65. 早瀬 葵
「ハルってさ、ノリちゃんに告白しないの?」
「葵!?急になんだよ?」
「好きなんでしょ?見てたら分かるよ?ほら、私たちって話さなくても色々分かっちゃうとこあるからさ?」
「葵はどう思う?」
「前から結構ハルと合うんじゃないかなって思ってた。告白してもきっと直ぐにはOKしてくれないと思う。でも、言うのは無駄じゃないと思うよ?で、ハルはどう思ってるの?」
「一緒にいて楽。話も合うし、考え方も結構好き。毒舌なのも面白いし。それに俺に対して頑張ってない感じが新鮮なんだよね。ほら、例の元カノがあんな感じだったからさ…俺の気を惹こうと必死って言うか、初めはそれも可愛く思たけどさ…結局方向性間違って葵が酷い目にあったじゃん?マジで悪かったと思ってる。ごめんな。」
「そんなの今更だし、ハルのせいじゃないよ?私、ハルにはノリちゃんオススメ。時間かけたら上手くいく気がする。多分ノリちゃんもハルのこと良いとは思ってると思うよ。でも、私のされてきた事詳しく知ってるから、それがネックになっちゃてるんじゃないかな。そういうの面倒臭いって普通に言いそうだし…。それに…」
3学期の始業式の日。学校が半日だったので、ハナちゃんノリちゃんとハル、4人でランチをした。
2人と別れ、珍しくハルと2人で家に帰る。
私はずっと気になっていた事をハルに尋ねた。
「まぁ、中等部の頃から可愛いなと思って…顔と名前は知ってたけど…。やっぱ葵の例の件が大きい…。うちに来てからまぁ話す事も多くなったし…。裏表なくハッキリ言うとことか、媚びないとこが良い。」
ハルはやっぱりノリちゃんが好きみたいだ。
「葵は彼女とそういう話するのかよ?例えば…俺の事とか…。」
「まだしてない。私からすべきじゃないって思うから。相手がハルだから余計押し付けがましくなっちゃうしね。それにさ、ハルも聞いてるでしょ?…前の彼氏の事。平気な顔してるけど、まだ引きずってるみたいだし。まだあんまり自分の恋愛の話したくないみたいだからそっとしておこうと思って。でも、時々ニヤニヤしながらスマホ眺めてるよ?あれってハルとのやりとりでしょ?」
ノリちゃんも、きっとハルの事が好きだと思う。ハッキリは言わないけれど、ハルがいる時はなんだか様子が違うもの。
「あぁ…確かににやけるような内容かもな…。元カレの話はなんとなくだけど聞いてる。まぁ焦らず…そのうち考えてみる。」
なんだか歯切れの悪いハル。
一体どんな内容のメールをしているというのだろうか?気になったが、聞くのも微妙なので聞かない事にする。
「ところで、そっちはどうなんだよ?さっきあんな話聞いといて…葵にしては珍しく食いついてたじゃん?」
あんな話とは、ハナちゃんの初めての話。
私はその手の話があまり得意ではない。遼ちゃんも、慈朗ちゃんも、颯ちゃんも、そしてハルも割とそういった話をオープンにするタイプ。私がいても構わず話すので、免疫が無いわけではないけれど、出来たら聞きたいものじゃないし、必ずと言っても過言で無い程からかわれるので、それを含めてスルーする技術を身につけている。
そんな私が、自分からハナちゃんに質問するのがハルにとっては珍しかったのだろう。
「やっぱそういう覚悟も必要かな…って。」
みっくんと付き合っている以上、避けては通れないのはわかっている。
「焦らなくても良いとは思うぜ?充なら葵が嫌がるなら無理にはしねぇよ。」
みっくんはちょっと強引なところもあるけど、すごく優しい。最近は私の事をちゃんと見ていてくれるから、ハルの言う通りなんだけど…。
「やっぱり、友晴に言われた事気にしてんの?」
ハルに言われた言葉に私は頷いた。
『葵ちゃん、みっくんモテるから気をつけてね〜。みっくんの童貞狙ってる子もいるんだよ?知らなかったでしょ?そういう子ってさ、強引だし…葵ちゃんていう可愛い彼女がいてもみっくんと寝れたらそれで満足だからさぁ。ウカウカしてたらマジで寝取られちゃうよ?もしそうなったら、トモくんがいつでも慰めてあげるから声かけてね〜。』
「まぁ、ガセだと言い切れないのが辛いよな…。でもさ、それを葵に言うとか友晴も酷いよな。」
ハルが苦笑しながら言う。
「仕方ないよ…みっくんカッコ良いもん。友晴先輩なりに応援してくれてるんだよ…多分。」
みっくんはカッコ良い。すごく整った顔だと思う。それに優しいし、面白いし、運動神経も良いし、私以外に向ける笑顔はキリッとして特にカッコ良い。モテる条件をバッチリ満たしている。そんなみっくんがモテ無いはずもなく、今は私との事をみっくんが全面にアピールしているので、言い寄ってくる子は前ほどいないらしいが、密かにみっくん狙いの子は多いはず。
「葵、だからって無理する事無いって…。」
「でも、嫌だもん。」
「気持ちは解るけど…。」
「みっくん大好きだもん。独り占めしたいもん。大好きだからいっぱいキスしたいし、くっついていたいし、みっくんに髪とか顔とか触れられたい。それに…一緒に寝たいし…ってそのままの意味だからね!?…今日聞いた話ってその延長にある事な訳わけでしょ?まだ心の準備はできていないけど、他の女の子にそんな事される位なら…。」
私、何言っているだろう。
「葵、不安なのは解るけどさ、充の事信じてやれよ。」
「みっくんの事は信じてるよ。でも、相手が強引だったら?みっくんが拒んでも、みっくんが襲われちゃうって可能性はゼロじゃないんだよ?…他の子がみっくんに触れるとか…嫌。」
「葵…お前、友晴に何言われたんだよ…。」
ハルは心配そうな顔で私を見た。
友晴先輩には不安を煽るような事をたくさん言われた。でも、それは事実で、身体の関係は全くなかったけれど実際三上さんとの事もあった訳だし…。
「いいなぁ…ハルは。みっくんにシャンプーしてもらえて。私も一緒にお風呂入りたい…。」
三上さんの事を思い出して、苦しくなった私は慌てて話題を変えた。
冬はお湯があっという間に冷めてしまうのと、なかなかお風呂の順番が回ってこないので、最近ハルとみっくんは一緒にお風呂に入ることが多い。
みっくんは昔からシャンプーするのがすごく上手いので、みっくんにシャンプーしてもらうと超気持ちいいのだ。
それを知っているハルは、しょっちゅうみっくんにシャンプーしてもらっている。
私はそれが羨ましくて仕方なくて、でも一緒にお風呂に入りたいなんて言えるわけもなく、最近はちょっとキスしてるだけで慈朗ちゃんがちょっかい出してくるので、お風呂なんてハードルが高すぎる。
腕時計買った日に、あんな姿を見られて以来、慈朗ちゃんがやたらと私たちに絡んでくるのだ。
「じゃあ一緒に入ればいいじゃん?」
ハルはいとも簡単にそう言う。
「いやぁ…無理でしょ?」
「俺は気にしないけど?慈朗も颯太も酷いよな。自分たちは、大して好きでも無かった女の子でさっさと童貞捨てた癖にさぁ、充の邪魔ばっかして…。」
ハルの口からサラリと衝撃的な発言が飛び出した。
「ハル…何気に今のショックなんだけど…。」
「あれ?葵知らなかったの?慈朗なんて酷いもんだったぜ?颯太も大差無いか。何しろ遼太郎の…。」
「もうそれ以上言わないで…地味に凹むわ…。」
「悪りぃ、忘れてくれ!」
ハルはそう笑ってごまかした。
「葵、水着着て入ったらいいんじゃねぇの?」
「それ実はこっそり言ってみた事あるんだけどね…実は慈朗ちゃんに聞かれてて、慈朗ちゃんも一緒に入るって…。」
「慈朗も必死だな…。」
「きっと受験勉強でストレスたまってるんだよ…間違いなく私をからかってストレス解消してるよね…」
それで、慈朗ちゃんの受験が上手くいくなら我慢しようとみっくんと話をした。そして、勉強の邪魔をしてもいけないので、家でイチャイチャするのは控えようと昨日話したばかり。
現状、キスをコッソリするのが精一杯で、お風呂もそれ以上の事もとても出来る様な状況では無い。
だから余計に焦るのかもしれない。
「お互い一筋縄ではいかなそうだな。」
ハルが苦笑しながら言った。




