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68. 中沢 充

「中沢さーん、お待たせ致しました。」

「……………。」

「中沢さーん、中沢 慈朗さーん、充さーん。お薬できましたよー。」

「……………。」

「お薬をお待ちの中沢 慈朗さーん、中沢 充さーん、いらっしゃいませんか?」

「あ…すみません…。」


 葵に頼まれた買い物と、薬を受け取るため、慈朗と別れて近所のドラッグストアにやってきた。

 内科でもらった2人分の処方箋を出して、薬が出来るのを待っている間、考え事をしていた俺は自分が呼ばれている事に全く気付かなかった。


 処方された薬は専用の吸入器で吸い込むタイプ。簡単に使い方の説明を聞いて受け取ると、葵に頼まれた買い物をするため、店内をウロウロする。




 昨晩、葵に一緒に寝たいとお願いしてみたものの、慈朗が熱を出しているからという理由で断られた。

 理解出来るような出来ないような理由に、渋々納得して別れたものの、葵は慈朗の様子を見てから寝ると体温計を持って慈朗の部屋へ行ってしまった。


 正直、面白くない。


 慈朗は受験生。身の回りの世話を葵が美津子に頼まれていて、ちょっとした小遣いをもらっている事は知っている。葵の性格上、体調を崩した慈朗の看病は美津子に頼まれていなかったとしても当たり前のようにするだろう。

 葵のそういう優しいところは好きだし、彼女の性格上仕方ないのは理解している。しかし、理解していても面白くないものは面白くない。


 これが慈朗じゃなくて、颯太や春樹だったら、多少はマシなのかもしれない。

 葵にとって、慈朗は兄。颯太と同じ様な感情で接している事位わかっている。

 慈朗だって葵は良く出来た『妹』で、自他共に認めるシスコン…だった筈だった。

 ところが、最近慈朗にとって、葵は『妹』ではないのではないかと疑ってしまう発言が度々ある。


 今まで颯太寄りの言動だったのが、遼太郎や友晴に近くなってきたのだ。

 いくら葵が兄だと思っていても、慈朗とは血が繋がっていないし、葵の恋愛遍歴を見ても、遼太郎と俺な時点で、慈朗が恋愛対象にならない保証など100%無い。

 厄介な事に、両家の父親は葵と慈朗をくっつけたいらしい。


 それもあって余計、葵が慈朗の看病をするのが面白くないのだろう。


 それに、今朝の葵の様子が気になっていた。




 朝方、ふと目を覚ますと部屋のドアの隙間から灯りが漏れていた。

 なんとなく気になって起きると、廊下は電気が付いていて、脱衣所で物音がした。

 脱衣所の引き戸を開けると、そこには葵がいた。


 シャワーを浴びてシャンプーまでして上がったばかりなのか、髪まで濡れた葵からは湯気が上がっていた。

 突然視界に入ってきた俺に驚いて固まる葵と、そんな葵の衝撃的な姿に固まる俺。

 実際は10秒もなかったのだろうが、結構長い間お互い固まっていた様に思える。


 文字通り、一糸纏わぬ姿の葵。


「やだ…見ないでよ…。」


 数秒の沈黙の後、耳まで真っ赤な葵はそう言うとバスタオルを掴んでバスルームに戻ってしまった。




 それにしても全裸の葵の破壊力は凄まじい。

 幼い頃は普通に一緒に風呂にも入っていたというのに…。おそらく今はとても一緒に入れそうにもない。それどころか、見てしまった以上、一緒に眠る事すら出来ないだろう。

 間違いなく、俺の理性はぶっ飛んで、下手したら葵の同意を得られないまま襲ってしまう気がする。

 それだけは絶対に駄目だ。


 葵の母、優子さんとの約束もあるし、おそらく葵はそういう事にネガティブな感情を抱いているはず。

 何より必死でキス以上の事をしない様に耐えている俺の努力だって水の泡だ…。


 本音を言ってしまえば、葵とエッチしたい。したくて仕方がない。今朝の葵の姿がやけにハッキリと目に焼き付いている。そんなの余計したくなるに決まっているじゃないか!




 冷静さを取り戻すため、深呼吸する。

 気付けば目の前に並ぶカラフルな小箱。


 って、俺は何を考えているんだ!?


 無意識で買おうとしてたのか?まぁ、確かに必要かもしれない…いや、駄目だ、こんなものが手元にあったら、間違いなく俺は葵を…。

 うん、無い方が良い。まだ必要など無い。


 再び、深呼吸して、葵に頼まれた冷却ジェルシートと、栄養ドリンクと、洗剤と柔軟剤を買って家に帰る。




 帰り道。

 朝の一件の後、服を着て髪を乾かした葵にシャワーを浴びていた理由を尋ねた事を思い出す。


「寝汗かいたから…。」


 俺が葵の裸を見てしまったせいか、俺とは目を合わさず、まだ赤い顔のまま葵は答えた。

 この時期に寝汗?葵は一緒に寝てもあまり汗をかいているイメージがない。しかもシャンプーする程とは、夏でもないのに不自然だ。

 その時は、俺もまだ動揺していて、ああそうか、程度にしか思わなかった。


 そして、ものすごくお互い気まずかった。いや、気まずかった、ではなく、未だに気まずい。そういった方が適切かもしれない。




 なのに、よりにもよって、マンションのエントランスでバッタリ葵に会ってしまった。


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