7. 中沢 充
「この色どう?」
「ちょっとハジけすぎじゃない?」
「こっちは?俺とお揃い。」
「なんでミツとお揃いなの?」
「お揃いにしたいからに決まってるじゃん?うーん。どれにしようかな?あ、ピンク系が入ってるのが似合う気がする…うん、良いね、これはどう?」
「結構好きかも。うん、これにする!」
「んじゃ、ブリーチも買って…葵の髪長めだから一応2個ずつ買おう。んで、余りで俺もお揃いにする。」
「えー?そうなの?」
葵と近所のドラッグストアに買い物に来た。超久しぶりの2人きりの買い物。それが例え近所のドラッグストアでもすげぇ楽しい。本当は洋服とか買いに行きたいんだけど。
葵の髪を触るのが好き。良い匂いだし、触り心地も良いし、可愛くしてあげるのがすごく楽しい。
元々、葵の髪を結ぶのは遼太郎の仕事だった。それが心底気に食わなかった俺は、春樹の頭でひたすら練習した。その頃のハルは、女の子と間違えられるくらい髪が長くて(肩につかないくらいだけど)、葵にそっくりだった。
最近、後輩の早坂が葵にまとわりついているのが気に食わない。少し前には泊まりたいとか言い出すし…俺でさえ毎日チャレンジしていてまだ泊めてもらってないのに、許せるわけが無い。
そんな俺の気持ちを察してかどうかはわからないが、葵は断ってくれた。しかし早坂許すまじ。その後ちょこちょこ嫌がらせしたぜ☆
とある通路を通った時、ちょっとした出来心で葵にイタズラする。
カゴに小さな箱を入れる。
コトリ。
葵は気づかない。だったら気づかせてあげれば良いだけ☆
「葵ちゃん、ネイルも可愛くしてあげよっか?」
右手が上手く塗れない葵に塗ってあげているうちに、葵の要求がどんどんエスカレートして、ちょっとしたネイルアートなら楽勝でできる、結構器用な俺。
「本当?ミツにやって欲しい!だって上手だし…わーい!ネイルも見よ?」
うん、作成成功。そのまま化粧品の置いてある所に行って、どんなのが良いか相談しながらネイルカラーやラインストーンやシールを選んでいく。
「これで全部!………。何これ…ミツ?返してらっしゃい。」
葵が例の小箱の存在に気付いた。恥ずかしそうな顔、可愛い!
「え?なんの話?」
「卑猥なものカゴに入れたでしょ?」
「入れて無いよ?」
「これはなに?」
「コンドームだけど?そう言うのすごく大事だよ?」
「………。買うならミツ1人の時にしろ。」
「備えあれば憂なし、だよ?」
葵は真っ赤な顔で、棚に戻しに行っちゃった。うん、予想通りの反応。可愛い。
「ミツ…最低。」
「大事な事なのに…俺ら優子さんにそういう指導みっちりされてるからさ。葵は自己防衛の話とかされてないの?」
葵の母、優子さんは産婦人科のお医者さんで、うちの母に頼まれたのか俺ら4人まとめて指導してくれた。
『別にセックスするなとは言わない。そう思うのは健全な証拠だしね。何が言いたいかって、節度を持てと言うこと。ハマるなよ?冷静に自分の置かれれる状況考えろよ?相手の気持ちを考えろと言うこと。絶対女の子の同意なしに襲うなよ?それじゃ性犯罪だからね?それからきっちり避妊しろってこと。ゴムが1番。病気も防げるしね。妊娠を100%防げる方法は無いって覚えておきな。万が一、相手が妊娠したらなるべく早く私に相談すること。堕胎の手術の話…忘れるなよ。』
かなりヘビーな話だった。話もえげつなかったが、それが事実だそうだ。グロ画像まで見せられた。それはすごく小さいが人の形をしていた。
おそらく葵は葵で聞いているはずだ。きっと手術の話は俺たちよりも細かく聞いているのだろう。
買い物を済ませた帰り道。
「葵ちゃんと手、繋ぎたい。」
「なんでミツと繋がなきゃいけないの?暑いし嫌だ。」
葵はガードが固いのに、なんでビッチ扱いされるんだろう?
きっと妬みだ。可愛いもん。
可愛い葵にもう一回だけ意地悪する。
「ねぇ、やっぱりコンドーム家に置いといた方が良いって。」
「そんなことしなくて良いから…要らない!」
真っ赤な顔で膨れる葵が大好き。1回では我慢出来ず、随分からかってしまった。
しばらく葵は不機嫌そうに膨れていたけれど、話題を変えて、カラーリングとかネイルの話をすると家に帰る頃にはすっかりご機嫌な葵に戻っていた。
それから葵の髪をブリーチしてカラーリングした。落ち着いたピンクブラウン。それは色の白い葵にとても似合っていた。
「みっくん、ありがとう。」
最高に可愛い笑顔。以前から時々見せてくれるけれど、最近、前よりもこの笑顔が増えた気がする。そして、久々に聞く葵の『みっくん』。
そして葵とお揃いの髪色。それだけで幸せ。