6. 早瀬 葵
「葵、テストどうだった?」
「うん、慈朗ちゃんのお陰で良い感じだよ、ありがとう!」
7月に入り、みんながうちに集まる頻度が高くなった。外が暑いということもあるけれど、みんなの目的は慈朗ちゃんに勉強を教えてもらうため。慈朗ちゃんは成績優秀。教え方も上手い。お陰でハルやミツも皆夏休みの補習を逃れられた。
慈朗ちゃんはなぜか毎日うちで勉強している。学校の図書室は、女の子達が五月蝿いし、冷房が弱いから嫌なんだって。それに飲み物も、お菓子も、ご飯も出てくるし、自分の家よりも落ち着くって言ってた。
子供の頃、しょっちゅう慈朗ちゃんちに入り浸って、中沢家の母、美津子さんにお料理とか習ったな…。私は中沢家が大好きだった。落ち着く素敵なお家だし、美津子さんは実の母よりもずっとお母さんみたいで大好きだった。『お母さん』って呼んじゃう位。
「今、仕事が生きがいなんだってさ。俺らの飯の心配してたけど、葵のとこで食べてるって言ったら安心だって。そういや今度葵に会いたいってさ。」
「もうすぐ夏休みだし、遊びに行きたいな。こっそりね。」
「美津子も、遼太郎も喜ぶよ。」
少し苦しかった…。笑って遼ちゃんに会えるだろうか。
「葵…?どうした?」
「ううん、なんでもないよ。」
ニカっと笑う。うまく笑えたかな?
「葵って夏休み何か予定ある?」
「基本そんなに無いかな?バイトしたいって言ったらママに怒られた。」
親の許可があれば長期休みに限りバイトが可能だ。その親の許可が取れない私はバイトができない。部活もしていないし、現時点での友達との約束もハナちゃん達とスイーツバイキングに行くことと、クラスのみんなで花火をするくらいだ。
「じゃあ毎日ここで勉強しても良い?」
「うん、慈朗ちゃんなら私いない時でも使っていいよ。ハルとミツは何されるか怖いから嫌。まぁ、元凶はミツなんだけど。」
それ激しく同意するわ…って慈朗ちゃんも笑ってた。
「宿題わかんないとこ手伝うよ。声かけて。」
「ありがとう!助かる。」
ガチャ。
「葵ちゃん、ただいまー!」
「腹減った。葵、なんか食うもん無い?」
噂をすればなんとやら、2人が来た。
「冷蔵庫に色々あるから適当に食べて。」
「あ、カレー発見。ミツも食う?」
「葵カレーなら食う!レトルトならいいや。」
この2人が来ると五月蝿い。でも、嫌じゃ無い。心地よい五月蝿さ。
2人はあっという間にカレーを食べ終え、夏休みについて話し出した。
「もうすぐ夏休みだねー!葵ちゃん、海行こう!海!俺と2人で!」
「ミツ、海はみんなで行くから楽しいんだぜ?」
「日焼けしたく無いから行かなーい。」
「うわっ、冷たいなぁ…。」
ハルが膨れてる。可愛い。
「葵ちゃん、髪染めようよ?俺染めてあげる。ハルのも颯太のも慈朗のも俺が染めてるし。遼太郎に教えてもらってるから結構上手いよ?」
「でも、友達と会う約束あるし…。」
「その時はスプレーで黒くしてあげるからさ、ね?可愛くしてあげる。」
ミツは器用でセンスも良い。
ミツが私に選んでくれた服はなぜかしっくりくる。不思議と私に似合うものを選んでくれる。それに、ハルの髪をしょっちゅう編み込みしてるせいか、私の髪も上手に編んでくれる。
「じゃあお願いしようかな?」
「決まり!じゃあカラーリング剤買いに行こう?」
そう言って私の寝室へ行き、クローゼットを開けて物色を始める。
「制服じゃマズイでしょ?これとこれ着て?あとは…」
「そこは開けちゃダメ!」
ミツが開けたのは下着の引き出しだった。
「葵ちゃん…Dカップ…?うぐっ…。」
つい条件反射でミツの鳩尾を殴ってしまった…。
「ミツ、ごめん…。」
私が充に謝ると同時に、リビングから声がする。
「Dか…意外だな!」
「葵さんは着痩せするタイプでしょ?昔から。」
ハルと慈朗ちゃん…聞いてたんだ。
「葵ちゃんになら殴られても嬉しいから許しちゃう!」
やばい、充さん、壊れました…。
気を取り直して、制服からミツが選んでくれた服に着替える。出かけるついでに、制服をクリーニングに出そう。
「葵ちゃん、ここ座って。」
ミツだけは私をちゃん付け呼ぶ事が多い。昔は呼び捨てだったのにいつの頃からかそうなった。
ダイニングのベンチに座ると、ミツは自分の鞄からコームやらピンやらスタイリング剤を出してきて、私の髪を編んでくれた。
「やっぱ斜め前髪の方が可愛い。」
2つに分けてフィッシュボーンに編んでくれて、斜め前髪。最近のミツのお気に入り。