少年はギクっと肩を上下させた。
「それが......まだどんな事をするのかイマイチわかってないんです。選抜テストではガムシャラに頑張ったら受かっちゃったんで、これからどういうモンスターと戦うのかも全然」
「なんだよ。それじゃ死にに行くようなもんだぞ!本当によく選抜になれたな。しょうがねえ。俺様が教えてあげるぜ!」
ソードと言うその男は、胸をはって誇らしげに話始めた。
「まず、この『Monsters』って言うゲームの趣旨はわかってるよな?」
「はい、1000人で一体のモンスターを倒すんですよね?」
「その通り。だが、1000人が全員剣を持って戦う訳じゃないことはしってるよな?」
「それぐらいはわかってますよ!僕やソードさんみたいな近接系の武器を使う『前衛』、主に銃火器でモンスターを狙う『後衛』がいるんですよね?」
「それだけじゃねえぜ。全体の作戦を考えるギルドマスターを中心とした『戦略家』、主に武器や防具を作ったりアイテムを生み出すことに特化した『職人』がいるな」
「しょ、職人?そんな人達もいるんですか!すげー。」
「それだけじゃない。『前衛』の中にも最初にモンスターをおびき出したり、奇襲をかける第1部隊、モンスターとのメインの戦闘を行う、俺らみたいな第2部隊、『後衛』には銃火器を使う第3部隊、罠を使って戦闘を有利に進める第4部隊まである』
「頭が混乱しそうなんですけど!」
「ははは。最初は俺もそうだったぜ。でもな、結局第2部隊の俺たちはモンスターと近接武器でバチバチにやりあうのが仕事さ!好きだろ?モンスターとの戦闘!」
緊張して引きつっていた少年の顔が、みるみるうちに戦う戦士の顔に変わりニヤッと笑みを浮かべた。
「いい顔だ。しかし、震えてるけど大丈夫か?」
ソードは小刻みに震える少年をみて心配そうにそう言った。
「大丈夫。これは武者震いです。やっとモンスターと戦える!楽しみで楽しみで仕方がないんですよ」
「そうか。そりゃ願ってもないねえ。じゃ、作戦の本題に入ろうか」
タツヤとソードはお互いの目を見て、同士であることを確信したーーーー