76. 中沢 充
「みっくん、おかえり〜!」
「友晴?何でいるんだよ?」
「お邪魔してまーす。」
「…ノリちゃんまで?」
「焼肉同好会改め、肉!同好会の活動の為お邪魔してます。因みに、会員が2名増えました。」
「葵ちゃんと颯太もご入会!」
「充先輩、早く手を洗って着替えてきて下さい。充先輩待ちだったんですから!」
帰宅するとなぜか友晴とノリちゃんに出迎えられた。
言われた通り、制服から私服へ着替え、手を洗い、リビングへ行く。
ダイニングテーブルには、色鮮やかな料理が並んでいる。
カプレーゼ、生ハムのサラダ、グリルした野菜のマリネ、チーズの盛り合わせに、フォカッチャ、ジェノベーゼソースを絡めたフェットチーネ、セミドライトマトのマリネ、オリーブ。
岩塩や醤油、バルサミコのソース、ジェノベーゼソースと共に、サシの程よく入った牛ロース。
中央にはホットプレートが温められている。
「みっくん…おかえりなさい。」
葵はまだ少しだけぎこちないが、以前のような笑顔を俺に向ける。
「葵ちゃん…ただいま。」
久しぶりにちゃんと葵の目を見て喋れた気がする。
すると、葵の顔がほころび、ぎこちなさが消えた。
それを見て、モヤモヤが少し消えた。
「はいはーい、グラス回してー!」
友晴から全員にワイングラスが配られる。
グラスの中には、スパークリングワインらしき物が入っている。
「良いのかよ?」
「大丈夫、これジュースだから。」
「美味しそうなお肉に、カンパーイ!」
ノリちゃんが乾杯の音頭を取り、それと同時に、ホットプレートの上に肉が並ぶ。
「それは…私の育てた肉!エロ晴先輩?自分で育てて食べて下さい…肉の恨みは怖いですよ?」
「いいじゃん。今日の肉は俺がスポンサーだし?」
「それとこれとは別次元の話です!」
友晴とノリちゃんのそんなやりとりを見て葵は笑っている。葵が楽しそうにしているとなんだか嬉しい。
今週はずっと辛そうな顔をしていたから…。
俺の斜め向かいに座る葵は時々、俺にも笑いかけてくれた。
「本当に美味しい!葵、私と結婚して?」
「いやいや、女の子同士じゃん?トモくんと結婚しようよ、葵ちゃん。」
「友晴と義理の兄弟とか嫌だな。」
「俺は颯太が兄とか結構嬉しいけど?」
「俺も友晴が兄とか嫌だな…。」
「いや、私が葵と結婚するから!」
「ノリちゃんは葵の飯が食いたいだけだろ?」
「ま…まぁね?」
いつもであれば、俺が結婚するからダメ!とか葵ちゃん、結婚してとか言えるはずなのに今日は言えなかった。
テーブルの上にあんなに並んでいた料理も、肉も綺麗になくなり、葵は颯太と2人で洗い物を始めた。
いつもなら俺もそばに行って葵に絡むのだが、今日はそれが躊躇われた。
今日も葵の料理は美味かった。
そう言えば、最近、食事は俺の好きな物が続いていた気がする。
今日のだってそうだ。
葵は、俺の好きな物をわざわざ作ってくれてたのか?
いつもなら、葵が俺の好物を覚えていてくれて、それを一生懸命作ってくれるのが嬉しくて、ありがとうだの大好きだの言っているのに、今日は…ここ数日はずっとそれをしなかった。正確にはする余裕がなかった…気付く余裕すらなかった。
デザートは、ちょっとしたケーキビュッフェ状態。ティラミスにアイスクリーム、友晴が買ってきたというケーキや家から持ってきたという高そうなチョコレート、盛りだくさんのフルーツをテーブルいっぱいに並べて、思い思いに好きなものを選び食べていく。
「このチョコレート、ものすごく美味しい!高級な味がする!!エロ晴先輩、流石です!!」
「友晴先輩のお土産のムースも美味しい!すごくいい香りがする…。」
その後から、葵の様子がおかしかった。葵だけじゃない。ノリちゃんだってなんか変だ。
2人は、やたらと陽気で、楽しそうにしているが、葵は顔が赤くて、舌ったらずな喋り方になっている。
ノリちゃんは、冗談がいつも以上にキツイ。
「エロ晴ばっかずるい!葵、私も泊まるから!」
「トモくんだけじゃなくて、ノリひゃんもおとまりするにょ?おふとんどうしよう?」
「俺が葵ちゃんと寝るから、ノリちゃんが慈朗ちゃんのベッド借りたら?」
「わたし、トモくんとねるのはいや。みっくんがいい。」
「じゃあ、春樹をリビングのソファで寝かせて私は春樹のベッドで寝る!エロ晴は颯ちゃんと寝る!これで部屋割り決定で!」
「俺がソファかよ?」
「えぇ?俺は葵ちゃんと一緒に寝たいなぁ。」
「いやれす。そうたんとねてくらさい。」
「仕方ない…じゃあ代わりに、葵ちゃんとお風呂一緒に入りたい!全身隈無く洗ってあげるからさ?」
「トモくんってよばないと、おふろのぞくっていうからそうよんでるのに…いっしょにはいるとか、いみがわかりましぇん。」
「エロ晴、エロいのも大概にしろよ?葵を泣かせたら私と颯ちゃんが許さんぞ!」
友晴の前に仁王立ちで宣言するノリちゃん。
「友晴…このチョコレート酒入ってるのかよ?」
「え?なんの話かな?俺、一箱食っても全然平気なんだけど?」
「こっちのケーキも結構酒使ってるよな…。」
「いや、ほんのり香り付けだろ?」
「それは友晴が酒に強いだけ…葵は滅茶苦茶弱いんだよ…。」
チョコレートの空箱を回収し、ムースをつつき、不機嫌そうに友晴を見る颯太。
颯太が怒るのも無理は無い。未成年だし、葵はアルコールにすげぇ弱い。最近は随分マシになったみたいだけど、昔は煮物に入れたみりんとか、アサリの酒蒸しの煮切れてないアルコールで顔を真っ赤にする事も時々あった。
昔、美津子がしっかりアルコール飛ばしたからと言って食べさせた梅酒のゼリーも、葵からしたら結構酒がキツかったようで、酔っ払った上、吐いてた位だ…。
「うわぁ…葵ちゃんと飲んでみたいなぁ…。5年後、絶対飲もうね?葵ちゃんがOKなら今すぐでも…」
「エロ晴、いい加減にしろよ?」
ついに颯太までがエロ晴扱いし始めた。
そんな友晴と颯太の馬鹿なやりとりに気を取られて、俺はすぐ近くに葵がいることに気づけなかった。
「みっくん?」
「あ…葵?」
急に目の前に現れた葵の顔。
すごく近い。顔が10cm程しか離れていないとか、もう耐えられない。
首を少し傾げて、目は潤み、頬を赤く染め…吐息からほんのりアルコールの匂いがする…しかもそれが友晴の仕業なので余計気分が良くないが…久しぶりに見る至近距離での葵の顔が色っぽいとか…マジで耐えられない。
ドキドキする。
可愛い過ぎるし!
こんな表情を先程まで友晴にも見せていたのかと思うとなんだか腹が立った。
「みっくん…まだおこってる?こないだはじろーたんとねてごめんなしゃい。」
呂律が回っていないが、ちゃんと謝ろうとしてくれているのは十分過ぎるくらい伝わる。
「みっくんだいしゅきなのに、さみしかったよぉ…。みっくんにこばまれてるみたいで、ずっとかなしかったよぉ…。」
葵は泣きそうな顔をしている。
「だから、なかにゃおりしたい…」
「仲直り?」
「うん。てもちゅなぎたいし、ぎゅーってしてほしいし、チュウもしたい。みっくんとはなかよしがいいの。」
ダメだ。
もう耐えられない。
酔って、呂律が回らなくて、声も喋り方もベタベタに甘い葵は可愛いくて仕方なかった。
俺が抱きしめようと手を伸ばす。
伸ばしたのだが…。
「葵〜、かわいすぎ!!ウヘヘ…」
俺が抱きしめる前に、ノリちゃんが葵に抱きついていた…。
酔ったノリちゃんは完全にオッサン。葵の頬にキスし始めた。
何とも言えぬこの敗北感。しかも相手が女の子な上、葵が拒否しないので、どうする事も出来ず固まる俺。
仲直りはどうなってしまうんだ…。
「ノリひゃん、くちびるはダメぇ〜!」
「いいじゃん、減るもんじゃないし…グヘヘ…。」
「いやぁ…やめてぇ…。」
ついにノリちゃんは葵の唇まで狙い始めたらしい。
俺が座るソファの周りを葵が逃げ、ノリちゃんが追い回す。
「くちびるはやめてよぉ…。」
「いいじゃないのぉ…?」
「ダメぇ…あ、いいことかんがえちゃった…。」
ニンマリ笑った葵は、急に俺の膝の上に乗って抱きついてきた。
しかも、この体勢…絶っっっっっっ対ダメじゃん!?耐えられないんですが!?ちょっと、葵さん!?
パニック状態の俺とは対称的に葵は勝ち誇った顔でノリちゃんを見ている。
次の瞬間…葵の両手が俺の顔を固定して…。
チュッ。
「ノリひゃんがわたしのくちびるにちゅうしたら、もれなくみっくんとかんしぇちゅきしゅしちゃうことになるよ?えへへ?」
相変わらず勝ち誇ったドヤ顏でノリちゃんを見る葵。
いや、もう俺無理っす。マジで無理っす。お願いだから俺の膝から降りてくれ…お願いだからこれ以上キスなんてしないでくれ…。
俺の願いとは裏腹に、葵は抱きついて離れないし、更に2回ほどキスされた。
「葵…エロいよ…?」
「そんなことないもん。ノリひゃんひどい…エロはるしぇんぱいといっしょにしちゃいや。」
急に冷静になったノリちゃんの指摘に、葵は頬を膨らませて俺に抱きつく。
俺はもう失神寸前。
背後からは恐ろしげな気配をひしひしと感じる。
「葵?すぐに離れなさい。充も困ってるぞ?」
颯太の冷たい声。
「いや。こうしてるの。」
更に抱きつこうとする葵は、颯太によって無理やり俺から剥がされる。
「マジで助かった…。」
つい本音が漏れてしまった。颯太のジットリとした視線が痛い。痛すぎる。デニムを履いていて助かった。これがスウェットとかジャージだったら終わってた。
「童貞の充先輩には刺激が強過ぎたみたいですね?」
「だよねぇ?絶対今のは堪えたよね?」
ノリちゃんと友晴がニヤニヤしながら俺を見る…ってそこは見ないでくれ!
慌ててクッションを抱いてごまかす。
葵は、颯太に説教されているようだ。本人は全然聞く耳持ってないみたいだけど。




