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78. 桜井 紀子

更新遅くなり申し訳ありません。

2015年もどうぞよろしくお願いいたします。

「もし好きだって言ったらどうする?」

「聞かなかった事にする。」

「じゃあさ、いつになったら聞いてくれる?」

「当分ムリかな。」

「やっぱそれって、元カレの事があるから?」

「…どうだろうね?そもそも恋愛する事が面倒臭いと言うか、周りの糖度が高すぎてお腹いっぱい。」

「待つって言ったら?」

「待つなって言う。」

「でもさ、ぶっちゃけ俺はノリちゃんの中でアリかナシかの2択ならどっち?」

「……ノーコメントで。」

「……その場合勝手にアリって解釈するけど良い?」

「……ご自由にどうぞ。だけど私は全部聞かなかった事にする。」






 ***


 数日前の春樹くんとの会話。

 正直、自分でもズルいと思う。春樹くんの言い方も結構ズルいけど。


 お互い目を合わせないどころか、顔を背けたまま会話してた。私も彼も、テレビの画面を見つめ、手にはゲーム機のコントローラーを握りしめ、必死でプレイして。

 対戦型のパズルゲームだったから、集中し易くて助かった。

 私も彼も、どちらかと言えば感情が顔に出やすいタイプだ。

 だけど、葵や充先輩みたいに、無意識に出てしまう訳じゃない。

 だから平然を装うのは割と得意だ。

 さすがに葵に指摘された時は思わず動揺しそうになってしまったけれど…。


 素直な葵が羨ましいと思う。

 葵自身は、素直になれないから充先輩とぶつかってしまうと言うけれど、素直だからこそぶつかるんじゃないだろうか?

 素直に周りに甘えられるところとか、周りがつい甘やかしたくなっちゃう雰囲気とかは彼女の素直さの表れ。

 頑張り屋で、皆に迷惑をかけまいと時々抱え込んじゃう事もあるけれど。


 素直で真っ直ぐ。

 それが彼女の良いところでもあり悪い所。悪い所も含めて可愛いな、羨ましいな、と思う。


 それはきっと、私が天邪鬼で、可愛げがなくて、腹黒いから。

 いつからこんなに可愛げがなくてズルい女になっちゃったんだろう。

 全て過去の恋愛のせいにするつもりはないけれど、少なからず影響しているのは間違いない。だけどそれは決して元カレのせいじゃなくて自分がそうなりたいと望んだから。




 中1の秋、私は従兄の通う学校の文化祭に行った。

 そこで出会ったのが2コ上従兄の友人で元カレの朔弥だ。カッコいいなと思ったけれど、その時は特に何事もなく、きっともう会う事は無いと思っていた。


 でも、数ヶ月後意外な所で再会した。母方の祖母の家だ。

 母の実家は、長野県の山間にあり、スキー場が近く民宿を経営している。毎年、冬休みに入るとお手伝いと称してスキーやボード目当てに祖母の家へ帰省している。

 それは私だけでなく、従兄も同じで、その年はなぜか彼も紛れていた。

 そこで仲良くなり、連絡先を交換して、その後連絡を取り合う様になり、春になる頃告白されて付き合い始めた。


 その時既に彼は高校生。中学生からしたら高校生なんてめちゃくちゃ大人だ。子供扱いされたくなかった私は必死で背伸びして、大人ぶってた。

 だけど女の子らしく見せたくて、時々は大げさに喜んで見せたり、笑って見せたり、毒舌も封印して…それから小食なフリもした。結構無理をしていたんだ。


 彼に構ってもらいたくて、だけど構ってちゃん呼ばわりされるのだけは避けたかったから、自分の気持ちをストレートには言えず、どうしたらもっと会えるか、構ってもらえるかを考えまくった結果、計算高く腹黒くなっていた。


 優しくて、面白くて、大人で、カッコいい朔弥。

 ボードもめちゃくちゃ上手かった。

 中2の冬も、中3の冬も、3人で冬休みは祖母の家で住み込みのアルバイトとボードをして過ごした。


 普段は勉強を教えてもらったり、映画や買い物、学校帰りに待ち合わせしてファストフード店でおしゃべりしたり、ありきたりだけど、楽しくて幸せで、なかなか上手くいっているとずっと思ってた。


 今思うと去年のバレンタインの頃からなんだか違ったんじゃないかと思う。

 微妙に服の系統が変わったり、苦手だったはずの香水を付け始めたり。

 香水は、「好きな匂いなら意外に平気だった」って言葉を鵜呑みにして、その時は気にも留めなかった。


 私が高校生になって校舎が変わり、今までよりもお互いの学校が遠くなったせいで会える頻度はだんだん少なくなっていった。それと比例するようにメールや電話も減っていく。

 たまに会っても、ずっとスマホを離さない朔弥。それを指摘してウザいと思われたくなかった私。偶然見てしまったロック画面に表れる女の名前や、怪しいメッセージ。それさえ見て見ぬフリをしていた。

 問い詰めて別れを口にされるならば、二股かけられている方がマシだった。


 だって、相変わらず朔弥は優しくて、面白くて、大人で、カッコ良かったから。それに、彼にかけられる甘い言葉にまだ酔いしれていたかった。…何より彼が大好きだった。




 だけど、私が置かれている状況はそれが許される程甘いものじゃなかった。

 従兄の口から真実を知らされた時、私はそれを信じなかった。それで、従兄と大喧嘩して…。


 従兄が正しかったって知るのに時間はかからなかった。


 知らない番号からかかってきた朔弥と別れて欲しいという電話。


 朔弥のスマホから送られてきた、浮気相手に送るはずであったであろうとんでもない写真付きのメール。誤送信なのか、相手の女が故意に送ってきたものなのかは考えたくもない。


 極め付けは、朔弥のスマホからのメールで呼び出されて…目の当たりにしたイチャつく朔弥と写真の女の姿。


 夏休みの終わりの話。

 話も聞いていたし、徐々に…だったから、意外とすんなり受け入れられ、私から彼に別れを告げた。


 あの頃、私以上に葵の方が大変だったから、私は取り乱しちゃいけないと、平常心でいられたのかもしれない。なんでかわからないけれど、葵を守ってあげたかった、守らなくちゃって思った。ただそれだけ。


 従兄とは割と仲が良かったのに、それ以来疎遠になった。彼が受験生っていうのも大きいと思うけれど…。今回の冬休みは祖母の家には行かなかった。色々思い出しちゃうし、従兄にも会いたくなかったから。






 きっと春樹くんに対して取ってしまう態度は、傷つくのはもうゴメンだっていう自己防衛本能。


 間違いなく私は今、彼に惹かれている。

 だけど、まだ朔弥の事を完全に吹っ切れた訳じゃない。


 天邪鬼で腹黒、そして本能の赴くままに食べて、言いたいことも言う。

 そんな素の私を見せているのに、それでも春樹くんは好意を示してくれる。それに一緒にいたら楽だし楽しい。


 単に友人だから今の関係は心地よいのでは無いだろうか?






 ***


「ちょっと、ノリちゃん?太一の話聞いてた?」

「……。」

「ノリちゃん、どうしたの?やっぱ変だよ?」

「え!?あ、ゴメン。聞いてなかった。」


 慌てて笑顔で取り繕ったけれど、上手く誤魔化せただろうか?

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