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66. 早瀬 葵

「葵ちゃんも3連休にさ、2泊2日でボード行こうよ?ご飯のお礼に葵ちゃんはご招待!葵ちゃんの大好きな颯ちゃんもハルも行くしさ…トモくんが手取り足取り教えちゃうよ?」

「友晴…テメェ…。」

「私行かなーい。」

「えぇ?良いじゃん?」

「葵ちゃん行かないなら俺も行かなーい。」

「充は誘ってねぇよ?」

「!?」

「私、慈朗ちゃんのご飯の用意しなくちゃだもん。今は大事な時期だし。美津子さんにも頼まれてるし…。みっくんは行っておいでよ?」

「じゃあ、慈朗ちゃんの入試が終わったら一緒に行こうねー?ついでに一緒に寝ようね?みっくんは次もお留守番でいいよ?」

「友晴…マジで殺す…。」

「ボードは行きたいけど…寝るのは無理。どうしてもって言うなら春子と寝て…。」

「いや…俺…っていうか春子でも無理だし…。」

「でもなんで2泊2日?普通1泊2日か2泊3日じゃねぇの?」

「みっくんはやっぱダメダメだね…。」

「!?」

「朝イチで滑れるように金曜の夜走って行くってことでしょ?誰が運転するの?バスツアー?」

「葵ちゃん正解!よくわかったね?金曜の夜出て、夜中に宿について、寝て、朝から晩まで滑る!みっくんこれ基本だよ?」

「早瀬の父が結構好きで、去年まではそんな感じでそこそこ連れて行ってもらったし…。」

「運転はうちの兄。因みに葵ちゃんの元彼の遼ちゃんのオトモダチだよ?」

「葵は遼太郎と付き合ってねぇよ!」

「……………。」




 最近、友晴先輩がよくうちに来る。

 冬休み中、こちらに戻ってからはもちろん、新学期が始まってから(と言っても数日だけど…)も毎日やってきては夕食まで食べていく。


 結局、ボードへは颯ちゃんとハルだけが行くことになり、みっくんと私は慈朗ちゃんと一緒に家に残ることになった。


 連休直前の金曜日、学校が終わると珍しくまっすぐ帰ってきた颯ちゃんとハル。

 夕方6時には友晴先輩とお兄さんの康晴さんがうちまで迎えにきて出かけて行った。

 私は全く覚えていなかったけれど、友晴先輩のお兄さんは、私を知っていた。私がまだ高梨 葵だった頃、遼ちゃんのところに遊びに来ていた康晴さんに何度か会っているらしい。


「あの葵ちゃんがこんなに大きくなったんだね〜。俺、ヤスくんって呼んでもらってたんだけど覚えてないかなぁ?」


 そう言われるとそんな気がしないでもないけれど、覚えていない。

 友晴先輩のお兄さんだけあって、私はからかわれっぱなしだった。やっぱり兄弟揃ってチャラい。というか兄の方が更にチャラい。


「あれだね、充、遼太郎よりもいい男になってるじゃん?やっぱり葵ちゃんもそれで弟に乗り換えちゃた?充に飽きたら、今度はヤスくんに声かけてねー?」


 この人、友晴先輩よりも更に厄介かもしれない。慈朗ちゃんの入試が終わったら一緒にボードに行こうと誘われたけど、この人がいるなら行きたくないかも。思いっきり遼ちゃんネタで絡んできそうだし。


 みっくんもすごく不機嫌そう。なんか気まずい。

 でも、乗り換えたって違うよね?私、遼ちゃんとは付き合っていないし…。


 颯ちゃんたちが出かけた後もなんとなく微妙な空気が私たちの間に流れていた。

 そういえば、慈朗ちゃんが未だ帰ってこない。いつも1番早く帰宅して勉強しているのに…珍しい。




「葵ちゃん…乗り換えたって言われて凹んでるでしょ?あの言い方は無いよね…。」


 リビングに戻ると、みっくんはそう言ってぎゅーってしてくれた。


「俺はそんな風に思ってないから…気にしちゃダメだよ。」


 嬉しくてなんだかクラクラする。最近やたらと甘すぎる。しかも絶妙なタイミングで…。

 和洋問わず甘い物(スイーツ)は大好き。でもみっくんの甘い言葉は…嬉しいけど恥ずかしいからまだちょっぴり苦手かも。


 私の周りには甘い言葉を平気で言う人が多すぎる。遼ちゃんも颯ちゃんも慈朗ちゃんもハルも意外とそういうタイプ。友晴先輩は言わずもがな、だし。

 彼らの言葉は流せるから平気だけど、みっくんのはそういうわけにはいかない。

 流すことなど出来ず、本気で受け止めちゃうからもう甘さが半端ない。


 付き合うと決めてから、私の中で何かが吹っ飛んだ。いや、その前、クリスマスの頃かもしれない。

 私はあり得ないくらい、みっくんが好きで好きでたまらないようだ。

 やっぱり、皆の前や外では恥ずかしいからあまり出さないようにしているけれど、2人きりになってしまうともうダメ。以前は絶対無理だと思っていたあんな事やこんな事まで、みっくんなら良いかも…なんて迂闊にも思ってしまってる私がいる。

 とはいえ、知識も心の準備もまだまだなので、当分はちょっと避けたい。


 知識はないわけじゃない。

 保健体育的な話は学校以外でもある程度ママに聞かされている。

 万が一、妊娠してしまった時の大変さとか恐ろしさをママから嫌という程聞かされ、中学生の妊娠・出産が題材のドラマを見せられ、感想文まで書かされた。

 その上で、避妊やら中絶の話をされたのだが、ママはわざと私の不安を煽るような話ばかりする。


 どうやら幼馴染みを含めた他の兄弟にもそんなレクチャーをしたらしいが、彼ら(みっくん以外)は経験済み。私がいても構わずそちらの類いの話を普通にするので、ある程度の免疫はある。できたら聞きたくないけど。

 そんな風に、今まで私が聞かされていたのは男の子側の話。


 女の子サイドの真面目に聞いた話なんて、数日前のハナちゃんの話くらい。

 ノリちゃんの話も聞いたことはあるけど、その頃は私には無縁な話だと思ってちゃんと聞いていなかった。今になって、あの時ちゃんと聞いておけば良かったと激しく後悔している。

 実は元彼の事を結構引きずっているっぽい今のノリちゃんにそんな話をきくわけにはいかない。かといって、次の彼が出来て話をきくのも正直微妙。いつかはわからない上、相手はおそらくハルになるだろう。




 みっくんは、多分私がママに恐怖心を植え付けられているのに気付いている。もしかしたらみっくん自身もママに不安を煽る話を聞かされている可能性だってある。

 昔から、みっくんは私に「大好き」って暇さえあれば言って抱きついてきてたし…それを承知のママならやりかねない。みっくんの居候の件だって驚くくらいあっさりOKしたみたいだし。


 そのせいか、現状キス止まり。押し倒された体制だったりはするけれど、それ以上のことはまだない。

 それが私にはすごくありがたい。

 もうすでにキスだけでどうにかなってしまいそうだけど…。

 みっくんは本当に女の子と付き合ったことがないのか信じられないくらいキスが上手い。

 上手過ぎて、気持ち良過ぎくて、あっという間に蕩けてしまう。




 案の定、今日も抱きしめられて、甘い言葉を囁かれた後、そんな感じで蕩けさせられて…。そんな感じでイチャイチャしていたら玄関ドアの開く音がした。

 その音に、私とみっくんは慌てて離れる。

 慈朗ちゃんが帰って来ること、すっかり忘れていた。私もみっくんも、真っ赤な顔で立ち上がり、私はキッチンへ、みっくんは自室へと向かう。




「慈朗ちゃん、おかえりなさい。ごめん、ごはんまだ出来てないの…すぐ作るね。」

「作ってないなら俺いらない。なんか怠い。風呂入って寝るから。」

 慈朗ちゃんの顔色は悪かった。大丈夫だろうか?


 いらないと言われたものの、なんとなく作らないのはいけない気がして、ブレザーは脱いではいるが制服の上からエプロンを着け、控えめの3人分というか多めの2人分のパスタを作る。足りなければ冷凍のピザでも焼いたらいい。


 パスタはささっと出来るオイル系。具は冷蔵庫の残り野菜に海老。

 それにカプレーゼと、お湯を注ぐだけのフリーズドライのスープで今日は良しとさせて頂く。

 ええ、手抜きですとも、ごめんなさい。


 制服から部屋着に着替えたみっくんに手伝ってもらって、盛り付けを済ませると丁度お風呂から上がった慈朗ちゃんがやってきた。


「慈朗、メシー。」

「悪いけど、マジでいらないわ…。葵、水頂戴。」


 見るからに体調悪そうな慈朗ちゃん。500mlのミネラルウォーターのペットボトルを渡す。


「大丈夫?お粥なら食べれる?ちょっと待ってもらえたら作るよ?」

「じゃあお願い。でも、少し寝てから食べるから、葵は先に飯食えよ?…お粥、出来たら卵粥がいい。」

「わかった。何かあったら声かけて。」

「ありがとう。じゃ、おやすみ。」


 慈朗ちゃんのお言葉に甘え、私とみっくんは2人で夕食を食べた。


 みっくんは空腹だったらしく、2人分のパスタをペロリと食べてくれた。意外にも家で食べる2人だけの食事は初めて。みっくんは上機嫌。


「葵ちゃん、あーん、ってして?」


 甘えてくる姿が可愛くて、フォークにモッツァレラとトマトを差して口の前に運ぶ。すると、満面の笑みを浮かべてパクリと食べた。

 た…たまらない。

 思わず、もう1度。

 パクリ。

 なにこれ?キュンキュンする。これが噂の胸キュンってやつ?


 私、こういう可愛い感じよりも、キリリとクールな感じが好き(タイプ)だったはず。

 みっくんだって、学校で遠くから見かける姿はクールで凛々しくて素敵。


 なのに!

 何だろう…この可愛いらしい姿にドキドキする感じ…。

 不覚にもチュウしたいとか思ってしまった。


「葵ちゃん?どうしたの?」

 不思議そうな顔で私の顔を覗き込むみっくん。

 慈朗ちゃんも一緒に食べるつもりだったから、ダイニングテーブルは2人並んで座っているため、顔が超近い。


「チュウ…したい…。」


 思わず漏らしてしまった本音に、自分でも驚いた。

 頭から湯気が立ち上っているのではないかと思うくらい顔があつい。

 みっくんも、少し驚いた様子だったけれど、すぐに優しくキスしてくれた…。

 恥ずかしい…。恥ずかしすぎる。


「なんか、デザート食べたいね。」

 恥ずかしさを誤魔化すため、話題を変える。


「俺、葵ちゃん食べちゃいたい…。」

「!??」


 すごく悪戯っぽい目で私を見ている。それが何気にクールで、凛々しくて、もうたまらない。可愛いみっくんもドキドキするけど、こっちの方が好きみたい。もう心臓がバクバクいっている。みっくんに聞こえてしまうんじゃないかと心配になる位大きな音。


「今、エッチな事考えちゃったでしょ?」


 途端に頭が噴火してしまうんじゃないかっていうくらい暑くなる。


「みっくん…意地悪!」

「ごめん、葵ちゃん超可愛いかったから…つい出来心で…。洗い物したら一緒にコンビニ行く?」


 私はふくれっ面のまま、コクコク頷いた。


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